最年少ダンジョン配信者の僕が、JKお姉さんと同棲カップル配信をはじめたから

タイフーンの目

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第1章 初配信でバズって、お姉さんとも同棲することになりました

第3話 JKお姉さん

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「あ、お………、だ、だま……っ、ぇー……、っ」

・なんて?
・声ちっさ
・聞こえんが
・やばい共感性羞恥が…
・がんばって

《蓮さん!? 深呼吸です、お腹を意識して――》

 マネージャーも何か必死に叫んでいるが聞こえない。目線をさまよわせると、左に浮かんだウィンドウが視界に入って、そこに映し出されている自分の配信画面を視認してしまう。うろたえる自分の姿が何とも痛々しい。

・なんかしゃべってー
・まあ12歳ってこんなもんじゃない?
・まるで昔の俺を見ているようで胸が痛い
・中一って12歳?13歳?

 喉が引きつって声が出せない。配信終了の操作をする余裕すら――そこに考えが至ることすらない。

・これ無言耐久配信か?w
・まだ4月だし12歳でしょ
・公式が12って言ってた
・中一は途中から十三歳。小六が十二歳だから。
・小中学生の年齢に詳しいの怖……
・あーあアイビスも終わりだな

 どんなモンスターが相手でも、こんなに怯むことはないのに。

(やばい、やばい……!)

 汗が止まらない。視界が狭くなって、それで余計にカメラに意識が向いてしまう――最新鋭の配信用カメラは、動揺する蓮の様子を正確に捉え続けている。

・つまんな
・これは即引退だな
・しょせんはアイビスよ
・運営さーん助けてあげてー
・痛覚だけじゃなくて緊張もシャットアウトしてやって欲しい
・いや甘やかし過ぎでしょ、プロの自覚なし
・自己紹介すらないってマジ?
・早く早く
・なにこれ?ありえんくね?

「ぅ、ぐ…………っ!」

 と、そのとき。

《ビーーーーッ ビーーーーーッッ!!!!》

 イヤホンから、けたたましい警戒音が鳴り響く。誰が聞いても震え上がる、耳をつんざくような不快な音。配信には乗らない、配信者にだけ聞こえるアラート。

 ――それは命の危険を知らせる警鐘。
 配信者の周囲に致命的な危機が迫っていると、AIが察知し鳴動させているのだ。

「――――――!」

 配信の緊張にばかり囚われていた蓮が、ようやく正気に戻る。
 命の危機。モンスター。戦闘。積み重なる死。

 それは蓮にとっての日常だった。
 臨戦態勢に入ることで、蓮は瞬時に心の平常を取り戻し、深く、強く集中した。

(……っ、人が!?)

 少女の姿があった。
 右手の方向。通路の曲がり角から、軽装の少女がまろび出てきた。

「う、ぁっ――――!?」

 一拍遅れて、モンスターが彼女に襲いかかろうとしていた。禍々しい斧を手にした大柄な化け物だ。

 蓮には見覚えがあった。

(なんで2階層に――!?)

 本来なら10階層以上でしか目撃されていないモンスター、【バンデット・オウガ】だ。屈強な肉体には魔力が充満しており、同程度の魔力しか持たない人間ならば絶対に歯が立たない。

 弱い獲物を嬲る癖があり、特に女性の肉体をズタズタに引き裂くのを好む残虐なモンスターだ。

 一方の少女は――といっても蓮より年上だが――彼女は、見るからに初心者といった様子で、蓮の目から見ればその実力差は絶望的だった。

 アラートの正体は、蓮に降りかかる危険ではなかった。付近にいた配信者――彼女の危機を知らせる警告音が共有されたものだった。

 刹那、少女がこちらに気づき目を見開く。
 そして助けを求める声が響く――と思った。だが蓮の予想はあっさりと外れた。

「に、逃げてっ……!」

 配信者には心身を守るプロテクトが何重にも備えられていて、だからダンジョン配信なんてものが娯楽になり得ている。
 しかし、死の恐怖を完全に取り除けるわけがない。誰でも死を前にすれば痴態を晒すし、本性が垣間見える。

 ――逃げて。

 助けて、ではなく
 その言葉に驚く気持ちと――それとはまったく別に、蓮の体は反射的に行動を開始していた。

 一歩。
 10mほどあった距離を一足で縮め、バンデット・オウガの懐に潜り込み、少女の柔肌へと振り下ろされようとしていた斧を阻止する。左肘でオウガの右手首をかち上げ、軌道を変えたのだ。

 滑らかな魔力操作と、体に染みついた戦闘経験。バンデット・オウガは脅威的なモンスターだが、蓮の相手ではない。

「グォッ……!?」

 突然の横槍にオウガが戸惑った一瞬のうちに、蓮は後ろ手に自身の短剣を引き抜き、迷いなく化け物の心臓部――胸の中央にあるコアを刺し貫いた。

「ァ、ガァアアアアッッ――!?!?」

 何が起きたのか理解できずにいたバンデット・オウガが、遅れて断末魔の悲鳴と血しぶきを上げ、蓮の前蹴りを胴に食らって背後へと崩れて倒れた。

「え、あ……な、なんで……?」

 蓮の後ろで、少女が戸惑いの声を絞り出す。

「バンデット・オウガ。怪力で俊敏だが、別に武術の心得があるわけじゃない。体勢を崩せば簡単に弱点を晒すし、守る知能もない。まあゴリ押しでもどうにでもなる相手だけど――」
「いやそうじゃなくて……君だよ!? つ、強いんだね……」
「は? まあ――」

 この2階層で遭遇するようなモンスターではなかったが、このくらいの相手なら、片手間でも処理できる。

 片手間……なにか、忘れているような気がするが……。

「あ、ごめんなさい……!」
「ゴメン?」
「お礼」

 まだ緊張が取れていない表情だったが、それでも少女は優しく微笑む。

「ありがとう、助けてくれて」

 咄嗟のことで気にも留めていなかったが――
 優しげなまなざし。蓮より年上……おそらく高校生くらいだろう。大人びた顔つきだが、笑うと幼くも見える。ミディアムボブの綺麗な髪は、片方だけサイドを編み込んでいる。

「学校の実習だったんだけど、トラップで皆とはぐれちゃって……急にモンスターに襲われて」
「こんな時期に?」
「春休みに、希望者だけで実習なんだ」

 言って彼女は立ち上がろうとするが、まだ手足が震えている。

「――あっ」

 ふらついてまた倒れそうになるのに、蓮は無意識に手を差し伸べていた。

「だ、だいじょぶ……っすか」

 ばっちりと目が合ってしまったうえ、その手の柔らかい感触に、思わず声が上ずってしまう。

 彼女は尻餅をついた体勢のまま、なぜかしばらく、あっけに取られたような顔で蓮のことを見つめていた。

「え、えっと……?」
「あ、ううん。ごめんね、ありがとう――って、私こればっかりだね」

 はにかむ笑顔にも愛嬌がある。
 戦闘中はむしろ落ち着いていた蓮の胸が、またバクバクと鼓動し始める。

 彼女は今度こそ立ち上がると、

「私、柊《ひいらぎ》結乃《ゆの》です。君の名前……聞いてもいいかな?」
「え、ぼ……お、俺は――」

 向かい合うと、彼女のほうがずっと身長が高い。蓮の顔は彼女の胸のあたりだ。マネージャーとも似たような身長差だが、なんだかこちらの少女――柊結乃のほうが、謎の包容力があるように感じる。

 結乃のほうも、蓮が年下だと確信したのだろう。
 けれど侮るような気配はなく、むしろ安心したような表情を見せてくれている。

 とはいえ。まず美少女と言っていい年上のお姉さんを前に、蓮は長々と目を合わせられない。あさっての方に視線を向けて、

「と、遠野蓮《とおの・れん》……、っす……」
「蓮くん、か。いい名前だね」

 平静を取り戻してきた結乃の声はとても耳当たりがよく、ドキドキするのに居心地の良さすら感じる。

「君も実習?……あれ? カメラ」
「え?」
「あ、配信中だった?」
「――――――、あッ!?」

 すっかり忘れていた。
 今は配信の真っ最中なのだ。

 慌てて向き直ると、事務所から支給されたカメラは、しっかりとこちらを捕捉していた。

「ひッ――――!?」

 10階層レベルのモンスターには恐怖など一切感じなかった蓮が、すくみ上がる。

 あわわわ……と、今までにないくらい狼狽して、思わず結乃のほうを振り返ってしまう。

「――ん? えっと」

 結乃は、緊張しきった蓮のことと、無機質なカメラのほうを交互に見てから――何かを合点したような顔になって、そっと身をかがめると蓮の耳元で囁いた。

(……大丈夫だよ。君ならきっと大丈夫)
「な、何がッ――」

 初対面の人間に、自分の何がわかるというのか。適当なことを――

(視線は合わせなくていいから。自分の言葉でしゃべってみよ?)
「じ、自分の……」

 無意識に気負っていたのだろう。有名事務所アイビスの注目の新人だと喧伝されて。苦手な人前に立たされて。
 マネージャーが悪い人間じゃないこともわかっている。自分とセンスは合わないし、あくまで仕事の一環ではあるが蓮のことを気遣ってくれていたのも伝わっている。

 それだけに、慣れないことをやってでも今日の配信を盛り上げなければと思っていた。

 配信者は多かれ少なかれ、リスナーに求められる姿を演じている。それくらいの知識は事前に仕入れていた。だから自分も、上手くやらなければと重荷に感じていた。

(がんばれ、蓮くん)

 結乃の声が、震えを消し去ってくれた。地に足がつくとは、こういう感覚を言うのかもしれない。

 一度、カメラのレンズを見つめる。やはりレンズを過剰に意識してしまう。蓮は目をそらして、大きく深呼吸をしてから、自分なりにしっかりと発声した。

「お……、僕は、アイビス所属の配信者……新人の、遠野蓮……です。特技は戦闘……、絶対負けないので、よ、よかったら、これからも見てくれると嬉しい……です……」
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