49 / 116
第4章 ギャルお姉さんにも好かれています
第49話 報酬
しおりを挟む梨々香の【ルミナスアロー】で射出された蓮の目前に、
『キィイイイっっ――!』
数体のウィムハーピーが迫る。
「――――っ!」
急激な方向転換。蓮の体には強いGがかかる。
梨々香は、蓮のオーダーどおりに【ルミナスアロー】を操ってハーピーの群れを器用に回避してくれた。
ぐんぐんと上がる高度。【雲の監牢】が迫ってくる。それは、空に作られた監獄。どこか卵を想起させる、巨大な楕円の牢。
蓮は大剣を構え、【ルミナスアロー】の軌道と呼吸を合わせて――雲の一端を切り裂いた。ぶわっ、と強風とともに内側から白い雲が流れ出す。一瞬見えた内部。白い乱流。規則的に循環する雲が、幾人かのプレイヤーを捕らえていた。
だが蓮が見ていたのは――
(――――あそこか)
風の流れ、雲の流れ。魔力の流れ。
それらから【雲の監牢】の中心部を推測する。
【ルミナスアロー】の推進力は【雲の監牢】の上端を追い抜いたところで停止し、光の矢は霧散した。
ここまで来れば十分だ。
あとは蓮の力で中心部を貫けば――
『ギュィイイイっっっ!』
クイーンハーピー。
巨大な卵を守護する、ハーピーの女王。憤怒に満ちた形相。風を掴む大きな翼。
殺すのは容易いが、ハーピーは斬らないと決めた。だから、
「――どいてくれる?」
『ギュイっ――!?』
殺意だけを斬撃にして投げつける。クイーンハーピーはエリアボスとまで呼ばれるモンスター。どこかの、実力差をわきまえない、強さをはき違えた人間とは違う。野生の感性を持ち合わせた相手だ。
『ピ、ピィイっ……!』
――逆らってはいけない相手だ、と彼女は即座に悟った。もしも敵に回せば、眷属もろとも根絶やしにされてしまうと。
「いい子だ」
自由落下する蓮は、重力魔法で中空に足場を作る。空に足を向けた状態で、その足場をドンっと蹴る。
大剣を両手で構え、戦意を喪失したクイーンハーピーのそばを通過し、【雲の監牢】へと突入。
「――――っ、……――っっ!」
まとわり付いてくる雲が魔力を奪っていくのを感じるが、構わない。視界も最悪。だが方向は見失わない。
速度を維持したまま、先ほど見抜いた中心部へ。雲の渦が塊となったそこへと大剣を突き立て、穿ち――
【雲の監牢】を破壊した。
■ ■ ■
「おお~~っ! レンレンさっすが!」
地上の梨々香は、一連の様子を眺めて感嘆の声を漏らした。
「やっぱ梨々香も天才だねっ、本番で一発、大成功っ!」
・さすりり!
・いつ見ても魔力コントロール天才的です
・人間飛ばすとか最強スキルじゃん!
「いやー、レンレンよく耐えたなぁ。バラバラにならなくって良かった良かったぁ☆」
・えっ
・バラバラ?
・どゆこと?
「【ルミナスアロー】は攻撃スキルだもん。出力を抑えればダメージは下げられるけど、さっきのは『全開』だったし」
人間サイズのものを遥か上空まで打ち上げる必要があったのだ。
「もち、レンレンを壊しちゃわないように調整はしたよ?……でも【ルミナスアロー】あんなふうに動かしたら、普通の人なら手足がもげて、体がグニャアってなって爆発四散してたかも! レンレンがうまく対応してくれて良かったよ。結果オーライ! てへっ☆」
・てへちゃうわw
・エグくて草ァ!
・ギリギリセーフ?
・蓮くん死ぬとこだったんかw
◎梨々香ちゃんになら、バラバラにされても本望ですお願いします!
・まあでも梨々香ちゃんが可愛いから……ヨシッ!
「おお? レンレン、本気でみんな助けちゃう気かぁ」
梨々香に見上げる先、壊された【雲の監牢】から、囚われていた配信者たちがバラバラと落下していた。そのまま落ちていけば、魔力を吸われているだろう彼らは地面に叩きつけられて、やはり絶命するだろう。
蓮は重力魔法で跳躍しながら、彼らを救出している。抱きかかえられないまでも、首根っこを掴み、あるいは風魔法で落下の衝撃を和らげるように。
しかし、それだけでは全ては救えない。
――そのとき。
はるか遠くの蓮が、チラッとこちらを見た気がした。
「…………っ!」
ここまで彼の想定内か。
それだけ、梨々香の実力と性格を信じてくれているとも取れる。梨々香はなんだか嬉しくなって、
「どこまでもナイト様だね、レンレンっ! 手伝うって約束したし、梨々香もやるよ~?【ルミナスアロー】――落下ダメージなんてキャンセルしちゃえっ!」
出力調整した光の矢で、配信者の体を側面から打つ。落下速度を緩めて、ダメージを最小限に留める。
ドサドサっと地面に転がる配信者たちは、誰一人リスポーンすることはなかった。それを確認した梨々香はカメラに向かって、渾身のギャルピースをキメた。
「いぇい! 梨々香たちのアイビスパワー、見たかっ☆」
リスナーたちはもちろん、おおいに湧いた。
■ ■ ■
無事に【雲の監牢】を破壊し、地上へと戻ってきた蓮は当惑していた。
「ありがとうっ……!」
「助かりました、ありがとうございます!」
「あのままハーピーに食べられるかと――」
10人ほどの配信者たちに囲まれて、謝辞を受け続けていたからだ。
「やっほーレンレン、おっつかれー!」
梨々香もやってきた。
「リスポーンした人いない? そっかー、レンレン本当にみんな助けちゃったんだね」
ハーピーたちは、クイーンへの蓮の『ひと睨み』が効いたらしく、女王に引き連れられて山岳地帯へと引き上げていった。襲撃は終わったものの、さすがにもうクエストは続行不能だろう。けっきょく、金の羽根は1枚も手に入れられなかった。
「あのさ、良かったらもらってくれないか?」
「え?」
20代らしき男性配信者が、自分のポーチから金羽根を取り出して蓮に差し出す。それを皮切りに他の配信者たちも、
「私のも。あのままだったら、どうせ全部ロストしてたし」
「そうだな。オレらを見捨ててたらまとめてゲットできてたんだしな」
「え。いやそんなつもりは……」
もとより蓮はプレイヤーキルをするつもりはなかった。ルール違反な行為ではないが、どうにも気乗りしなかったからだ。
見殺しにして回収するなんて考えもしなかったし、こうして譲られても困ってしまう。
「いいじゃんレンレン、もらっときなよ。みんなの厚意なんだし!」
「でも半分は梨々香先輩の――」
「梨々香はレンレンに頼まれたことやっただけだし? あとのことは知らなーい。んじゃね☆」
「あ、ちょっ、先輩――」
それだけ言うと、梨々香はさっさと去っていってしまった。
「遠野くん、ほら受け取ってくれ」
「私たちの気持ちだから!」
「あんたが1位になるべきだよ!」
「…………」
みんなから捧げられる金色の羽根。
――蓮はちょっとだけ、色んな人間から贈り物を突きつけられるウィムハーピーの気持ちが分かった気がした。
■ ■ ■
『トラブルもありましたが、大盛況だった本日のイベントクエスト【気まぐれハーピーの金羽根】!!』
司会者のアナウンスが、1階層のイベント広場に響いた。
『もっとも多くハーピーの金羽根を手に入れたプレイヤーは……、MAKITOさんっっ! おめでとうございま~~~ッす!!』
会場からは拍手が起こり、壇上では男性配信者が1位の報酬であるシャドウブレードを、スーツ姿の男性――マキ・テクノフォージの社長から授与されていた。
「良かったのレンレン? 梨々香はエレメンタルバングルもらえたからいいけど」
さっきまで壇上にいた梨々香が、蓮の隣までやってくる。彼女は自力で入手した金羽根の成績で、3位の報酬を受け取っていた。
「助けた人たちから受け取ってれば、レンレンが1位だったのに」
けっきょく蓮は謝礼を固辞して、0枚の成績のままクエストを終えていた。
「1位になれば配信的にも映えてたのに。もったいなーい」
「それはそうだろうけど」
「報酬のシャドウブレードもさ、あの大剣に負けないくらいの逸品らしいよ?」
「ああ、これ……」
そういえば、たくぼうが使っていた大剣を携帯したままだった。
「返してくる」
「え、アイツに?」
「いやその辺のスタッフにでも。あの会社の関係者だって言ってたし。っていうかこれ――」
「ん?」
「これ持ってるとアイツの顔思い出してイヤだし」
「それは確かに!」
梨々香も納得した。
「それはそれとして……レンレンってさ」
「?」
「ドライに見えるけど、ドライじゃないよね。……うん。結乃ちゃんみたいに優しい子が一番お似合いなんだろうなぁ」
「な、なんすかそれ」
「あはは、わっかりやすーい☆」
笑って茶化してくる。
けれど梨々香は、ふいに真面目な表情になって、
「……でも。梨々香も本気になっちゃうかも。ガチでかっこ良かったよレンレン。今度はちゃんとコラボしようね」
言って、優しく微笑んだ。
130
お気に入りに追加
588
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる