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第1章 初配信でバズって、お姉さんとも同棲することになりました
第1話 最年少配信者
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世界にダンジョンが発生し、30年が過ぎた。
ここ日本でも青森県に発生したのを皮切りに、全国各地に突如としてそれは出現した。
ダンジョンは、窓のない高い塔だ。
はるか上空まで伸びる果てのない塔――航空機を飛ばして頂上を探してみても、しかしそれは途中から蜃気楼のように歪んで不可視になる。それでも、内部では途切れず上へ上へと続いている。
人智を越えた迷宮。
しかし不可侵ではない。
まるで人間を招くかのように――エサを誘い込むかのように、地上階には『ゲート』が設けられてある。それはただのぽっかりと空いた穴だったり、人が造ったかのような立派な門がまえのものもあった。
その不気味なエントランスからは、人間世界のありとあらゆるモノが吸い込まれていった。
科学の粋を集めた探索機。
職業軍人。
彼らを救助するための部隊。
監視の目をかいくぐって、刺激的な画《え》を求める報道機関や、一攫千金を狙う無法者たちが侵入したこともあった。
――そして今日、1人の少年も。
ここ、四ツ谷ダンジョンの1階層はかなり人の手が加えられ、石造の天井や床、壁であることを除けば、まるでショッピングモールのような風景だ。
ダンジョン内で手に入れたアイテムは外には持ち出せない。なので、こうしたスペースで売り買いされている。
それらの店舗にはまったく目もくれずスタスタと歩く少年の隣から、頭1つ分ほど背の高い女性が声をかける。
「蓮《れん》さん、いいですか第一声が大事ですよ?」
「…………」
「笑顔……は無理だとしても。トーン高めで、お腹から声を出して。聞いてます?」
メガネをかけ、黒髪を後ろに束ねた成人女性。スプリングニットのトップスに、タイトスカート。およそダンジョンに足を踏み入れるような格好ではないが――この1階層に限っては珍しい服装ではない。
外の『人間の世界』と、『迷宮の世界』が渾然一体となって混ざり合っているのがここ、ダンジョンの1階層なのだ。
「…………」
「史上最年少、12歳中学1年生のダンジョン探索者!――その初配信なんですから。【アイビス】の公式アカウントでもさっき投稿しました。反応いいですよ? それだけに第一印象が大事で――」
一方で、蓮と呼ばれた少年――遠野蓮《とおの・れん》は。
中性的な顔立ちで、身長は148cm。同年代と比べても低い。うつむきがちで、隣を歩く女性――蓮のマネージャーの顔を見ようとすると、だいぶ見上げなければならない。
だからというわけではないが、一緒に歩いているところを人に見られたくなくて先ほどから早足になっている。
……なっているのだが、歩幅の差があるせいで、結局は並んで歩いてしまうのがつらいところ。
蓮の服装はマネージャーとは違って、探索者用の軽装に、フード付きの黒いショートマント。腰の後ろには、短剣を横向きにして帯びている。今回の武器はこれだけだが、蓮には十分だ。
「『アイビス所属の新人配信者・遠野蓮です! 小さいけれど実力はガチ! これからガンガン配信してくんで、よろよろ~♪』 はい、復唱してください?」
「…………死んでもイヤだ……」
本当に人気配信者を多数抱える事務所のマネージャーか? とそのセンスを疑ってしまうが……そもそも、蓮には人気配信者のノリ自体がまったく感性に合わないので、なにが正解なのかわからない。
「カメラありますね? イヤホン付けましたか? 2階層に上がったら、アラートとリスポーン機能のシグナルも再度確認しておいてくださいよ? 私も指示しますけど、開始ボタンを押し忘れないように」
母親か? と思うほどのうざったさ。
もっとも、蓮には母親の記憶などもうほとんどないが。
「モンスターは――まあ、蓮さんにその手の心配は不要ですね。30階層くらいまでは敵無しでしょう」
「……は? 100までは余裕だし」
「ですか。ではやりすぎないように気をつけてください」
配信環境の確認とは異なり、戦闘についてのチェックは最小限。『強さ』を信頼してもらえるのは悪い気はしない。
なんて、蓮が少し得意顔をするとマネージャーはすぐに気づいて、なんだか温かい目で見守られてしまう。
「――――う、ウザッ!」
赤面するのを隠すためにフードをかぶり、さらに足を速めて2階層へと続く階段に足をかける。
「あっ、配信開始までにはフード取ってくださいよー? せっかく顔、カワイイんですからー」
こっちのモチベーションをさらに下げるマネージャーの声を背に、蓮は本格的にダンジョンへと侵入していくのだった。
ここ日本でも青森県に発生したのを皮切りに、全国各地に突如としてそれは出現した。
ダンジョンは、窓のない高い塔だ。
はるか上空まで伸びる果てのない塔――航空機を飛ばして頂上を探してみても、しかしそれは途中から蜃気楼のように歪んで不可視になる。それでも、内部では途切れず上へ上へと続いている。
人智を越えた迷宮。
しかし不可侵ではない。
まるで人間を招くかのように――エサを誘い込むかのように、地上階には『ゲート』が設けられてある。それはただのぽっかりと空いた穴だったり、人が造ったかのような立派な門がまえのものもあった。
その不気味なエントランスからは、人間世界のありとあらゆるモノが吸い込まれていった。
科学の粋を集めた探索機。
職業軍人。
彼らを救助するための部隊。
監視の目をかいくぐって、刺激的な画《え》を求める報道機関や、一攫千金を狙う無法者たちが侵入したこともあった。
――そして今日、1人の少年も。
ここ、四ツ谷ダンジョンの1階層はかなり人の手が加えられ、石造の天井や床、壁であることを除けば、まるでショッピングモールのような風景だ。
ダンジョン内で手に入れたアイテムは外には持ち出せない。なので、こうしたスペースで売り買いされている。
それらの店舗にはまったく目もくれずスタスタと歩く少年の隣から、頭1つ分ほど背の高い女性が声をかける。
「蓮《れん》さん、いいですか第一声が大事ですよ?」
「…………」
「笑顔……は無理だとしても。トーン高めで、お腹から声を出して。聞いてます?」
メガネをかけ、黒髪を後ろに束ねた成人女性。スプリングニットのトップスに、タイトスカート。およそダンジョンに足を踏み入れるような格好ではないが――この1階層に限っては珍しい服装ではない。
外の『人間の世界』と、『迷宮の世界』が渾然一体となって混ざり合っているのがここ、ダンジョンの1階層なのだ。
「…………」
「史上最年少、12歳中学1年生のダンジョン探索者!――その初配信なんですから。【アイビス】の公式アカウントでもさっき投稿しました。反応いいですよ? それだけに第一印象が大事で――」
一方で、蓮と呼ばれた少年――遠野蓮《とおの・れん》は。
中性的な顔立ちで、身長は148cm。同年代と比べても低い。うつむきがちで、隣を歩く女性――蓮のマネージャーの顔を見ようとすると、だいぶ見上げなければならない。
だからというわけではないが、一緒に歩いているところを人に見られたくなくて先ほどから早足になっている。
……なっているのだが、歩幅の差があるせいで、結局は並んで歩いてしまうのがつらいところ。
蓮の服装はマネージャーとは違って、探索者用の軽装に、フード付きの黒いショートマント。腰の後ろには、短剣を横向きにして帯びている。今回の武器はこれだけだが、蓮には十分だ。
「『アイビス所属の新人配信者・遠野蓮です! 小さいけれど実力はガチ! これからガンガン配信してくんで、よろよろ~♪』 はい、復唱してください?」
「…………死んでもイヤだ……」
本当に人気配信者を多数抱える事務所のマネージャーか? とそのセンスを疑ってしまうが……そもそも、蓮には人気配信者のノリ自体がまったく感性に合わないので、なにが正解なのかわからない。
「カメラありますね? イヤホン付けましたか? 2階層に上がったら、アラートとリスポーン機能のシグナルも再度確認しておいてくださいよ? 私も指示しますけど、開始ボタンを押し忘れないように」
母親か? と思うほどのうざったさ。
もっとも、蓮には母親の記憶などもうほとんどないが。
「モンスターは――まあ、蓮さんにその手の心配は不要ですね。30階層くらいまでは敵無しでしょう」
「……は? 100までは余裕だし」
「ですか。ではやりすぎないように気をつけてください」
配信環境の確認とは異なり、戦闘についてのチェックは最小限。『強さ』を信頼してもらえるのは悪い気はしない。
なんて、蓮が少し得意顔をするとマネージャーはすぐに気づいて、なんだか温かい目で見守られてしまう。
「――――う、ウザッ!」
赤面するのを隠すためにフードをかぶり、さらに足を速めて2階層へと続く階段に足をかける。
「あっ、配信開始までにはフード取ってくださいよー? せっかく顔、カワイイんですからー」
こっちのモチベーションをさらに下げるマネージャーの声を背に、蓮は本格的にダンジョンへと侵入していくのだった。
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