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少年期2 - 万能の双子 -
大会・二回目2
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クリフの優勝が決まった闘技場内。
そこには祝福と戸惑いが入り混じっていた。
「あれ、何だったの? クリフの体が魔力になった」
マッドが心配そうだ。魔法道具の眼鏡は省エネのために一度外してもらった。
「分かんない。体が魔力に磨り潰されたんだけど、終わったらちゃんと戻ったよ」
アリエルが見たままを伝える。
「…………」
アッシュも少し心配そうにしている。
クリフは救護席に座って、治癒魔法使いに診てもらっているようだ。
そのクリフに女性が近づいてきた。
「あの人……」
アリエルはその姿をじっと見て、確信する。
「闇の魔法使いだ」
クリフとタタンと草原で魔物の大軍に遭遇した日。
タワーから放たれた魔法の気配。
あの後、兵団に聴取された時、あれが誰の魔法だったか聞いた。
十賢ガッド。
リリアンクの矛と呼ばれる魔法使いだ。
彼女は救護席の屋根に飛び乗った。
「心配するな! 私のと変わらん。もう何年もこうだが、ご覧の通りピンピンしている」
彼女は大音声で観衆に告げると、外套の前を広げた。
肌を露出する薄着で、体の一部が闇の魔力化している。
「貴様ら、今日は面白いものを見たな。まさに火力の化け物が生まれた瞬間を」
そういうと観衆の熱気はさらに高まった。
あの魔力化の原理は分からない。
だがクリフが十賢と同じ領域に踏み込んだということは理解した。
「ところで諸君、もっと面白いものを見たくないか?」
会場からは応じる声と疑問の声が溢れる。
ガッドの言に、会場が注目し左右されている。
「クリフとノアバート。三年間、この大会のトップに立っていた二人の決着がついた。だが、君達は今日、誰か足りないと思っていないか? そう、いまだ神秘のヴェールに包まれた存在に……」
会場がどよめく。
ガッドは、アリエルとアッシュを指差した。
「エキシビションマッチを行う! 対戦カードは優勝者クリフ、そして神秘の双子のタッグだ!!」
会場は今日一番の盛り上がりをみせた。
「勝手なことを!」
会場にいたレベル3クラスの教師は声を荒げた。
フィールドの入口へと走っていく。
だが、途中で別の運営が道を塞ぐ。
「ガッドからの命令です。この試合の間、誰も通すなと」
「こんなこと許されると……!」
「聞こえませんでしたか。十賢からの命令です」
彼は歯噛みしてその場を去った。
フィールドと会場を分かつ結界に、隙間が開けられた。
アリエルとアッシュはそこから浮遊魔法でフィールドに入る。
「勝った方には、そうだな……私から豪華温泉旅行を贈ろう!」
「旅行!」
アリエルとアッシュは大きく反応した。
友人宅でのお泊まり会や、修練場近くでキャンプをしたことはあるが、全て市内や市の周辺だ。
マナグレイスにも温泉はあるが豪華なホテルはないので、きっともっと遠くだろう。
見知らぬ土地……。アッシュと行きたい!
「それと! 負けた方は罰ゲームだ」
「ええっ」
アリエルはアッシュの手を引く。
「なんだろう。嫌なことなら勝負したくないな……」
「どうせ僕達が勝つから平気だよ」
アッシュはクリフ相手なのに自信満々だ。
「リリアンク代表のクリフは、負けたら猫耳を付けてもらう! ちょうど黄色の耳が似合いそうな髪色だしな!」
きゃあああっと観客が喜ぶ声ですごい騒ぎだ。
クリフの人気はすごい。
どうやらリリアンクの聖獣リンクの真似をさせるらしい。
(罰ゲームで神様の格好していいのかなあ?)
教師は今度は会場席からガッドに近づこうとした。
だが横目でそれを察知したガッドは、大きくジャンプしフィールドの中程へと移動した。
教師は声を張り上げるが、会場の熱気に押されて聞こえそうにない。
「くっ……」
教師は踵を返して会場を後にした。
「罰ゲーム、簡単そうでよかった」
アリエルは安心した。
「僕達は何の格好をするのかな」
ガッドは続けて告げる。
「ミスティアの二人は! えーと、人魚?」
今度は観客の反応が悪い。
(人魚……?)
アリエルは足を縛られてのたうつ自分達を想像した。
ちょっとやだ。
会場から他の案がいくつも飛び出してくる。
「白くま! ゆきんこ白くまでお願いします!」
その中で特に必死な女の子の声が聞こえた。
「白くまって、もっと北の生き物じゃなかったっけ」
「でもそれを言ったら人魚なんて空想だよ」
喧騒の中で、アリエルとアッシュはのんびりと会話する。
リリアンク市からミスティア王都まで、馬車で北へ一か月。
ミスティアが年中雪景色だと思っている人がたまにいる。
「よーし、ミスティア側は負けたらゆきんこ白くまだぁ!」
「やったああ!」
ガッドの決定に、女の子の歓喜の声が聞こえる。
「くま可愛いよね。でも負けないよ!」
ようやく始まるエキシビションマッチに向けて、アリエル達は気合を入れた。
「ノザン!」
貴賓席にいた男は、外から鋭い声に振り向く。
「ジュジュ、少し外す」
「うん」
側にいた『美少女』に声を掛けて、ノザンと呼ばれた男は貴賓席から出た。
そこには焦りを露わにした防御魔法の教師がいた。
貴賓席の扉に付いている護衛から、二人は距離を取って話す。
「師と連絡は取れないのか!」
「声を落とせ、タッカー。ゴーリーは地方へ視察中だ。それに連絡が取れてもこの場にいないのではどうしようもない。相手も十賢だ。試合の短い時間、ゴーリーを無視して押し切るつもりだろう」
「師の不在を利用して! あの野蛮な若造が……!」
「しっ」
近づいてくる足音に、ノザンは反応する。
ノアバートが駆けてきたようだ。
ジュジュのいる貴賓室が騒がしかったので気になったのだろう。
「父さん、と先生……」
「ノアバート、ジュジュの側にいてくれるか。不機嫌だからなだめてくれ」
「ああ……俺が負けたから」
「いや、原因はその後のクリフとのハグだろうな」
「?」
「お前はよくやった」
ノザンはノアバートの頭を撫でた。
ノアバートが貴賓室に入るのを見送り、二人は再び声を落とす。
「ゴーリーには、アリエルの件については無理をしなくていいと言われている」
「なっ」
タッカーはさらに不機嫌になった。
彼は指示を受けていないのだろう。
「お前は師の味方ではないのか」
「……ゴーリーは国第一の功労者だ。彼がアリエルを危険視するなら、私は彼に従う。だが彼が重要でないと思うなら、万能適性を研究したいという者に力を貸したい」
「だがあいつらは師との約条を反故にした!」
「…………」
ノザンもガッドの行儀の悪さは好かない。
ゴーリーが主導権を握れたのは、常日頃の国への貢献を評価されてのことだ。
それを力づくでひっくり返すなど、十賢の権力の乱用だ。
だが……。
「ゴーリーはガッドが仕掛けてくることを予想していなかったのだろうか」
「どういうことだ」
「あの人にしては隙があり過ぎる。そう思っただけだ」
アリエルとアッシュ。そしてクリフがフィールドで向かい合う。
「クリフ先輩、タッグ相手いなくていいの?」
「うーん。ノアバートがどこか行っちゃったんだよな」
三人できょろきょろしていると、ガッドが声を掛けた。
「時間がない。クリフは一人でいいだろ」
「はい」
ガッドはフィールドを離れた。
そして運営に協力している魔法使いに、結界を閉めるよう指示する。
閉まっていく結界。
――そこへ黒い影が一つ飛びこんだ。
「!」
乱入者に皆の注目が集まる。
「三年、クナイ。魔法道具の暗器を使う。クリフ君のパートナーを務めたい」
それは一人の男子生徒だった。
口をマフラーで覆った怪しい姿。
ローブタイプの制服のようだが、足を開きやすいよう改造されている。
その手には黒い刀身の短刀と思わしき物が握られている。
あれが魔法道具の暗器なのだろう。
「クナイ……? 大会には参加していなかったね」
「魔法道具込みでの戦いが俺の戦いゆえ」
大会では魔法道具を使えない。
それで参加を見送ったようだ。
「三年の授業でも目立った存在ではないな」
クリフの声音は、クナイの参加に消極的なように感じた。
息の合った万能タッグに、試合経験の少ない者と挑むくらいなら、一人がいいと思ったのだろう。
「……目立つ気はなかったのですが」
そう呟いて、クナイは消えた。
「――!」
そして一瞬でクリフの後ろに現れた。
「中等部の双璧の戦いに、神秘の国の双子の参加……。少々熱くなってしまいまして」
クリフは冷や汗をかく。
おそらく俊敏の魔法を瞬間的に使ったのだ。恐ろしい練度だ。
もしこれが試合中なら、一撃を受けて負けていただろう。
「いいよ。組もうか」
そこには祝福と戸惑いが入り混じっていた。
「あれ、何だったの? クリフの体が魔力になった」
マッドが心配そうだ。魔法道具の眼鏡は省エネのために一度外してもらった。
「分かんない。体が魔力に磨り潰されたんだけど、終わったらちゃんと戻ったよ」
アリエルが見たままを伝える。
「…………」
アッシュも少し心配そうにしている。
クリフは救護席に座って、治癒魔法使いに診てもらっているようだ。
そのクリフに女性が近づいてきた。
「あの人……」
アリエルはその姿をじっと見て、確信する。
「闇の魔法使いだ」
クリフとタタンと草原で魔物の大軍に遭遇した日。
タワーから放たれた魔法の気配。
あの後、兵団に聴取された時、あれが誰の魔法だったか聞いた。
十賢ガッド。
リリアンクの矛と呼ばれる魔法使いだ。
彼女は救護席の屋根に飛び乗った。
「心配するな! 私のと変わらん。もう何年もこうだが、ご覧の通りピンピンしている」
彼女は大音声で観衆に告げると、外套の前を広げた。
肌を露出する薄着で、体の一部が闇の魔力化している。
「貴様ら、今日は面白いものを見たな。まさに火力の化け物が生まれた瞬間を」
そういうと観衆の熱気はさらに高まった。
あの魔力化の原理は分からない。
だがクリフが十賢と同じ領域に踏み込んだということは理解した。
「ところで諸君、もっと面白いものを見たくないか?」
会場からは応じる声と疑問の声が溢れる。
ガッドの言に、会場が注目し左右されている。
「クリフとノアバート。三年間、この大会のトップに立っていた二人の決着がついた。だが、君達は今日、誰か足りないと思っていないか? そう、いまだ神秘のヴェールに包まれた存在に……」
会場がどよめく。
ガッドは、アリエルとアッシュを指差した。
「エキシビションマッチを行う! 対戦カードは優勝者クリフ、そして神秘の双子のタッグだ!!」
会場は今日一番の盛り上がりをみせた。
「勝手なことを!」
会場にいたレベル3クラスの教師は声を荒げた。
フィールドの入口へと走っていく。
だが、途中で別の運営が道を塞ぐ。
「ガッドからの命令です。この試合の間、誰も通すなと」
「こんなこと許されると……!」
「聞こえませんでしたか。十賢からの命令です」
彼は歯噛みしてその場を去った。
フィールドと会場を分かつ結界に、隙間が開けられた。
アリエルとアッシュはそこから浮遊魔法でフィールドに入る。
「勝った方には、そうだな……私から豪華温泉旅行を贈ろう!」
「旅行!」
アリエルとアッシュは大きく反応した。
友人宅でのお泊まり会や、修練場近くでキャンプをしたことはあるが、全て市内や市の周辺だ。
マナグレイスにも温泉はあるが豪華なホテルはないので、きっともっと遠くだろう。
見知らぬ土地……。アッシュと行きたい!
「それと! 負けた方は罰ゲームだ」
「ええっ」
アリエルはアッシュの手を引く。
「なんだろう。嫌なことなら勝負したくないな……」
「どうせ僕達が勝つから平気だよ」
アッシュはクリフ相手なのに自信満々だ。
「リリアンク代表のクリフは、負けたら猫耳を付けてもらう! ちょうど黄色の耳が似合いそうな髪色だしな!」
きゃあああっと観客が喜ぶ声ですごい騒ぎだ。
クリフの人気はすごい。
どうやらリリアンクの聖獣リンクの真似をさせるらしい。
(罰ゲームで神様の格好していいのかなあ?)
教師は今度は会場席からガッドに近づこうとした。
だが横目でそれを察知したガッドは、大きくジャンプしフィールドの中程へと移動した。
教師は声を張り上げるが、会場の熱気に押されて聞こえそうにない。
「くっ……」
教師は踵を返して会場を後にした。
「罰ゲーム、簡単そうでよかった」
アリエルは安心した。
「僕達は何の格好をするのかな」
ガッドは続けて告げる。
「ミスティアの二人は! えーと、人魚?」
今度は観客の反応が悪い。
(人魚……?)
アリエルは足を縛られてのたうつ自分達を想像した。
ちょっとやだ。
会場から他の案がいくつも飛び出してくる。
「白くま! ゆきんこ白くまでお願いします!」
その中で特に必死な女の子の声が聞こえた。
「白くまって、もっと北の生き物じゃなかったっけ」
「でもそれを言ったら人魚なんて空想だよ」
喧騒の中で、アリエルとアッシュはのんびりと会話する。
リリアンク市からミスティア王都まで、馬車で北へ一か月。
ミスティアが年中雪景色だと思っている人がたまにいる。
「よーし、ミスティア側は負けたらゆきんこ白くまだぁ!」
「やったああ!」
ガッドの決定に、女の子の歓喜の声が聞こえる。
「くま可愛いよね。でも負けないよ!」
ようやく始まるエキシビションマッチに向けて、アリエル達は気合を入れた。
「ノザン!」
貴賓席にいた男は、外から鋭い声に振り向く。
「ジュジュ、少し外す」
「うん」
側にいた『美少女』に声を掛けて、ノザンと呼ばれた男は貴賓席から出た。
そこには焦りを露わにした防御魔法の教師がいた。
貴賓席の扉に付いている護衛から、二人は距離を取って話す。
「師と連絡は取れないのか!」
「声を落とせ、タッカー。ゴーリーは地方へ視察中だ。それに連絡が取れてもこの場にいないのではどうしようもない。相手も十賢だ。試合の短い時間、ゴーリーを無視して押し切るつもりだろう」
「師の不在を利用して! あの野蛮な若造が……!」
「しっ」
近づいてくる足音に、ノザンは反応する。
ノアバートが駆けてきたようだ。
ジュジュのいる貴賓室が騒がしかったので気になったのだろう。
「父さん、と先生……」
「ノアバート、ジュジュの側にいてくれるか。不機嫌だからなだめてくれ」
「ああ……俺が負けたから」
「いや、原因はその後のクリフとのハグだろうな」
「?」
「お前はよくやった」
ノザンはノアバートの頭を撫でた。
ノアバートが貴賓室に入るのを見送り、二人は再び声を落とす。
「ゴーリーには、アリエルの件については無理をしなくていいと言われている」
「なっ」
タッカーはさらに不機嫌になった。
彼は指示を受けていないのだろう。
「お前は師の味方ではないのか」
「……ゴーリーは国第一の功労者だ。彼がアリエルを危険視するなら、私は彼に従う。だが彼が重要でないと思うなら、万能適性を研究したいという者に力を貸したい」
「だがあいつらは師との約条を反故にした!」
「…………」
ノザンもガッドの行儀の悪さは好かない。
ゴーリーが主導権を握れたのは、常日頃の国への貢献を評価されてのことだ。
それを力づくでひっくり返すなど、十賢の権力の乱用だ。
だが……。
「ゴーリーはガッドが仕掛けてくることを予想していなかったのだろうか」
「どういうことだ」
「あの人にしては隙があり過ぎる。そう思っただけだ」
アリエルとアッシュ。そしてクリフがフィールドで向かい合う。
「クリフ先輩、タッグ相手いなくていいの?」
「うーん。ノアバートがどこか行っちゃったんだよな」
三人できょろきょろしていると、ガッドが声を掛けた。
「時間がない。クリフは一人でいいだろ」
「はい」
ガッドはフィールドを離れた。
そして運営に協力している魔法使いに、結界を閉めるよう指示する。
閉まっていく結界。
――そこへ黒い影が一つ飛びこんだ。
「!」
乱入者に皆の注目が集まる。
「三年、クナイ。魔法道具の暗器を使う。クリフ君のパートナーを務めたい」
それは一人の男子生徒だった。
口をマフラーで覆った怪しい姿。
ローブタイプの制服のようだが、足を開きやすいよう改造されている。
その手には黒い刀身の短刀と思わしき物が握られている。
あれが魔法道具の暗器なのだろう。
「クナイ……? 大会には参加していなかったね」
「魔法道具込みでの戦いが俺の戦いゆえ」
大会では魔法道具を使えない。
それで参加を見送ったようだ。
「三年の授業でも目立った存在ではないな」
クリフの声音は、クナイの参加に消極的なように感じた。
息の合った万能タッグに、試合経験の少ない者と挑むくらいなら、一人がいいと思ったのだろう。
「……目立つ気はなかったのですが」
そう呟いて、クナイは消えた。
「――!」
そして一瞬でクリフの後ろに現れた。
「中等部の双璧の戦いに、神秘の国の双子の参加……。少々熱くなってしまいまして」
クリフは冷や汗をかく。
おそらく俊敏の魔法を瞬間的に使ったのだ。恐ろしい練度だ。
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「いいよ。組もうか」
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