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第4章 ギャルお姉さんにも好かれています
第36話 カナミ
しおりを挟む「はい、蓮くんタオル」
結乃から渡された、柔軟剤の効いたふわふわのタオルで顔を拭く。
結乃とカナミ、そして運動していないはずなのに何故か真っ赤になった三条麗奈。明日からはこのメンバーで早朝トレーニングをすることになった。
なりゆきに任せた結果だったが、配信外でも結乃に戦い方を教えることができるし、蓮自身も肉体そのものを鍛えるいい機会だ。
カナミと麗奈も高校の探索科に所属しているらしく、格闘術の鍛錬になると前向きだ。
「中1くんの動画、人気だよね。私もコレで勉強してるし」
あのカップル配信以後、蓮はソロ配信を何度か行っている。
だが結乃のようにまだ上手くコメントに対処できないので、戦闘する姿を見せることに専念している。内容は単純で、蓮が戦闘する姿をただ中継するだけの配信。
高速戦闘ではリスナーが目で追えないので、速度を落とし、ゆっくりと丁寧に戦ってみせる。
(何が面白いんだ?)
と蓮は思うが、これが意外と好評なのだ。
カナミの言うように、配信者や、配信者の卵たちにとっては蓮の戦闘がよく参考になるらしい。
2階層だけでなく、3階層、4階層にも進んだ。いずれもまだ低層階とくくられる範囲だが――速度は抑えていても、蓮の戦闘は非常にテンポ良く、またモンスターのレベルに合わせた、各属性のスキルも駆使するので見応えがあるとの評判だ。
また他には、これは衛藤から聞いた話だが、リスナーの中には別の作業をしながら蓮の配信を隣で流す……といったスタイルの者もいるのだとか。余計なトークの入ってこない配信は、それはそれで需要があるみたいだ。
「中1くん、マジでファン増えてるよ」
「どうも……」
「アタシもその1人ね? 認知して、はい顔覚えてー?」
いたずらに顔をぐっと近づけてくる。
「も、もう覚えてるし……!」
「覚えてくれてるんだー? あんがと」
小顔で、目のパッチリとしたギャルお姉さんに接近されると、思わず後ずさってしまう。香水などは付けていないはずなのに、果実のようないい香りがする。
「あはは、照れてる照れてる」
「カナミ、いじめちゃだめだよ?」
「はーい」
カナミはひとしきり笑ってから、
「そういえばさ、結乃たち、週末はカップル配信しないの?」
「私は土曜日《あした》部活だし」
結乃とカナミは、高校で同じ部活だったはずだ。ダンジョン探索部のメンバー。授業だけでなく、放課後もダンジョンに関わる本気の生徒たちの集まり。
「それに日曜は蓮くん、【イベントクエスト】だもんね」
「お? 出るんだ」
現代社会と創作ファンタジーの入り交じったダンジョンでは、さまざまなイベントが催される。
その1つが、民間企業が主催になって行われる、通称【イベントクエスト】。企業が出すお題に沿って、参加者たちがダンジョン探索を進める形式だ。
配信者としては多くのリスナーによる視聴が見込めるし、企業は広報になるだけでなく、商品開発に必要な情報やダンジョン内のレアな素材を収集できるなどのメリットがある。
「私はまだまだ蓮くんの足を引っ張っちゃうからね。上の階層には行けないし」
蓮としては一緒に来てもらっても構わないのだが。結乃のことは絶対に守り抜くし。
「なるほどね。……中1くん。キミから見て結乃の戦闘センスはどう?」
「かなりいいと思う。すぐに成長するよ」
率直な感想を口にする。
「飲み込みが早くて、再現するのが上手い。素手よりは武器を使うほうがいいかな――自分の手の延長みたいに扱えてる」
「そ、そんなお世辞はいいよ……!」
謙遜して結乃は赤くなるが、これは贔屓目なしの意見だ。
「ま、この子は学年主席だからね、探索科の戦闘訓練も含めて」
「そうなんだ? そんな話一度も……」
「言わないところがまた優等生っぽいっしょ?」
「もう、カナミ……!」
「怒らせると可愛いし」
「……いや、怒らなくても」
「おお? 朝からのろけかー? んん?」
カナミの軽口はともかく。
実際結乃は、こうして自主練に精を出すくらい勤勉だし、素直な性格は、教えられたことを吸収するのに向いているんだろう。学校でも積極的に授業を受けている姿が思い浮かぶ。
「ダンジョン探索一筋、趣味は食べ歩きくらいのこの子が……やっと他に興味を持ったのが中1くんだからさ」
「?」
「彼ピとして、結乃のことよろしくね」
「「――!?!?」」
またカナミがからかいに掛かってきていることは蓮にも分かったが、約1名――
「こ、恋人同士でしたの!? 私たちお邪魔なのでは……!?」
「麗奈」
カナミが、麗奈の肩にポンと手を乗せる。
「いいんだよ、ちょっとは邪魔しても。その分、2人きりになったときに燃えるんだから」
「も、燃え盛るんですの!? 愛が!? 真っ赤に!?」
「たぶんピンク色に」
「おピンク!!!?」
「…………結乃」
「うん。お部屋に帰ろっか」
盛り上がる2人は放っておこう。そろそろ登校準備をしなければならない時間だし。汗を掻いたからシャワーも浴びなければいけない。
「あーゴメンてば。つーかさ、中1くんはいつも大浴場来ないよね?」
「それは当たり前っていうか……」
「入っていいよ、って言ってるんだけどね。私たちの前とか後とか」
寮生たちのほとんどは大浴場で入浴を済ませる。だが蓮は部屋のシャワーしか使ったことがない。みんなの前に入るのは申し訳ないし、後はあとで罪悪感に苛《さいな》まれそうだ。
「今ならいいんじゃない?」
カナミが言う。
「朝だからお湯は張ってないだろうけど。部屋のシャワーって弱くない? 大浴場のが気持ちいーよ?」
「そうだね。今日は私が部屋で浴びるから、蓮くんはお風呂行こうよ」
「でも……」
「いいじゃん行きなよ、着替えなら麗奈が届けてくれるってさ。ね?」
「ふあッ? え、ええ。お任せくださいませ」
「そうと決まったら行くぞ中1くんっ」
「いや決めてなんか」
問答無用でカナミにグイグイ背中を押され、結乃に「あとでね」と手を振られて大浴場の前まで押しやられてしまう。
「はい到着~。中1くん、一人で入れる?」
「当たり前――」
「一緒に入ったげようか?」
「な」
「……結乃には黙っててあげるし」
両肩に手を乗せたまま、耳元で囁いてくる。
からっとした性格のカナミだが、声のトーンを落とすと途端に艶《つや》っぽくなる。蓮にはもちろん経験はないが、ピロートークとはこんな声色で囁き合うものなのかもしれない。
「今ならバレないよ? どうする?」
「そ、そんなことっ――」
蓮が、ばっと身をひるがえすと、カナミはケラケラと笑って、
「やっぱ浮気はしないかー」
この人はどこまでが本気なのかまったく読めない……。心臓に悪い。だがよく考えてみれば、カナミが結乃を裏切るようなことをするはずがなかった。
(……裏切るって、なんだ?)
別に、結乃と蓮はそういう関係ではない。たぶん。
「ま、気が向いたらいつでも言いなよ? んじゃごゆっくり~」
結局、その勢いで浴場へと放り込まれてしまった。
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