31 / 116
第3章 配信でイチャついていいんですか?
第31話 反響:新規フォロワー
しおりを挟む深夜0時。
東京のとあるマンション――
アイビスのマネージャー・衛藤は自室のデスクで、まだパソコンに向かっていた。
半分は仕事だが半分は趣味の範疇だ。
「いい感じですね【れんゆの】……! 蓮さんのチャンネル登録者数も25万人超え!」
エゴサーチをまったくしない蓮に代わって衛藤はネットの海を片っ端から巡り、情報収集とアンチ対策を行っている。
そんな衛藤のスマートフォンが鳴動する。発信者名を確かめてから、電話を取る。
「お疲れさまです」
『うん、お疲れサキ』
「……それ、蓮さんたちの前では呼ばないでくださいよ修羅」
ため息を吐きつつ応答する。
『つれないね。幼なじみの仲じゃない?』
「高校からって、幼なじみに当たります?」
『あの頃のサキは幼かったからね。まだ世の中のことも知らなくって……』
「あーイタズラ電話でしたか。――切りますよ?」
『ごめんごめん』
このホストめいた警備員《ガードマン》は、仕事中には仏頂面で無感情に振る舞っているくせして、素になるとすぐこうだ。
「蓮さんたちのほうはもう安心、と思っていいですか?」
『夕方からこっち、2名ほど排除したよ。さっそくマスターたちを撮影しようとしていた素人と、もう1人はフリーの記者。女子寮に踏みいる前にお帰り願ったよ』
「……物騒なことは?」
『してないよ。相手の脅威度によって対処方法を変える――それがキミからのオーダーだろ? 心得てるさ』
「それならいいんです。ご苦労さま」
彼女のような一流の暗殺者……もとい、優秀な警備員を確保できたのは、ひとえに衛藤自身のコネのおかげだ。コネというか、ただの旧知の間柄というだけだが。
旧知――
まさか高校の同級生が学校生活と並行して裏家業に手を染めていたなんて、出会った当時は思いもしなかった。
……もっとも、名字は普通なのに下の名前が『修羅』だなんて、そこはエキセントリックだなとは思っていたけれども。
それから色々とあって――彼女の本性だとか仕事のことを知って、青春時代に大冒険を経て――今の関係に落ち着いた。
ちなみに、修羅は同姓からすこぶる人気があるし、2人の会話もこんな調子なので、周囲の女子からは「恋仲なのでは?」と疑われて嫌がらせを受けることも多かったが、お互いにそういった感情は一切ない。
背中を預け合える戦友、というのが一番しっくり来る。
「くれぐれも蓮さんたちのことお願いしますね」
『…………』
「修羅?」
『マスター遠野、ね。……ボク、本当に必要かな?』
含みのある言い方だ。
『ダンジョンを出たあと、ボクは姿を隠して彼らのあとを付いていった。気配も消してね。だけど彼、ボクの居る位置を正確に察知していたんだ――』
ふふっ、と自嘲気味な声。
『正直、自信なくしちゃったよ……。気配を完全に消しすぎたかな? おそらく、その不自然さを見抜かれたんだろうね。……彼、いったい何者なんだい?』
「企業秘密です」
本当は修羅には伝えても支障はないのだが、珍しく本気で落ち込んでいる様子が面白くて、つい意地悪をしたくなってしまう。
『ダンジョン内ならともかく、外の世界でもここまでとは思っていなかった。彼は素人がどうこうできる相手じゃないよ。警備なんて必要なさそうだ。――いつか、手合わせ願いたいくらいだね』
「修羅? いくら貴女でも、蓮さんに危害を加えたら許しませんよ?」
『くくっ、もちろん。そんな気はないよ。マスター遠野とサキを同時に敵になんて回したくない。マスター柊にも嫌われたくないしね』
そう言いながらも、蓮と戦いたくてウズウズしているのが声からも伝わってくる。
――修羅にここまで言わせるなんて。
やはり蓮という少年は人を惹きつける何かを持っているのだと改めて確信する。
「何を考えてもいいですけど、警備はきちんとしてくださいね? いくら蓮さんでも盗撮盗聴のたぐいを全て防げるわけじゃないし、結乃さんが1人になるタイミングでは貴女が頼りなんですから」
彼女は、蓮のボディーガードというより結乃のボディーガードであり、物理的に防ぎにくい危険から2人を守るのが主な任務だ。
常識で考えると、配信者を守るために修羅を配置するなんて過剰戦力もいいところなのだが――衛藤にとっては妥当なラインだ。
『抜かりなく。ボクのプライドと、サキからの厚い信頼に賭けて、ね』
「はいはい」
ウィンクでもしてそうな修羅の軽口を、衛藤はキーボードを叩きながら軽く流す。
『でもサキ、いいのかい?』
「なにがです?」
『マスター遠野にご執心なのに、マスター柊との仲を応援できる?』
「? 当たり前じゃないですか」
まさに愚問。
衛藤の辞書に、『同担《どうたん》拒否』などという言葉はないのだから。
「蓮さんの幸せに繋がるなら私は何だってしますよ。蓮さんと結乃さん、どう見たって相思相愛でしょう? 応援するに決まってるじゃないですか」
話すうちに気持ちが乗ってくる。
「――そして、全人類は蓮さんのことを知るべきだし、魅力に気づくべきです! 人類皆兄弟……いいえ、皆姉弟になるべきなんです!! 蓮さんは戦いに強いというだけじゃなくて、あんな過去があるのに人に優しくできて、自分のことなんて顧《かえり》みなくて、なんだかんだ言いながら私たちスタッフのことも考えてくれてて――でも本当は寂しがり屋さんで、無愛想なのは感情の表し方を知らないだけだし、そんな蓮さんが結乃さんの前では抑え切れずに感情が溢れ出すのがもう尊くて尊くて……!!」
『サキ、早口早口』
電話口の修羅にたしなめられる。
「う。いいじゃないですか、たまには……」
『たまに?』
声音だけで、修羅が肩をすくめて笑う様子が目に浮かぶ。
『サキにそこまで言わせるマスター遠野……ますます気になって来たよ』
「修羅も、蓮さんを推してみませんか?」
『それ布教ってやつかい?……うん、やってみようかな』
意外と素直に乗ってきた。
仕事以外のことには滅多に興味を示さない彼女が。
『まずは観察から始めてみるよ。くくっ。まさか、ボクが男の尻を追いかけることになるなんてね。推し活か……初挑戦だ。ワクワクするね』
電話の向こうで修羅は、今度は心底愉しそうに笑っていた。
136
お気に入りに追加
588
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる