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3:ローパー~ノーム〜王子〜???
第33話 肉体労働らしいので得意分野ですきっと!
しおりを挟む俺はメディたちを連れて長いトンネルを掘り進んだ。
「入口を増やすってどーゆーこと?」
ニューがたずねてくる。
「入って来るとこ増えたら、マズくない?」
「ダミーを作るんだ。入口も、ダンジョンも」
隠せないなら、もっと目立つものを作ってやればいい。できるだけ遠くに。いま俺が掘り進んでいるのは、入口とは反対方向だ。
「マインたちの街づくりみたいに、新しくダミーのダンジョンを作って人間をそっちに誘導する」
「めでぃたちのダンジョンに、人は来ない?」
「なるべくな。どうしても嗅ぎつける人間は出てくるだろうけど――」
これで完全にシャットアウトできるなんて思っていない。
あくまで確率を下げるというだけだ。
そして、もしやばいレベルの相手――たとえば【神級】の英傑なんかも、そっちで対応できれば被害を最小限に抑えられる。……かもしれない。
「……あと、やっぱ俺も街づくりしたくなったっていうか」
「?」
「なんでもない」
楽しそうに建設するノームを見て、ああいう大規模なのもやりたくなった、って理由もある。
「まあ、使わずに済むならそれが一番いいよ。人間なんて入って来なければそれでいい。……このくらい進めばいいか」
掘削作業を中断する。壁の感触から、『外』が近いと感じたからだ。
「こっちのダンジョンづくりにも、みんなのアイデアをもらうから。よろしくな」
「うんっ」
「はーい」
さて、目星はついしマインたちのところへ戻るか。
「……けっきょう距離あるよな。そうだ、《クリエイト》」
通ってきたトンネルに新しい設備を付ける。
それは機械仕掛けの通路だ。動力は魔力だけれど。2人が並んで乗れて、左右に手すりがあって、床が自動で進む――
「『動く歩道』だ」
でかい空港や駅にあるやつ。これなら移動時間も短縮できる。
「さあ戻るぞ」
「わー、楽ちーん」
「はやく走れる!」
「こらメディ、ダッシュしないダッシュしない」
はしゃぐメディたちと元の建設現場に戻る。作業中のノームに声をかけて、マインと朧の居場所を聞くと、彼女たちは何やら新しい施設を作ろうとしているらしい。
見に行くと、すでに建築中だった3階建ての前に2人はいた。朧があれこれと提案して、マインはメモを取りながら聞いている。
「なにやってんだ?」
「おおあるじ殿! よくぞ戻られた」
「社長! ご視察はいかがでしたか?」
「上々だったけど……ここを何にするつもりだ」
すると朧は、むっふーと勝ち誇ったような顔をして、
「これはあるじ殿のための施設じゃ。これからも夫人候補は増えていくであろう? あのベッドだけでは足りんだろうと思ってな」
「?」
「ゆえに……ここに娼館をつくる!!!」
「なに言ってんだ」
娼館――つまり、男が通うアレなお店のことだ。
ホントになに言ってんだこいつ。
「おおっと、勘違いするでないぞあるじ殿よ。むろん、金など取らぬ!」
「そういうことじゃないんだが」
「部屋という部屋に女たちをそろえ、あるじ殿にいつでも奉仕できる体勢を整えるのじゃ! のう、マイン?」
「はい! 私も一生懸命にご奉仕させていただきます!」
「意味わかって言ってる?」
いたって真面目な顔のマインは、
「夜の労働? ですよね、朧さんが教えてくれました。内容はこれから勉強しますが、なんであろうと力いっぱい励む所存です。肉体労働らしいので得意分野ですきっと!」
「そっちの教育係、ちょっと面貸せ」
「む、無知シチュじゃぞあるじ殿? 大好物であろう? 良くないか? 良くないじゃろうか?」
マインに悪影響が及ぶ前に朧を叱りつけ、首根っこを掴んで家へと帰った。
■ ■ ■
翌日。
イメルダとキアが訪ねてきた。
この盗賊コンビのことはある程度信頼しているので、家の前まで通してやった。
「こんなものまで作ってんのかい……改めて驚くね」
洞窟内に普通の――こっちの世界基準でいうと高級な一軒家が生えていることに困惑していた。
「それに、あの通路はなんだい? 何かの罠かと思ったよ」
「ああ、動く歩道な」
ダミーダンジョンへ向かう道と同じように、こっちにも敷設してみた。村娘ちゃんを追い返すにも役に立つしな。
「ホント、常識外れだね」
ため息をつくイメルダだが、あれからすっかり風呂好きになったらしく、オリーブ色のロングヘアーにも手入れが行き届いている。
同じく小綺麗にしたキアは俺のことを見ると、何だかはにかんで、
「お、おっす、ひさしぶり……だね」
髪にはヘアピンまで付けて色気づいている。さすがに年齢的に妹って感じなんだが――
そういえば。
俺にも妹がいた。こっちでの妹だ。
王宮に居たころ、兄弟の中で唯一俺の味方だったジェリダ。あまり自己主張が強く性格だったし、あの権力争いのひどい王宮の中で、無事にやれてるだろうか。今ごろは16歳になっているか。彼女も相当な美少女だったよな。
「……なんか、他の女のこと考えてそうな顔してんだけど……」
さすが盗賊。勘が鋭い。
ここは話題を変えたほうが良さそうだ。
「で。今日はどうしたんだ?」
「ちょっと不穏なウワサを聞いてね。念のため耳にいれておこうかと――アンタ、ここに人が増えちゃ困るんだろ」
「ああ」
イメルダたちは、盗賊としてあちこちで情報収集をしている。義賊である彼女たちは、ターゲットである貴族連中の情報を特に求めているんだ。
「レイモンド王家の第3王子が行方知らずのまま――って話は知ってるかい? 国家反逆罪の王子様さ」
「…………。知ってるよ、少しな」
第3王子、アルト・レイモンド――もちろん俺のことだ。
イメルダたちに正体は明かしていないが、俺は偽名を使っていないし、メディたちは普通に『アルト』と呼ぶし……この鋭い盗賊たちは、薄々勘づいているのかもしれない。
「その王子を探して、第2王子のユーバーが動き出したって話だ。2年も経つ……普通ならその辺で野垂れ死んでるだろうけどねぇ」
正解。
ダンジョンで野垂れ死んで、いまは美少女たちとイチャイチャやってます。
「懸賞金もかかってるんじゃないか? いいのか、そいつに先を越されて」
「ふん。金のためだけに盗賊やってるんじゃないよ」
イメルダは腕を組んで、
「アタシの勘では、そのユーバーって王子のほうが怪しいね。いいウワサも聞かない。第3王子が本当に罪を犯したのかすら疑わしいね」
「ウチら、悪い貴族とか王族は許さないし。逆にそいつらにハメられたってゆーなら……そっちの味方をしたい、って思うし」
「そうか」
捜索範囲が広げられれば、このダンジョンを発見されるかもしれない。そして、もしもそこに逃亡王子が潜んでいれば危険が及ぶ……。
「情報助かるよ。ありがとうな、イメルダ、キア」
人間に完全に心を許す気はないが、見ていて面白い村娘ちゃんや、この信頼できる盗賊コンビはそこまで嫌いになれない。
「な、なんだい。素直で気持ち悪いね」
「っっ、照れるじゃん……」
「お礼代わりに、風呂入るか」
「「っっっ!?」」
このあとメチャクチャ風呂に入った。
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