最年少ダンジョン配信者の僕が、JKお姉さんと同棲カップル配信をはじめたから

タイフーンの目

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第4章 ギャルお姉さんにも好かれています

第54話 反響:シイナ

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「シイナさんおはようございます……でもないですよね~。どっぷり夜ですしねぇ」
「あっ、あっ、はいぃ……」

 四ツ谷ダンジョン1階層を訪れたその女性配信者――シイナは、マネージャーからジト目で睨まれて、ゆ~っくりと視線をそらした。

「約束の時間から3時間も過ぎて――今日こそはゴールデンタイムに配信しましょうね、ってお願いしてたのに」
「お、起きられなくて……」
「シイナさん、よく一人暮らし出来てますよね? ご飯は食べてますか?」
「と、ときどき……ポテチ」
「ときどきポテチ!? 倒れますよ!?」
「眠って体力回復……で」
「はぁあああ」

 マネージャーは盛大に肩を落とす。

「寝坊だけならまだしも、そういう生活習慣だから心配になるんですよ。寝てるのか、1人でブッ倒れてるのか、こっちは区別つかないんですからね?」

 シイナは、アイビス所属のダンジョン配信者だ。それもチャンネル登録者数は200万人を超える、18歳の若きエース。

 綺麗な銀色に染めたロングヘアーはしかし乱れがちで、折れそうなほど華奢な体型を、もっさりしたジャージで包んでいる。
 
 彼女の本質は、ひきこもりの自堕落人間。可能ならば日の光も浴びたくないし、出来ることなら夜の街灯にだって照らされたくない。
 
 家でいい。家がいい。自分の部屋が一番だ。

 それなのに、なぜこんな商売に身をやつしているのか。
 答えは単純。
 これがシイナに一番向いているからだった。 

「次のコラボ相手も決まったんですよ? デビューしたての新人、遠野蓮くんと」
「ふえ……?」

 これは寝耳に水だった。
 さっきまで寝ていただけに。

「ちゅ、中学生と……!?」
「そうですよ。彼はまだナイトライセンスを持っていないので、昼間にコラボの予定です。だから早起きの習慣を――って、シイナさん?」
「こ、怖い、中学生、こわいっ……!」
「何か嫌な思い出でも?」
「そうじゃない、ですけどぉ」

 シイナの中学生時代は、とにかく教室では気配を消して、しゃべらず動かず、ただただ時間が過ぎるのを待つだけだった。ゲラゲラ、ケラケラと笑う同級生たちを別の生き物のように眺めていた。

 前髪を両目が隠れるほどに伸ばしたのもその頃からだし、本格的に猫背が染みついたのも中学の頃だった。

 特にイジメられていたわけではないが、ただずっと『ここは自分の居場所じゃない』と強く感じていた。

 だからトラウマがあるとかではなのだけれど――苦手な人付き合いの中でも、そのくらいの年代には苦手意識が強いのだ。

「し、思春期ですよ、思春期……自意識が肥大していて、成長期で……身長が1年間に10センチも伸びて……! 喉仏だって! こ、怖いっ」

 震えるシイナ。

「うん。まったく分からない感性です。歳だってたいして変わらないじゃないですか」
「違いますよっ!? わたしもう18だし……成人だし……」
「だったら大人らしく年下の男の子をリードしてあげてください。そしてその前にちゃんと起きて、ちゃんと食べてください。いいですね?」
「ふ、ふぃい……」

 遠野蓮の配信は、いちおうチェックしたことがある。あまり興味はなかったが、マネージャーからの言いつけで仕方なく切り抜き動画を視聴したのだ。

 コミュ障だった。
 がっつりコミュ障だ。
 自分と同じ……。同族嫌悪とはこういう感情を言うのだろう。あとは共感性羞恥。

 それもイヤなのだ。相手が中学生というだけでなく、自分と似たタイプだから会いたくない。

「彼の今日の配信は――まあ、見てませんよね。さっき私にたたき起こされたんですし。梨々香さんともコラボしてたんですけどね」
「――――ッ、ふえっ?」

 梨々香の名前を聞いて、シイナの全神経が反応する。

「り、梨々香ちゃん!? 梨々香ちゃんとあの中学生がコラボ……!?」
「ちょっと共闘しただけですけど。なかなかいいコンビでしたよ」
「ふぇえ!?」

 寝起きだった頭の中が、グチャグチャにかき乱される。

「わ、わたしの梨々香ちゃんが……」
「そうですよ。シイナさんの大好きな梨々香さんと、です」
「い、いやがる梨々香ちゃんに迫って……!?」
「違います。むしろ、梨々香さんが積極的にアプローチしてましたねぇ」

 嘘だ、彼女があの朔《さく》とコンビを組んでいるだけで信じられないのに……!

「梨々香ちゃんは太陽……太陽は嫌いだけど、梨々香ちゃんは別……っ! わたしに優しい、わたしだけの女神……!」
「貴女だけの梨々香ちゃんじゃありませんよ。誰にでも気さくに話しかけられる、みんなのアイドルです。遠野くんにもその調子で絡んでいましたね」
「あわあわ……!」

 あわあわ。
 アイビスに所属することになって、マネージャーとも目を合わせられなかったシイナを、優しくフォローしてくれたのが梨々香だった。

 まぶしい笑顔。自分とは対極の存在。
 シイナの最推し。ガチ女神。

 そんな梨々香に、男の影が迫っている……!?

「さあ、配信の準備しましょうね」 

 茫然自失のままマネージャーにズルズルと引っ張られて、レンタルスペースの個室へ押し込められる。

 頭では別のことを考えながらも、家から着てきたエンジ色のジャージを脱ぎ捨て、配信用の衣装に着替えていく。


 シイナ専用の装備――【夜嵐《よあらし》】。


 ダークネイビーのナイトドレス。Aラインのワンピースタイプで、スカートの左足には深いスリットが入っている。魔力に反応して特殊な効果を発揮する、オーダーメイドのドレスだ。

 夜に溶け込むその色は、シイナの色素の薄い肌とくっきりとした対比を生んでいる。

 肘まであるレースのオペラグローブに手を通し、ヘアピンで前髪を留めて片目を露出させ、薄紫のピンヒールに細い足をはめ込む。

 この衣装を着ると自然に背筋が伸びる。
 そして、戦闘モードに切り替わる。
 肉体も、精神も。

 も仕上げだ。
 左右の太ももに巻いた黒いバンドに愛用の武器――ダンジョン用のをそれぞれ取り付ける。

「…………」

 覚悟は決まった。
 
「…………ヤってやる」

 姿見に映る、自分のドレス姿。
 普段とはガラリと変わった冷徹な美貌。実際、シイナのこの姿に惹かれてフォロワーになっている者は多い。

 だがそれ以上にリスナーを惹きつけているのは、彼女の戦闘――その規格外の強さだ。梨々香たち上位クラスの配信者でも相手にならない、苛烈なスタイル。

「梨々香ちゃんは、わたしが守る――」
 
 シイナの、露わになった右の瞳には青い炎が燃えさかっていた。

「遠野蓮――……覚悟……!」

 大人げない殺意とともに、彼女はそうつぶやいた。
 

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