最年少ダンジョン配信者の僕が、JKお姉さんと同棲カップル配信をはじめたから

タイフーンの目

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第2章 トラブル対応したら海外までバズりました

第13話 コミュニケーション①

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 ■ ■ ■

 配信を終えダンジョンを出て、蓮は寮への帰路についていた。

「今日も自己紹介できなかったな……」

 リスナーたちが興奮しっぱなしで収集が付かず、爆速であらゆるチャットが流れていったため、どう対処していいか分からない蓮は、またしても途中で配信を打ち切ったのだった。

 ――喧嘩を売ってきたチャットには強気に出られたのだが、応援コメントばかりになると尻込みしてしまう。

 ちらりと、スマホの画面で自身のチャンネルをチェックすると、登録者増加を知らせる通知がいくつも届いていて――今もまた、新たな通知が表示された。

「これって……」

 配信前は8万人ほどだった登録者が、今では11万人を超えていた。たった2時間ちょっとの配信で3万人増えた計算になる。

「……こんなに見てたのか」

 もちろん登録者全員がリアルタイムに配信を見られるわけではないが、それでも、相当数の人間が蓮のことを見ていたことになる。

 登録者は今も増えており、明日にはさらに伸びていることだろう。

 マネージャーの衛藤も、今日の配信内容に満足そうだった。暴れすぎで叱られるかとも心配したが、彼女は『蓮さんの魅力が伝わりましたよ!』とホクホクしていた。そんな感じでおおむね褒められたのだが……トークに関しては、今後改めてトレーニングしようということになった。

 トークスキル。配信に必要な技術ではあるが、人付き合いの苦手な蓮は、そのトレーニングというだけで気が重い。

 ……そのはずなのだが、今日はそれほど気分が沈んでいない。

(どうして……)

 チャンネル登録者が増えたから? いいや、それは良いことだとは思うが、蓮の気分が高揚する理由にはならない。

 それとも、かなり抑え気味だったとはいえ、久しぶりに暴れたからだろうか? それは多少あるかもしれない。適度な運動は必要だ。

 しかしそれらとは別の、どこか達成感にも似た感覚が胸の中にあるのを、蓮は不思議に感じていた。



「あら、おかえりなさ~い」

 寮に帰り着いたのは15時半。
 ちょうど食堂へ夕飯の準備に向かおうとしていたのか、寮母の沙和子とばったり会った。

「遠野くん、今日もお仕事だったのよね」
「まあ、そうっす……」
「お夕飯はもうちょっと待ってね~。あ、今日は外じゃなくて、寮で食べる……でいいのかしら?」
「はい」

 朝食時に寮の騒がしさは嫌と言うほど思い知らされたが、これも配信者としての訓練の一環だと割り切ることにしている。

「そうだわ」
「え」

 沙和子が、ずいと寄って来る。

 タートルネックの薄手のセーターにジーンズという露出のまったくない服装だが、それでも沙和子は大人の色気をムンムンと醸し出している。スタンピードにも怯まなかった蓮なのに、接近されると一歩後退してしまう。

「これから学校も始まるしお仕事もあるでしょうし、遅くなることもあるわよねぇ? 連絡先を聞いておいていいかしら」

 あくまで寮母であり保護者ではないが、まっとうな申し出だろう。食事の用意は数十人分だから蓮1人分くらいは誤差だろうが、それでも彼女としては連絡先は把握しておきたいだろう。

 蓮としても、今後配信業で遠征などの仕事が入れば、沙和子にも連絡せねばならない場面も出てくるはずだ。

「じゃあ――」

 お互いにスマホを取り出して連絡先を交換する。
 ちょうどそのとき、2階から数人の寮生が姿を見せた。

「……! 蓮くん、おかえり!」

 結乃だ。
 こちらの姿を確認するとなぜか嬉しそうに、スリッパをぱたぱた鳴らして階段を下りてくる。

「今日の配信見たよ、凄かった……、ね……」
「?」

 ふと、笑顔のまま固まる結乃。その視線は蓮たちの手元に注がれていた。蓮のスマホと、沙和子のスマホへと交互に視線を送って……また固まってしまった。

「なにか?」
「う、ううん」

 なぜかぎこちない結乃とその友人たちへ、沙和子が言う。

「皆さんの、ご家族からの荷物届いてるわよ~」

 どうやら彼女たちは、実家から送られてきた荷物を取りに下りて来たらしかった。結乃も小さなダンボール箱を1つ受け取って、

「お、お部屋戻ろっか、蓮くん」
「…………? うん」


 部屋に入ると結乃は机にダンボールを置いて、自分のベッドに腰掛ける。

 この部屋は、窓側の壁に向かってそれぞれの勉強机があり、左右の壁に沿ってベッド、そしてクローゼットという配置。それで居室はいっぱいだ。ソファのような贅沢品を置くスペースはない。

 蓮はリュックを自分の机に置き、そのまま着席する。

「勉強するの? それともお仕事の作業とか?」
「え、いやそういうのはまだ」
「じゃあ、もし良かったらこっちで話さない?」

 ポンポン、とベッドを叩いてみせる結乃。

「…………っ⁉︎」

 ベッドで、隣に座る?
 そんな大胆な真似、スタンピードの群れに突っ込むよりはるかに勇気がいる行為だ。

(でも高校生なら普通……だったり!?)

 戦慄する蓮。
 ここで尻込みして、子供っぽいと思われたくない。対等に扱われたい。ならば今は攻めどきだ!

「…………!」

 意を決して、結乃の右隣にちょこんと座る。2人分の体重で、シングルベッドがきしりと音を立てた。

「あれ?」
「え?」

 結乃がきょとんとするのを見て、蓮は勘違いに気づく。『ベッドに座ろう』というジェスチャーには間違いなかったのだが――彼女は、お互いベッドに腰かけて向かい合おう、という意図だったようだ。

「ご、ごめ――ッ」
「ううんいいんだよ、全然いいから。ね、座って?」

 立ちあがろうとするのを結乃に止められて、結局隣り合って座ることになってしまった。

「うぐ……」

 意識すると、結乃の気配と体温を感じる左半身が熱せられているようにチリチリする。
 
「今日始業式だったから、午後から蓮くんの配信見たよ」

 結乃が至って平静に話すのが、余計に蓮を緊張させる。

「凄かったね。スタンピード起きたときには心配しちゃったけど……蓮くん、あんなに強かったんだ」
「……あんなの、全然本気じゃないし」

 ムキになるのは子供っぽいだろうか? こうして座ると身長差をまざまざと意識させられるのもあって、そんなことを考えてしまう。

 けれど、とりとめのない雑談を交わすうちに、だんだんと居心地が良くなってくる。結乃が聞き上手ということもあってか、しゃべりやすい。それに、

「声……」
「え?」
「あ、いや――」

 つい、口に出してしまった。

「こ、声が聞きやすいというか、落ち着くっていうか、気持ちいいっていうか……」
「私の?」

 つい、流れで本音を吐き出してしまった。気持ち悪いと引かれてしまうかもしれない。

「えー、お世辞でも嬉しいなぁ」
「お、お世辞なんかじゃ――」
「ふふ。ありがとう」

 他人と話すときは緊張してしまうが、こういうドキドキは初めてだった。

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