45 / 116
第4章 ギャルお姉さんにも好かれています
第45話 実力差(前編)
しおりを挟む■ ■ ■
蓮はハーピーへの贈り物を探してさまよっていた。
道中、梨々香などの配信を視聴していたが、彼女をはじめ他のプレイヤーたちも着々と金羽根を集められているようだった。対して蓮は、いまだ収穫ゼロ。
ウィムハーピー個々の好みをリサーチする方針で進めていたが、もうこうなったら総当たりでいくしかないかもしれない。『贈り物』のほうは固定して、あちこちにいるハーピーにプレゼントして、気に入ってくれる相手を探す……という方法。
――なんだか、無鉄砲なナンパみたいだが。
そんなことを考えて肩を落として歩いていたときだった。背後から接近してくる者があった。
気配を察知するまでもない、無遠慮な距離の詰め方――
「……なんか用?」
蓮が振り返ると、こちらに伸ばしかけていた右手を止めて、その男は笑った。1階層で会った配信者・たくぼうだ。
「あ~れ~!? アイビスの遠野蓮くんじゃん!! 奇遇だねぇ!」
相変わらず声がデカい。
そして作り笑顔がうさん臭い。関わり合いになりたくない相手だが、今はどちらも配信中。大勢のリスナーに見られている以上、あまり無下にも出来ない。
「そういえばさぁ、さっきのこと! おいら、まだ謝ってもらってないんだよねぇ」
「?」
「さっきのだよ、覚えてねぇのか⁉︎⁉︎」
急に態度を変えての恫喝。
「テメェがおいらに喧嘩売ってきたんだろうがよ!」
「…………?」
「うっわ、シラ切るつもり⁉︎ マジでアイビスの奴らって最悪だな!」
「アンタがぶつかって来たじゃん」
1階層でのことを言っているなら、この男が梨々香にちょっかいを掛けようとしてきただけだ。
(まさか、そんな言いがかりが通用するとか思ってる? いや……)
何でもいいんだろう、目立てれば。そう悟ると、急に脱力感に襲われる。話し合いは得意じゃないが、話が通じない相手というのも厄介だ。
・蓮くん、コイツの相手はしないほうがいい
・人を巻き込んで炎上するタイプよこいつ
・さっきも他の配信者がやられてた
・やられてたって?
・殺されてた、ガチで。そんで金羽根を奪ってたぞ
・うわひど……
リスナーたちからも警告を受ける。確かに、関わっても損をするだけの相手だろう。
ただ、蓮は少し怒りを覚えていた。事務所の先輩に――梨々香に危害を加えようとしたこの男に。それに、プレイヤーキルはルールに則った行動だとしても、この態度は気に食わない。
「謝りもしねぇのかよ⁉︎ オラ逃げるなよッ!!」
「――逃げる?」
蓮は口元に淡い笑みを浮かべ、
「嘘つきの大人相手に――それも自分より弱い相手に、逃げる必要あるの?」
「……ハァ⁉︎⁉︎」
演技ではない本気の苛《いら》つきの色が見えた。
「みんな聞いたぁっ!? このクソガキこういう感じなんだよ、態度悪いっしょ!?」
向こうのリスナーを煽るその様子に、蓮はつい鼻で笑ってしまった。
「あぁん!?」
「いや、ごめん……小学生《こども》みたいだなって思って」
『敵』が現れると、懸命になって周りの大人に訴えかけるような。
「演技なんだよね? それも。参考になるよ――センパイ」
「~~~~っっ!」
・蓮くん敵対モード来ました
・ハーピーのときより活き活きしてるぞw
・オレらの蓮くんさん来たなw
「おいら、頭にきたっっっ!!」
顔を赤くするたくぼうは、背中に担いでいた両手剣を抜くと、
「生意気なクソガキに、正義の鉄槌をっっっ!!」
ドンッと地を蹴って一瞬で間合いを詰め、大剣を叩きつけてきた。フルプレートアーマーの巨体と、蓮の身長ほどもある大剣。そして、そんな重装備とは思えない速度――
《ビーーーーッ、ビーーーーーッッ!!!!》
配信者用のアラートが、蓮のイヤホンで鳴り響く。
「へぇ……」
上位クラスに認定されるだけの実力はあるということだ。だが、もちろんこんな攻撃を回避するのは容易い。
特攻を躱《かわ》しざま、無防備な胴体に掌底を食らわせる。雷魔法を籠めた一撃だったが――
装甲の表面で、雷撃が霧散した感覚があった。防がれた、というよりは、魔力そのものを無効化された感触。
「――――っ?」
「それがどうしたよぉっ!? 効かねえっつーのッ!」
・蓮くん、魔法効かないんやそいつ!
・アンチマジックアーマーか
・マキ・テクノフォージの最高級品だよ
・外側からの魔力を遮断するやつだな
・なにそれチートじゃん
スタンスティールでの武装解除も無理だろう。水のスタンスティールならあるいは通用するかもしれないが、あれは両手持ちの相手には使いづらいスキルだ。
「あれ~~? もしかしてズルいとか思ってるぅ? おいらの父ちゃんはマキ・テクノフォージの専務なんだよ、せ・ん・む! 分かる? クソガキさんは『専務』って聞いたことあるかなぁ!? 特権階級のおいらは、最新の装備なんて簡単に手に入っちゃうってワケ! 真の強者は装備も一級なんだよ、ざ・ん・ね・ん・でしたぁ!!」
・あの大剣も相当な代物だぞ、魔力伝導率が高いやつ
・もうこいつ、ヘカトンケイルでぶん殴ろう!
・いやたぶん無理、重力魔法も無効化される
・顔面狙おうぜ顔面!
全身をガチガチに固めているたくぼうだが、頭部はアンバランスに無防備だ。
・顔はグロ画像になりやすいから
・モザイク入るっしょ
・相手のカメラが録画モードだったら生の映像が残るんだよ、普通ならいいけどアイツにそんな映像持たれたらヤバイって
恵まれた体格と、潤沢な魔力に裏打ちされた運動能力、最高品質の装備――そして自分の配信スタイルに合ったシチュエーションづくり。さすがに配信者としてはあちらが一枚上手だ。まったく尊敬はできないが。
「アイビスの大型ルーキーさん? どうしましたかぁ? ホラホラ、ここ狙えば?」
自分の顔を差しながら、
「そんな度胸はないよなぁ!? 人を殺す覚悟なんてさ! お子ちゃまは『修羅場』なんて経験したことないもんねぇ?」
この男にとって、戦闘での勝敗はさして意味がないのかもしれない。むろん、自分の実力には自信があるのだろうが、おそらくは蓮の戦闘能力もリサーチ済みのはずだ。
だから最悪、蓮に頭部を狙われて敗北することも計算のうちなのだろう。
その時はその時で、『蓮が人体の頭部を破壊する映像』が手に入る。どっちがケンカを仕掛けたなどは問題ではない。ショッキングな内容でありさえすれば、この男にとっては利益になるのだ。
「……面倒だな」
と、蓮は小さくこぼした。
120
お気に入りに追加
588
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる