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少年期 - 魔法使いの卵たち ‐
敗北2
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それからしばらくして、学力試験の反省会は解散した。
「成績アップ作戦、どうしようね」
アリエルはノートを閉じて、帰り支度をしながらアッシュに言う。
皆と話して、敗北の落ち込みはなんとか軽くなった。
けれど作戦が失敗したことには変わりない。
「アリエル、いいところに」
「トーラ先生」
教室にトーラが顔を出した。
「手を貸してもらってもいいかな。土魔法が必要なの」
「いいですよ」
トーラと共にアリエルとアッシュは校内を移動する。
「修練場を直してほしいんだ」
外に出て驚いた。
「二年生のツートップが対戦して、こんなことになっちゃった」
広い修練場が痛ましいほど焦げついたり抉れている。
「全面でしちゃったから隣の修練場もこんな感じで、整備員さんだけじゃ間に合わないの」
「わあ……」
とんでもない破壊力だ。これでたった一学年違うだけなんて。
「当の二人は……あっ、あそこにいる」
修練場に制服姿が見えた。
すっとした立ち姿が綺麗な男子生徒。
でも一人だけだ。
もう一人は……。
アリエルとアッシュの首筋に、痺れるような衝撃が走った。
「あったー!」
頭上から、よく通る声が響いた。
アリエルとアッシュが上を向くと、青い大きな影があった。
巨大な青い布がはためきながら降りてくる。
(何――あの魔力)
とてつもなく凝縮された魔力が、その身に渦巻いていた。
軽やかに着地したのは、アリエル達より少し背の高い男の子。
蜂蜜色の金髪がふわっと揺れた。
「見つかったよ、ノア!」
彼は修練場に立つ男子生徒にそう呼びかけた。
「まあ、クリフ。校章の旗も吹っ飛ばしていたのね」
トーラの声に、飛び降りてきた男の子が振り向いた。
「あ、先生。すみません……」
その子は整った顔に気まずそうな表情を浮かべる。
そして隣にいるアリエル達に目を向けた。
「直してくれる人を連れてきてくれたんですか」
今度は嬉しそうな表情に変わった。
もう一人の男子生徒もこちらに来て、隣に並んだ。
二人の襟の学年色はマゼンタレッド。二年生だ。
ラティと同様に背が高くてスタイルが良い。
かなり運動が得意そうな人達だ。
「一年生のアリエルとアッシュよ。アリエルに土魔法を頼んだの」
トーラが間に立って紹介してくれた。
「来てくれてありがとう。俺はクリフ」
笑顔と蜂蜜色の金髪が眩しい。
青い目をキラキラさせて、歓迎の心を露わにしている。
「俺はノアバートだ。よろしく」
黒髪でクールな印象の先輩だが、少しだけ微笑んで挨拶してくれた。
「よろしくお願いします。クリフ先輩、ノアバート先輩」
「よろしくお願いします」
アリエルはボコボコの修練場に足を踏み入れた。
「この……ひと際大きな穴は」
「クリフがやった」
「ご、ごめん……」
クリフは恐縮する。
「すごいパワーですね。魔法撃つところ見てみたいです。かっこいい」
アリエルは率直に感動の言葉を発した。
「!!!」
アッシュが目を見開く。
「か……かっこ……」
「?」
震えるアッシュに、アリエルは首を傾げる。
凄すぎてびっくりしたのだろうか。
「アリエルが来てくれて助かる。俺もノアも直すのは不得意で」
「お安い御用です」
「クリフは学年は上だけど、アリエル達と二人と同い年なの。ノアバートは一歳上」
ということはクリフは通常より二歳も早い進学だ。
「へー、びっくりだねー。……アッシュ!?」
アッシュが凶悪な人相でクリフを睨んでいる。
(レアかわ……じゃなくてっ! 一体なぜ)
「同じ齢だから、俺のことはクリフでいいよ」
クリフはアッシュの表情の不穏さに気づいていないようだ。
「そんな。ちゃんと先輩って呼びます」
「クリフ。アリエル様が直すから、そこどいて」
「ア、アッシュ」
「分かった。頼む」
アッシュの不遜な態度にも、クリフは笑顔のまま。
おおらかな人だ。
アリエルが土魔法で修復するのを見ながら、トーラが言った。
「レベル4クラスの先生ってば全面でさせるなんて」
「すみません。先生にたまには全力を出せって言われて」
「……まあ、それはそうね。でもこれからは本課程か郊外の設備を借りた方がいいかも」
「そうします」
一面を直したところで、アリエルは手を止める。
「ふう、ちょっと休憩」
「ありがとう。お礼はえっと、飴しかないけど」
「あ、美味しいのだ」
トーラの手には、ミスティアからの旅で知り合ったお姉さんがくれたものと同じ包み紙があった。
だがアリエルが承諾する前に、
「いいえ。別のがいいです」
とアッシュが割り込んだ。
そしてクリフを指差し、
「クリフ! 僕と決闘しろ!」
と言い放った。
(けっとう? ……けっとー……決闘!?)
突然の宣戦布告にアリエルは驚く。
「えっと……いいよ。ルールは?」
クリフは戸惑いつつも応じるようだ。
「ルール無用! どっちかが倒れるまで!」
「分かった」
「ちょっとアッシュ!」
魔法ができないのに、二年生のツートップといわれる人に物理攻撃だけで勝つつもりか。
「あわわわ」
アリエルは焦りながら、すぐさま先日禁止扱いされた魔法道具の付与魔法を取り出して、威力のキャップを外す調整をした。
それを見たトーラが、
「ちょっとアリエル! そんなの使ったらまた修練場が壊れちゃうでしょ!?」
と止める。
「だってぇ……」
心配するアリエルをよそに、アッシュはクリフをギラギラと睨んでいた。
そこへノアバートが提案する。
「アッシュ、君は魔法使えないと聞いた。それなら魔法無しのルールで対戦したらどうだ」
「あれ」
クリフが不思議そうな顔をした。
「魔力多いのにそうなんだ。ノア、この子のこと知っているの?」
「アリエルは話題になっていたし、その友人のアッシュだろう」
「そっか。じゃあアッシュ、魔法無しでやろう」
「別にそっちは使っていいのに……」
アッシュが無謀なことを言うので、
「魔法無しでお願いします!」
アリエルが飛びつくように承諾した。
アリエルと整備員が手分けして、修練場の整地が終わった。
アッシュとクリフはその修練場の一つで対峙した。
はらはらと見守るアリエルに、後ろから声が掛かる。
「アリエル。どうしてアッシュがクリフ先輩の相手をしているんだ」
「ランド、ラティ」
先に帰ったのに、まだいたようだ。
「もう始まるっすよ」
三人は友人と二年生主席の戦いに集中する。
「魔法無し。先に二本当てた方が勝ちだ」
ノアバートが審判となり、ルールを確認した。
二人にはトーラが二撃分の防護結界を張っている。
武器は木剣。
審判が手を前に出す。
次の合図で開始だ。
「――――」
朗らかだったクリフの表情が一変する。
静かで隙がない。
張り詰めた空気に、見学のアリエル達も緊張する。
(これが二年生のトップレベルの魔法使い。でも物理戦闘なら、アッシュはあれからラティと繰り返し対戦している。きっと勝てる……!)
アリエルはアッシュの勝利を祈る。
「始め!」
アッシュが全力でダッシュした。またスピードが上がっている。
クリフはその場に構えたまま。
(来る)
ラティとの模擬戦でよく見るアッシュの得意戦法。
最後の一歩を急激に軽く踏む。
その速さで、対戦相手には消えたかのように見えるのだ。
(もう避けられない!)
アッシュの剣先がクリフの左脇を捉えようとした。
「――ッ」
パリンッと結界が割れる。
――アッシュの結界が。
クリフはアッシュに一撃を入れた。そして避けた。
ただそれだけ。
ただ……それはあまりにも一瞬だった。
アッシュは明らかに虚を衝かれた。
その体勢は前のめり。剣は下方に向いていて、クリフの前のまな板に差し出された魚のようにしか見えない。
アッシュの背に向けて、クリフの剣が振り下ろされる。
「ォらあッ!」
アッシュは跳躍するように前に回転しつつ、脇から後ろに剣を突き出す。
最短距離でクリフに剣を伸ばし、クリフの剣を弾いたのだ。
「――ッ」
クリフもこの反撃は想定外だったようだ。
だが今、アッシュの足はどちらも宙に浮いてしまっている。
次のステップを踏むには、地面に足を着けて蹴るという二動作が必要だ。
クリフはその致命的な隙を見逃さなかった。
パリンッ。
もう一枚の結界が割れる。
「あ……」
アッシュの二枚目の結界が、儚い光を瞬かせて消えていく。
「勝者、クリフッ」
地に転がったアッシュはどうにか受け身を取りしゃがんだ体勢に立て直す。
そして歯を食いしばり、見下ろすクリフを睨み上げた。
「成績アップ作戦、どうしようね」
アリエルはノートを閉じて、帰り支度をしながらアッシュに言う。
皆と話して、敗北の落ち込みはなんとか軽くなった。
けれど作戦が失敗したことには変わりない。
「アリエル、いいところに」
「トーラ先生」
教室にトーラが顔を出した。
「手を貸してもらってもいいかな。土魔法が必要なの」
「いいですよ」
トーラと共にアリエルとアッシュは校内を移動する。
「修練場を直してほしいんだ」
外に出て驚いた。
「二年生のツートップが対戦して、こんなことになっちゃった」
広い修練場が痛ましいほど焦げついたり抉れている。
「全面でしちゃったから隣の修練場もこんな感じで、整備員さんだけじゃ間に合わないの」
「わあ……」
とんでもない破壊力だ。これでたった一学年違うだけなんて。
「当の二人は……あっ、あそこにいる」
修練場に制服姿が見えた。
すっとした立ち姿が綺麗な男子生徒。
でも一人だけだ。
もう一人は……。
アリエルとアッシュの首筋に、痺れるような衝撃が走った。
「あったー!」
頭上から、よく通る声が響いた。
アリエルとアッシュが上を向くと、青い大きな影があった。
巨大な青い布がはためきながら降りてくる。
(何――あの魔力)
とてつもなく凝縮された魔力が、その身に渦巻いていた。
軽やかに着地したのは、アリエル達より少し背の高い男の子。
蜂蜜色の金髪がふわっと揺れた。
「見つかったよ、ノア!」
彼は修練場に立つ男子生徒にそう呼びかけた。
「まあ、クリフ。校章の旗も吹っ飛ばしていたのね」
トーラの声に、飛び降りてきた男の子が振り向いた。
「あ、先生。すみません……」
その子は整った顔に気まずそうな表情を浮かべる。
そして隣にいるアリエル達に目を向けた。
「直してくれる人を連れてきてくれたんですか」
今度は嬉しそうな表情に変わった。
もう一人の男子生徒もこちらに来て、隣に並んだ。
二人の襟の学年色はマゼンタレッド。二年生だ。
ラティと同様に背が高くてスタイルが良い。
かなり運動が得意そうな人達だ。
「一年生のアリエルとアッシュよ。アリエルに土魔法を頼んだの」
トーラが間に立って紹介してくれた。
「来てくれてありがとう。俺はクリフ」
笑顔と蜂蜜色の金髪が眩しい。
青い目をキラキラさせて、歓迎の心を露わにしている。
「俺はノアバートだ。よろしく」
黒髪でクールな印象の先輩だが、少しだけ微笑んで挨拶してくれた。
「よろしくお願いします。クリフ先輩、ノアバート先輩」
「よろしくお願いします」
アリエルはボコボコの修練場に足を踏み入れた。
「この……ひと際大きな穴は」
「クリフがやった」
「ご、ごめん……」
クリフは恐縮する。
「すごいパワーですね。魔法撃つところ見てみたいです。かっこいい」
アリエルは率直に感動の言葉を発した。
「!!!」
アッシュが目を見開く。
「か……かっこ……」
「?」
震えるアッシュに、アリエルは首を傾げる。
凄すぎてびっくりしたのだろうか。
「アリエルが来てくれて助かる。俺もノアも直すのは不得意で」
「お安い御用です」
「クリフは学年は上だけど、アリエル達と二人と同い年なの。ノアバートは一歳上」
ということはクリフは通常より二歳も早い進学だ。
「へー、びっくりだねー。……アッシュ!?」
アッシュが凶悪な人相でクリフを睨んでいる。
(レアかわ……じゃなくてっ! 一体なぜ)
「同じ齢だから、俺のことはクリフでいいよ」
クリフはアッシュの表情の不穏さに気づいていないようだ。
「そんな。ちゃんと先輩って呼びます」
「クリフ。アリエル様が直すから、そこどいて」
「ア、アッシュ」
「分かった。頼む」
アッシュの不遜な態度にも、クリフは笑顔のまま。
おおらかな人だ。
アリエルが土魔法で修復するのを見ながら、トーラが言った。
「レベル4クラスの先生ってば全面でさせるなんて」
「すみません。先生にたまには全力を出せって言われて」
「……まあ、それはそうね。でもこれからは本課程か郊外の設備を借りた方がいいかも」
「そうします」
一面を直したところで、アリエルは手を止める。
「ふう、ちょっと休憩」
「ありがとう。お礼はえっと、飴しかないけど」
「あ、美味しいのだ」
トーラの手には、ミスティアからの旅で知り合ったお姉さんがくれたものと同じ包み紙があった。
だがアリエルが承諾する前に、
「いいえ。別のがいいです」
とアッシュが割り込んだ。
そしてクリフを指差し、
「クリフ! 僕と決闘しろ!」
と言い放った。
(けっとう? ……けっとー……決闘!?)
突然の宣戦布告にアリエルは驚く。
「えっと……いいよ。ルールは?」
クリフは戸惑いつつも応じるようだ。
「ルール無用! どっちかが倒れるまで!」
「分かった」
「ちょっとアッシュ!」
魔法ができないのに、二年生のツートップといわれる人に物理攻撃だけで勝つつもりか。
「あわわわ」
アリエルは焦りながら、すぐさま先日禁止扱いされた魔法道具の付与魔法を取り出して、威力のキャップを外す調整をした。
それを見たトーラが、
「ちょっとアリエル! そんなの使ったらまた修練場が壊れちゃうでしょ!?」
と止める。
「だってぇ……」
心配するアリエルをよそに、アッシュはクリフをギラギラと睨んでいた。
そこへノアバートが提案する。
「アッシュ、君は魔法使えないと聞いた。それなら魔法無しのルールで対戦したらどうだ」
「あれ」
クリフが不思議そうな顔をした。
「魔力多いのにそうなんだ。ノア、この子のこと知っているの?」
「アリエルは話題になっていたし、その友人のアッシュだろう」
「そっか。じゃあアッシュ、魔法無しでやろう」
「別にそっちは使っていいのに……」
アッシュが無謀なことを言うので、
「魔法無しでお願いします!」
アリエルが飛びつくように承諾した。
アリエルと整備員が手分けして、修練場の整地が終わった。
アッシュとクリフはその修練場の一つで対峙した。
はらはらと見守るアリエルに、後ろから声が掛かる。
「アリエル。どうしてアッシュがクリフ先輩の相手をしているんだ」
「ランド、ラティ」
先に帰ったのに、まだいたようだ。
「もう始まるっすよ」
三人は友人と二年生主席の戦いに集中する。
「魔法無し。先に二本当てた方が勝ちだ」
ノアバートが審判となり、ルールを確認した。
二人にはトーラが二撃分の防護結界を張っている。
武器は木剣。
審判が手を前に出す。
次の合図で開始だ。
「――――」
朗らかだったクリフの表情が一変する。
静かで隙がない。
張り詰めた空気に、見学のアリエル達も緊張する。
(これが二年生のトップレベルの魔法使い。でも物理戦闘なら、アッシュはあれからラティと繰り返し対戦している。きっと勝てる……!)
アリエルはアッシュの勝利を祈る。
「始め!」
アッシュが全力でダッシュした。またスピードが上がっている。
クリフはその場に構えたまま。
(来る)
ラティとの模擬戦でよく見るアッシュの得意戦法。
最後の一歩を急激に軽く踏む。
その速さで、対戦相手には消えたかのように見えるのだ。
(もう避けられない!)
アッシュの剣先がクリフの左脇を捉えようとした。
「――ッ」
パリンッと結界が割れる。
――アッシュの結界が。
クリフはアッシュに一撃を入れた。そして避けた。
ただそれだけ。
ただ……それはあまりにも一瞬だった。
アッシュは明らかに虚を衝かれた。
その体勢は前のめり。剣は下方に向いていて、クリフの前のまな板に差し出された魚のようにしか見えない。
アッシュの背に向けて、クリフの剣が振り下ろされる。
「ォらあッ!」
アッシュは跳躍するように前に回転しつつ、脇から後ろに剣を突き出す。
最短距離でクリフに剣を伸ばし、クリフの剣を弾いたのだ。
「――ッ」
クリフもこの反撃は想定外だったようだ。
だが今、アッシュの足はどちらも宙に浮いてしまっている。
次のステップを踏むには、地面に足を着けて蹴るという二動作が必要だ。
クリフはその致命的な隙を見逃さなかった。
パリンッ。
もう一枚の結界が割れる。
「あ……」
アッシュの二枚目の結界が、儚い光を瞬かせて消えていく。
「勝者、クリフッ」
地に転がったアッシュはどうにか受け身を取りしゃがんだ体勢に立て直す。
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