最年少ダンジョン配信者の僕が、JKお姉さんと同棲カップル配信をはじめたから

タイフーンの目

文字の大きさ
上 下
56 / 116
第5章 夜も激しくなりそうです

第56話 博士(前編)

しおりを挟む

「これが御殿場《ごてんば》ダンジョン……」

 彼――ダンジョン庁 総合企画課の新田《にった》伸吾《しんご》は、4年前に発生した巨大な塔を見上げてつぶやいた。

 まだ内部を探索中で安全が確保しきれておらず、されていないダンジョン。新田も、写真や動画で見たことはあっても実物を前にするのは初めてだ。

 職場で支給された着慣れない作業服と、ややサイズの合わないヘルメット姿で、新田はダンジョンへと歩み近づく。

 この周辺はかつて住宅地だったが、いまは随分と姿を変えている。一度はダンジョンの出現で廃墟と化したが、いまは多くの重機が入り、新たな街並みを作ろうとしていた。ダンジョンを中心とした新興都市を。

 御殿場ダンジョンのすぐそばまで来ると、作業員の姿が増えてくる。

「お疲れさまです」

 律儀に声をかけていくが、新田はそれら開発作業の担当ではない。

 総合企画課という部署は、ダンジョン庁の内部調整だったり、あとは、『他のセクションに所属しないすべての業務』を受け持つ苦労人的なポジションでもある。

 だから例えば――

〝四ツ谷ダンジョンの2階層になぜか現れた10階層のモンスターについての調査〟

 などという、前例のない案件を割り振られることもある。今回新田は、御殿場ダンジョンの調査にあたっているある人物に、この件について意見を聞きにやってきたのだ。



 ぽっかりと空いた1階層のゲート。これは、人工的に掘削した門ではない。まるでダンジョンの側から人間を招いているかのように、突如として開かれたエントランス。

 ――だが、それは2年前のことだった。

 このゲートを最初にくぐった人間は、外からの調査員ではなかった。ダンジョンの内側から、とある少年が歩み出てきたのだ。

 あり得ないことだった。
 発生したダンジョンに呑み込まれた人間が2年間も生存し、あまつさえ自力で脱出してくるなど。しかもそれが、脱出当時にしてもまだ10歳の少年であったからなおさらだ。

 当時、新田はダンジョン庁に入ったばかりで、御殿場ダンジョンの案件は先輩職員が担当していた。その先輩から話では聞いていたが、にわかには信じられずにいた。

(そんな彼がもう配信者デビューか……)

 しかし彼の活躍を目にしてしまうと、信じないわけにはいかなかった。最強の最年少配信者、遠野蓮。

 新田が担当する案件も、そしてこれから会う人物も、彼に関わりのあるものだった。『彼女』は、メールも電話にも取り合わないため、対面でしか情報を入手できないのだ。

 

 ゲートから御殿場ダンジョンに入る。
 まだ照明が不十分で薄暗く、だだっ広い空間が続いている。

 ゲートの大きさから、内部に入れられる重機は限られているが、ここでも着々と建設作業が進められていた。

 他のダンジョンがそうであるように、1階層は人類にとって最重要のエリアだ。
 探索のための研究施設、ダンジョン用の装備を作る工房に販売店舗、配信者用の各種施設などがひしめくことになる。そして何より大事なのは、リスポーン拠点だ。

 これは配信者のためでもあるが、ダンジョンを探索する者たちの安全確保がそもそもの目的だ。だから、他の施設に先駆けて真っ先に作られ、すでに稼働している。

 新田が目指すのも、そのリスポーン拠点。
 お目当ての人物はそこにいるはずだ。

 ――果たせるかな、『彼女』はそこにいた。

 リスポーンを可能にする大がかりな機械類。それらに囲まれて佇む、長身の女性。白衣を纏い、ボサボサの長い赤髪をがしがしと掻いている。

「あの、荒巾木《あらはばき》博士でしょうか――」

 その背中へと、おずおずと声をかける。

「アァン!? んっだ、テメェは? ブッ殺すぞ!?」

 いきなりの喧嘩腰。振り向いた顔は、不機嫌という以上に攻撃的だった。
 つり上がった大きな眼。細い顎。犬歯を剥き出しにして、今にも噛みついて来そうだ。

 美人には違いないのだが、狼のような獰猛さがある。D財団の理事も務める高名な研究者とは思えない容貌をしていた。

「アタシはいま取り込み中だ、見てわかんだろ!? 予定にない面会はお断りなんだよ!」
「だ、ダンジョン庁総合調整課の新田です。アポは取っていたはずですが」
「知らねぇし聞いてねェ!」
「ええ……」

 彼女は新田と同世代、二十代後半のはずだ。

 言われてみればそうも見えるし、一方でその落ち着きのなさは、やさぐれた学生のような風情もある。昔の時代の『スケバン』みたいな……。

(この人が彼の……遠野蓮の『いまの母親』か)

 どうにも、子育てする姿が想像できない。もっとも、彼女と彼は、D財団の研究者とその研究対象という立場。普通の親子という関係ではないのだろうが……研究者っぽくも母親っぽくもないのが何とも。

 新田が困惑していると、そばにいた彼女の助手らしい2人組が口を開いた。

「先日お伝えしました、博士」
「貴女は了承しました、博士」

 機械的ともいえる平坦な声。

 双子だろうか? 顔から服装までそっくりだ。荒巾木博士と同じように白衣を着た、2人の女性。とても若く見えるし、大学生なのかもしれない。

「アァ!? テメーらが言うんならそのとおりだろうな! 悪かったなァ、新田ァ!」
「は、はあ」

 怒られているのか歓迎されているのか、まったく剣幕を変えないまま荒巾木女史じょしは言う。

「ンで何の用だァ!? 事と次第によっちゃ、ぶっ殺すぞ!?」
「意味がわからないんですけど!?」

 理不尽だ。情緒が不安定――というか、情緒が高いところで一定しすぎていて怖くなる。

「用件もお伝えしました、アーカーシャ博士」
「貴女は歓迎していました、アーカーシャ博士」

 双子(仮)が、まるで準備していたかのように順に言葉を並べ立てる。

「『アーカーシャ』?」

 新田は眉をひそめた。

「博士のお名前……研究や財団で使っている秘匿用の名称なのですか?」
「ハァ!?!? アタシのだよ! 荒巾木アーカーシャだ!」
「え? 資料では、博士のお名前は『荒巾木た――』」
「アーカーシャだ!」
「いやいや、『荒巾木た……」
「荒巾木アーカーシャ! それがアタシの真名《まな》だッッッ!」

 本名を口にしようとしたら、本気でキレられた。怖い。

「ま、まな……?」
「魂の名だ! 格好いいだろ!? なあ、グリとグラぁ!」

 助手のほうを振り返る。

「おっしゃる通りです、アーカーシャ博士」
「私たちはグリとグラではありません、アーカーシャ博士」

「ほらなァ!?」

 と、言われても。
 どうやら戸籍のものとは別の名で呼ばせているようだ。格好良いからという理由で。

 あまりこの件に深入りしても成果がなさそうなので、新田は取りあえず不思議な雰囲気の双子について話題を変えた。

 荒巾木博士は博士で異常なのだが、こっちの2人も気になる。

 色素の薄い肌と、青い瞳。プラチナブロンドの長い髪で、1人はそのまま背中に流しており、もう1人はふたつに分けて三つ編みに結んでいる。凹凸の少ない細身のスタイルで、背は低い。

 耳こそ尖っていないが、物語の中の『エルフ』の少女とは、こういう風貌なのかもしれない。

「こちらの方々は荒巾木……アーカーシャ博士の助手ですか?」
「見りゃわかるだろがよ!? 双子ってことに価値がある。双子は最高だ! アタシの『お姉ちゃん』を思い出すからなぁ!」
「…………。博士も双子でいらっしゃるのですか?」
「モチロンだ! 双子以外にあり得ねぇだろ!?」

 いや知らんがな……
 と、思わず素で言いかけそうになるが、絶対に喧嘩になりそうなのでグッと抑えておいた。

「お姉ちゃんは最高だ! アタシのような劣等とは違って、とびきり優等だからな!! 優等すぎて、世界の敵に回るほどだからなァ!」
「敵……とは?」
「敵は敵だ! 倒すべき相手だ! ブッ潰さなきゃ、人類がブッ潰されるほどのなァ!! ダンジョンを使って、とんでもないことをしようとしてやがる!」
「え、はあ……?」

 なんというか、初耳だ。
 この人の言うことをどこまで信じていいのか分からないが。
 
「双子だからこそ、コイツらを助手にしてるんだ! まあコイツらはどっちも優等、アタシみたいなのとは違うけどなぁ!」

「光栄です、アーカーシャ博士」
「ご謙遜を、アーカーシャ博士」

 ニコリともせずに2人が言う。

「謙遜なんざあるわけねェだろ!? アタシは思ったことしか言わねェ! アタシに出来るのは、せいぜいお姉ちゃんの野望をブッ潰すことだけだ!」

「それこそが希望なのです、アーカーシャ博士」
「がんばってください、アーカーシャ博士」

「なぁ新田ァ!」

 初対面なのに、なんだかもう呼び捨てが当たり前になっているが、訂正するのも面倒なので「はい」とだけ応じておいた。

「コイツら、こう見えて1人は男なんだぜ!? 見て分からねぇよなぁ!?」
「え、そうなんですか?」

「違います、新田」
「貴方の目は節穴ですか、新田」

 辛辣。

「アァ? そうか、どっちも男だっけか? いややっぱり1人が男だったよなァ!? うん? やっぱ女か?」

「どちらでも構いません、博士」
「どちらでもあるのかもしれませんよ、新田」

「ま、惑わさないでくれますか……?」

 ダメだ。
 この3人と話していると頭がおかしくなりそうだ。D財団の中枢にいる人間は変わり者が多いとは聞いていたが、まさかここまでとは。

 新田は本題に入る前に、ぐったりと疲れ果ててしまった。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...