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第4章 ギャルお姉さんにも好かれています
第46話 実力差(後編)
しおりを挟む面倒だ、と独りごちる蓮を見て、たくぼうは笑い声の混じった声で叫ぶ。
「スカしちゃってさぁ!? 本当は泣いて逃げ出したいんだろぉ!? 土下座してくれれば全部許しちゃっても――」
しかし、蓮はそちらには取り合わず、
「魔法効かなくても、関節全部外すとか? それとも物理でボディを殴り続けて内臓壊すとか……頑張れば中身をミンチにできるとは思うけど」
・蓮くん!?
・怖い怖い怖いw
・物騒でワロタw
・頭部破壊よりエグいって!ww
・結局グロ映像じゃんw
・蓮くんさんならヤリかねん……
・ゆのちゃんを馬鹿にされたらそういうこと絶対やりそうw
他には、鎧のつなぎ目に細かな斬撃を与えつづけて崩壊させる、といった方法も考えられる。実のところ、ただ倒すだけなら蓮にとっては造作もないことだ。
しかし、この手のタイプは心を折る方が効果的だ。
「そうだな――。アンタさ、得意なのは剣? それとも拳?」
「アァん!? つーか敬語は!? おいら年上なんだけど!?」
「どっちが得意? 魔法って感じじゃないけど――」
「無視すんなっつってんだろうがよォ!?!?」
蓮がなかなか自分のペースに乗ってこず、たくぼうは本格的にイライラが募っているようだった。もとより蓮は、まともに相手をするつもりなどない。
知能を持たない、鼻息が荒いだけのモンスターとコミュニケーションを取る気なんて、さらさらない。ただ、この相手は人語を理解できるので、
「まあ何でもいいや。付き合ってあげるから、掛かってきてよ」
逆に挑発してみる。
凝った言い回しではなかったが、効果はてきめんだった。
「……は、ははっ! 後悔すんなよ、このヤラセ雑魚がよぉおおおおッッ!!」
隙だらけの大振り。だが蓮は回避行動は取らない。腰のブロードソードを抜き、剣撃を合わせる。
ガインッ、と鈍い音。
金属の衝突というだけでなく、魔力と魔力がぶつかり合う独特な衝撃音だ。たくぼうの大剣は弾いたが、蓮のほうも衝撃に押し返されてしまう。
「おら次いくぞッッ!」
狂気染みた目つきで繰り出される二撃目は、猛スピードの横薙ぎ。蓮も魔力を籠めた斬撃を放つが、やはり威力は互角だった。
・蓮くん初めての苦戦か!?
・たくぼう、やっぱ強いんやな
・どっちの応援してんだよ!
・蓮くん足を止めないで! 攪乱《かくらん》するんだ!
「潰れろジャリガキっっっ!」
大上段に振りかぶっての斬撃には、蓮は振りあげる剣で対抗する。
またも互角。
「――――っ、……あぁんっ!?」
さすがに、まずは相対するたくぼうが異変に気づいた。遅れて蓮のリスナーたちも。
・なんかおかしくね?
・蓮くん不調?
・そうじゃないだろ、これって……
・まさか、合わせてるのか?
たくぼうの渾身の魔力が籠められた大剣。蓮は、その魔力の細微までを瞬時に見抜き、同等の速度と威力で応じる。
「面倒だよやっぱり。――遅すぎて」
「なッ、ぐぅっ……!」
悲しいかな、なまじ実力があるだけに彼は理解してしまう。たくぼうはスピードで勝負するタイプではないだろう。だがそれでも。たくぼうの攻撃を、蓮は見てからコピーしているのだ。
わずかな時間で真似て、剣筋を合わせ、ちょうど互角になるように。
どちらが強いか――どころの話ではない。圧倒的な実力差がなければできない芸当。それを理解してしまえることが、彼の不幸だ。そして、もし野生の獣ならば逃げ出しているこの場面で、プライドのために退けずにいることも彼の不幸。
「おいらが、こんなッ! う、りゃああああああぁッ!」
何度繰り返しても同じことだ。端から見れば『いい勝負』だが、すべては蓮の掌のうえ。激しい衝突のあとにたくぼうがよろめけば、蓮もよろめく。そのように調整しているのだから。
「こ、こんなの――
「「こんなのおかしいだろ、そんな雑魚装備でッ、おいらの――」」
…………ッ!?」
・今、声かぶった?
・蓮くんが合わせてる?
・声もかよw
「「このクソガキ、なんでおいらの……!」」
唇を読み、言葉になる前のかすかな呼吸音を聞き、声を重ねる。
「「だ、黙れッ! 黙れ黙れだまれ、黙れよぉおおっっ! おかしいだろ、卑怯だぞッ……!」」
駄々をこねる子どものような大男。
その言動をすべて、隅から隅までコピーしてやる。
・攻撃も声もコピーとかw
・それ悪役がやるヤツやで蓮くんw
・いいじゃん、あっちは『正義の味方』らしいし
・これもうスキルって呼んでいいんじゃないか?
・魔力を使わないガチの技能(スキル)ってことやな
「はぁッ、はぁっ、はあっ、はぐっ……!」
噛んだ下唇から流血しそうな勢いだ。
「――くっそがよぉっ!? なんで、なんでおいらばっかりこんな、こんな……ッッ! そ、そうだ、いいのかよ!? この映像、全世界に流れてんだぞ!?」
たくぼうは虚勢の笑顔をつくり、
「もちろんおいらも録画中! このまま続けたらテメェのイメージも……!」
「確かにね。マズいと思うよ」
蓮は素直に受け入れる。
「弱い者イジメなんて、幼稚な人間のすることだしね。僕はいま、死ぬほど恥ずかしいよ」
「う、ぐっ……!?!?」
・まさにぐうの音も出てないww喧嘩売ったらアカン相手ってようやく気づいたかw
・敵うわけないんだよなぁ
・蓮くんは違う意味で無敵の人だからな
・つーかコレ、たくぼうが情けないだけの動画だろ。蓮くんの評価は上がるわ
「フーーーーッ、フーーーーっっ! っそがよぉ、くそぉ、クソガキぃいいいっ……!」
目を血走らせ、全身に魔力を充満させて、たくぼうは大剣を腰だめに構えると、全霊を賭けた突進を繰り出してきた。
体重、筋力、魔力、装備の力を総動員した突きの一撃。
それを蓮は。
――キィンッ
剣の切っ先で受けた。細い片手剣のその尖端で。
拮抗する。
ピクリとも動かない。
「う、うぅう……ッ!?」
たくぼうの脂ぎった顔いっぱいに、絶望の色が広がっていった。言葉でも暴力でも敵わない者を敵に回したのだと、ようやく悟ったのだ。それも頭ではなく、体で。
すると、甲冑の膝がガクガクと震えだし、
「いひッ――!?」
その場で尻餅をついてしまった。
彼自身が何よりそれを信じられなかったのだろう。恥辱の感情で顔面をグシャグシャに崩壊させると、
「おいらは、おいらはっ! 正義の味方なんだぁあああああっっ……!」
絶叫し、這いずるように後退したあと、何とか立ち上がって逃げ去っていってしまった。
その姿を黙って見送った蓮は、一言だけ愚痴った。
「はぁ……。ハーピーどうしよう……」
■ ■ ■
「ぢぐしょ、くそッ、ちくしょぉおッッッ……!」
頭の中が怒りと羞恥で煮えたぎって視界が狭くなる中、たくぼうは全力で駆けていた。チャット欄のリスナーたちは、
・は? なに逃げてんだよ?
・え、今日の配信マジつまらんのだけど
・漏らした? ねぇ漏らした?ww
・アイツ本当に強いんだな、ヤラセかと思ってた
・あっちの配信見たほうが面白くね?
「うるせぇッ、黙れ黙れッッッ! 腐れリスナーどもがよぉッ! キサマら黙っておいらに金貢いでりゃいいんだよッッ!」
・余裕なさすぎだろ
・ダサ
・暴言はいつもだけど、配信が面白いから許されてんだよね
・いやある意味オモロイじゃんwwコイツ泣きそうだしw
調子に乗っている最年少配信者に、好き勝手言うしかない無能リスナーたち。
「なんでおいらが、おまえらなんかにッ――、許せねぇ、許さねぇからなッ!? そうだよ、こんなクソイベント、おいらが潰してやるッ! 全部ぜんぶ、滅茶苦茶にしてやるよっっっ!」
手にした大剣を強く握り込み、たくぼうは、今しがた思いついた妙案を実行することにした。
そうすることで、彼はさらに道を踏み外し、自分の首を絞めることになるのだが……。
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