最年少ダンジョン配信者の僕が、JKお姉さんと同棲カップル配信をはじめたから

タイフーンの目

文字の大きさ
上 下
61 / 116
第5章 夜も激しくなりそうです

第61話 女子キャプテン(前編)

しおりを挟む


「おや、金田先生ご機嫌ですね?」
「えっ? そうですか? そんなことありませんよ」

 職員室に戻った羽美は、副担任の山本教諭から声をかけられて、鼻歌交じりにそう返答した。

 自分のデスクについて、クラスの仮入部届を丁寧に整理していく。
 たった2日間の体験入部で、他に優先事項がある以上は本入部には至らないだろうが、それでもテニスの楽しさを教えられたら最高だ。

「羽美先生――」

 と、羽美の背中に声がかけられた。
 女子生徒だ。

「ああ、早川《はやかわ》さん。どうしたの? 今日のメニューのこと?」
「それもありますが――仮入部の人数は決まりましたか?」

 彼女は3年生の早川《はやかわ》有紗《ありさ》。
 羽美が顧問を務める女子ソフトテニス部のキャプテンだ。羽美は男子と女子、どちらについても顧問をしていて、練習も合同で行っている。

 責任感の強い有紗は、練習の仕切りのために事前に羽美のところまで確認にきたらしい。

 スラッとした体型で、黒髪を左右でおさげにしている。メガネの似合う涼しい美貌。生徒会長まで務めている、文武両道を絵に描いたような優等生だ。もちろんセーラー服を着崩すなんてことはなくて、姿勢だっていい。

「今年も多いよ、仮入部の1年生。嬉しい限りだよね」
「はい。テニスの魅力を余すことなく伝えられるよう、私も誠心誠意、努力します」
「そんなに肩肘張らなくていいんだよ? いつもどおりの私たちを見てもらいましょう」
「そうはいきません。仮入部とはいえ、1年生にとっては一期一会の機会。貴重なその時間を、中途半端には終わらせられません」

 責任感が強すぎるというか、固すぎるというか。羽美も頑固なところがあるので人のことは言えないが、有紗にはもっとリラックスできるよう指導しているつもりだが、なかなか上手くいってない。

 と、有紗は羽美のデスクに置いてあった仮入部届に視線を落として、

「…………『遠野蓮』」
「あ、知ってる? もしかして早川さんもダ――」
「ダンジョン配信者って、私キライです」
「――――」

 同好の士を見つけたかも? なんて思ったが甘かった。

「魔力なんて危険な力で強くなった気になって。それより、現実の心身を鍛えるべきです」

 こういう思想の人は少なからずいる。羽美の両親もそうだった。おかげで羽美も、大学でアイビスの配信に出会うまではアンチ・ダンジョン配信だったくらいだ。

「ダンジョンでだって苦労している人もいるし、現実で活かしてる人もいるんだよ?」
「いたとしても、全員が全員ではないですよね。――中には『』もいるって、今日もクラスの子たちの噂になってました」
「あ、あー…………」

 それに関しては心当たりがあって何とも言えない。そして自分も、そんな配信に夢中になっているなんて、言えるはずがなかった。

「とにかく。たとえ世間の人気者だろうと、部活では平等に扱いますので。いいですよね、先生?」
「も、もちろん……!」

 これではどちらが教師か分からないが、蓮への推し活のことは学校では隠しているだけに、どうしても歯切れが悪くなってしまう羽美だった。

「いやぁ、でも意外と早川さんも好きになるかも――」
「年下の男の子なんて。私、か弱くて頼りない男性はキライなんです。ルールを守れない人も」
「ルール違反は別に――」
「その仮入部届、今日になって提出されたんですよね? 提出期限を過ぎてます。羽美先生の手間をかけさせてます。とにかく、私が年下を好きになるなんて、絶っっ……っっ対に、ありえませんので」

 断言する有紗に羽美は苦笑いするしかなかった――ちょっとだけ、過去の自分に似ているようで。


 ■ ■ ■


「1年生の皆さん。女子キャプテンの早川有紗です」
 
 放課後。
 初々しい体操服姿の新入生を前に、有紗はきっぱりとした口調で名乗った。

 男女合同での練習。男子のキャプテンもいるが、部員からは有紗のほうが頼られているので、こうして仮入部生のお世話も任されている。

 集まったのは21名。横2列に並ぶ彼ら彼女らは、1年生なので体格は男女でたいして変わらない。そしてその中には――

(彼が『遠野蓮』――)

 列の隅っこのほうで、覇気のない様子でいる小柄な男子。話に聞くところでは大人顔負けの活躍をしているそうだが、とてもそうは見えない。印象としては、『これまでスポーツに縁のなかった新1年生』といった感じだ。

 ……ただどちらにせよ、自分の好き嫌いで特別扱いをするつもりはない。視線をすぐに全体に戻して、

「新入部員はランニングや素振りが中心になりますが、この仮入部では、あとで簡単にラリーを……ボールを打ち合ってもらいます。その前に基本を――」

 ラケットの握り方と、素振りの方法。テニス未経験の新入生も多く、ぎこちなさが微笑ましくもある。例の遠野蓮も初めてのようで、他の生徒と同じように不格好なスイングを見せている。

「――しばらく私たちがラリーのお手本を見せるので、見学していてください」

 有紗も他の2、3年生とともに、抑え気味のラリーに参加する。1年生たちは大人しく、ラケットを持ったままこちらの姿を見つめていた。

(……あの子)

 遠野蓮からの視線を感じる。4面あるコートで、合計8人でラリーをしているのに、彼はじっと有紗のことだけを目で追っていた。

 ひと通りラリーを見せてから、先輩たちのスイングを参考にもう一度素振りの練習をさせる。そのときに、さりげなく彼に近づいて有紗は、

「あなた、ずっと私を見ていたけれど」
「え、あ、はい……」

 見て分かるほどの人見知りだ。やっぱり、こういうタイプを好きになることなんてないだろうな、と確信する。

「――どうして?」
「あ、いや…………、誰よりも綺麗だったから」
「き、きれっ――!?!?」

 有紗は、告白を受けたことはある。中学に入ってからこれまで、3度ほど。

 こちらから好意を抱くには至らなかったのでお付き合いをしたことはないけれど――しかし、こんなにストレートに『綺麗だ』なんて言われるのは初めてだ。

「ぶ、部活中になにを」
「フォーム……。一番綺麗で、参考になった」
「フォ……、そ、そうよね! フォーム……!」
「?」
「う、羽美先生をお手本にしているんだから、当然です!」

 顧問の熱血教師。有紗は、他のどの教師よりも彼女のことを尊敬している。

「羽美先生、あなたの担任でしょう? 先生は、大学1年生のころからインカレで――全国大会で活躍するくらい優れたプレイヤーだったんだから。足のケガさえなければプロになってたはずの人なの」
「ふぅん」

 と、噂をしていたら、遅れて羽美がやってきた。

「ごめんね、早川キャプテン。会議が長引いちゃって。どう? 仮入部のみんなは」
「ええ。……だいたいみんな素直でいい子たちです」

 ここまでのメニューを羽美に伝えてから、有紗は1年の指導に戻る。

「ではラリーを始めます」

 ようやくだ、と喜ぶ新入生たち。

「――男女混合で構いません。適当でいいので、まずは2人1組を作ってください」

 有紗の指示に、ガヤガヤと、思い思いのペアを組んでいく。

 だがその中で――
 遠野蓮は、絶望に顔を強張らせながら孤立していた。

「どうしたの?……ああ、奇数だから3人1組でもいいです。誰かに声をかけて――」
「…………」
「?」

 すーっと目を逸らす蓮。

(まさか……)

 話しかけるのが恥ずかしい? 見たことはないが、彼はダンジョン配信で大勢のリスナーの前に姿をさらしているはずなのに?

「はぁ……」

 見捨てるのは心苦しい。適当なペアを捕まえてトリオにしても良かったが――

「じゃあ私が組みます。それでいい?」
「……はい」

 少しだけ興味があった。配信者と呼ばれる彼らが、この迷宮の外でどれだけのか。

「行きましょう」

 ネットを挟んで対峙する。背の低い、今日初めてラケットを握った1年生男子。

 羽美も見ている。いつものジャージ姿で腕を組んで、人好きのする笑顔で。彼女は彼のことを買っていたようだったが……どう見ても素人以下。まともにラリーができるかも怪しい。

 実際、

 ――ぱこんっ

 蓮の打球は、勢いのないまま見当違いの方向へ飛んでいく。一方で有紗の打ったボールは、蓮の打ちやすい位置でバウンドするが、彼はまた変な方向へと返してしまう。

(まあ、こんなものね)

 ダンジョン配信者なんかに、この『現実』での活躍を期待するほうがおかしい。あちらでは有名かも知れないが、外では平凡な中学1年生だ。

 パシンっ

 人見知りで、体格もまだ育っていない。返球だってこの有り様で――

 スパンッッ!

「…………っ?」

 シュパッ、パシンッッ!!

(す、鋭くなって!?)

 ラリーを重ねるたび、蓮の打球が鋭さと正確さを増している。釣られて有紗も、強いストロークを打ってしまう。

「しまった――」

 新入生が拾える角度と速度ではない。仮入部の素人相手に本気を出しすぎた。

 だが、

 ――ザシュッ、スパンッッ!!

「っっ!?!?」

 蓮は瞬時に回り込み、同様の鋭さで返球してきた。予想しなかったそのボールは、有紗の足下を擦るようにバウンドして――背後の金網に、カシャンとぶつかって転がった。

 呆然とする有紗の対面で、蓮は一言つぶやいた。


「――――これは覚えた」

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

処理中です...