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第4章 ギャルお姉さんにも好かれています
第35話 寮の朝
しおりを挟む私立・聖華女子高等学校は、都内のど真ん中に校舎を構える、創立99年の由緒正しき女子校である。
偏差値は高く、部活動では体育系、文化系にかかわらずめざましい成績を上げる、文武両道の名門だ。
25年前に四ツ谷ダンジョンが出現してからは、皆、ダンジョンを恐れ閉校の危機にも見舞われたが、卒業生たちからの熱烈な支援もあって存続を決定。
――その後、国が推し進める『ダンジョンとの共生』の方針に合わせ、【ダンジョン探索科】を学科に組み込んだことで状況は一変。
ダンジョンに近いことは有利に働き、さらにここ10年ほどで広まった『ダンジョン配信』の人気から、生徒数はぐんぐんと回復していった。
――そして。
ここは学園のほど近くにある聖華女子高等学校の生徒寮。
もともとお嬢様学校だったこともあり、色んな意味でレベルの高い生徒たちが住むこの寮は、世間から【聖域】などと呼ばれることもある。
そんな【聖域】で、とある朝。
寮の1階にあるミーティングルームのドアに、耳をぴったりと付ける女子生徒の姿があった。
彼女の耳に聞こえてくるのは――
「あっ、待って……蓮くん激し……」
「ごめ――まだ慣れてなくて……」
「ううん、いいの、私からお願い……」
「……でも、初めて――痛……」
「痛いのも、嬉し……、蓮――してもらえて」
(は、はわわ!? はわわわわわっっっ!?)
このはわはわ言っているのは、三条《さんじょう》麗奈《れいな》。
生粋のお嬢様で、結乃と同じ探索科に在籍する2年生。色素の薄いふわふわのロングヘアーに、日本人離れした美貌の持ち主。
今朝早く、大浴場で優雅にシャワーを浴びようと1階に降りて来たところ、珍しくミーティングルームから物音が聞こえた気がして耳を傾けたところ、誰かが激しく動く音と、男女2人の声が聞こえて来た次第だった。
(こ、これは……柊さんと遠野さん……ですわね?)
同級生の柊結乃と、生徒寮で唯一の男子、遠野蓮の声だ。
麗奈は男性への免疫がまったくなく、だから他の女子たちが絡むように蓮に話しかけたことは一度もない。
だが、男子に興味がないかというと、そんなことはなく……
(これは、お二人は中で一体なにをなさって……⁉︎)
2人は同室だ。
わざわざ部屋の外で密会する必要などないはず。
(ミーティングルーム……)
ミーティングルームは、机や椅子などは一切ない広い部屋だ。タイルカーペットの床で、スリッパも脱いで上がる方式。30~40人ほどが地べたに座って話し合いをする用途で使われる。
(どんな激しい動きでも……可能ですわ⁉︎)
可能だから何だという話なのだが、麗奈の妄想は膨らむばかり。
「……道具も、使ってみる……?」
「いいよ……、僕が先に……」
(先に⁉︎⁉︎ 後攻めもあるんですの⁉︎ 道具で⁉︎⁉︎)
「……棒……、速すぎるよ」
(はわわわ、何が行われているんですの!?)
居ても立ってもいられないが、ここから離れることもできない。耳を離したくない。全身がぽかぽかして汗がドバドバと出てきた。シャワー前でよかった。
(破廉恥ですわ!……で、ですが)
確かにここは聖域だ。しかし、年頃の男女が惹かれ合えば、様々なことに興味が湧いて、試してみたくなるのは仕方のないこと。
(愛ゆえであれば、そうですわ、男女の営みは神聖なもの。純愛の中に行われるのであれば――)
「指、そんなに動くんだ……すご……、あっ」
「このくらい、簡単……」
「……うまい、ね……」
「こんなのは……、遊び……」
(遊びでしたわ!?!?!?)
年下の蓮が結乃のことを弄んでいる――だとすれば、止めに入るべきだろうか? けれど結乃もとても喜んでいるようだ。ここに横槍を入れるなんて無粋――
「んー、どしたん?」
「はぅっ!?」
あやうく大声を出しそうになった。
振り向くと、宮前カナミが立っていた。ツインテールで小柄な、誰とでもすぐに仲良くなれる同級生。引っ込み思案な麗奈にも気軽に話しかけてくれる女の子だ。
だが、今ではない。
「ミーティングルーム? 誰かいるの?」
「い、いませんわ、ここには誰も――」
「この声、結乃たち?」
ヒソヒソ声の麗奈のことを尻目に、何も知らないカナミは平気でドアノブを掴む。
「だ、ダメですっ、その中はいま秘密の花園……っ!」
「やっほー。結乃たち何してんのー」
「ああああっっ!?」
無遠慮に開かれるドア。
そこには――
麗奈が想像していたとおりの光景があった。
結乃と蓮が2人きり。
春の朝日が差す広い部屋。開け放たれた窓からは爽やかなそよ風。何とも破廉恥なことに、蓮も結乃も汗だくで、きちんと学校の体操服姿を着ていて、蓮は長い木の棒を持っていて、向かい合って構え、まるで組み手でもしていたかのような健康的な――
「……健康的? ですわ?」
「なになに、2人でコソ練?」
カナミはスリッパを脱いで上がり込んでいく。
「あ、おはよ。うん。朝トレ初めてみようかなって。でも準備してたら蓮くんのこと起こしちゃって――そしたら付き合ってくれるって」
「……外で鍛えておけば、ダンジョンの中でも動きが良くなるし」
「だから組み手、相手してくれてたんだよ」
シュッシュッ、とシャドーボクシングしてみせる結乃。
「僕も、外でも鍛えておきたかったし」
「はー? まだ強くなるつもり? 向上心の塊じゃん」
心身共に健康的だった。
「そうだ見てみて、蓮くん師匠のテクニック!」
「その棒? 壊れたモップのやつじゃん。――お」
その長い棒を、蓮は巧みに操って縦横無尽に振り回してみせる。
「ほら指使いとか、見てて気持ちいいくらいでしょ?」
「テクニカルすぎてキモいくらい」
「いやまあ、これが出来たって――ただの遊びだし。次、結乃の番」
穢れていたのは自分ひとり……と考えると、麗奈は消えてしまいたくなるほど恥ずかしくなる。
経験はないくせに耳年増で、それっぽい話が聞こえるとつい耳を傾けてしまう。そして妄想を際限なく広げてしまう悪い癖――
(直さなければいけません……)
ひとり、しょぼんと反省する。
「あ、そだ! ねー私らも参加していい? これからもやるんでしょ、朝トレ。2人の邪魔はしないからさ。中1くんの動き、見てるだけで勉強になるし」
「僕は、いいけど――」
「いいよ、やろうよカナミたちも」
「やった。麗奈もやるっしょ?」
「え」
自分は会話の外にいると思っていたので、驚いて顔を上げる。カナミ達は何の話をしていたんだろう?
「ヤろうよ毎朝、4人で。終わったらみんなでシャワー浴びればいいし」
「ヤっっ――!? シャワー!?!? みんな!?!?」
「終わったらみんなでシャワー浴びればいいしね」
「柊さん⁉︎」
笑顔で誘ってくる結乃とカナミ。蓮も……寮で唯一の男の子も、麗奈のほうを見ている。
「……したかったんでしょ?」
「っっ⁉︎」
「さっきからずっとドアの前にいたし」
「⁉︎⁉︎」
見抜かれていた……! 鋭い視線、きっと彼はお見通しなのだ、麗奈の体の隅々までも!
「いいよ僕は。何人増えても」
「ハーレム王の器……っ!」
女3人、男1人で、毎朝汗だくになって……!
「くんずほぐれつ!? はわわですわっ!?!?!?」
麗奈は頭のてっぺんから蒸気を吹いて、その場にへたり込んでしまった。
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