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少年期 - 魔法使いの卵たち ‐

友人3

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「アリエル様ー! 頑張ってー!」
「ランド様ー! 頑張ってぇー♪」
 自分の番が終わったアッシュ、ラティ、それとマッドが見学している。
 アリエルは嬉しくて、こそっと手を振る。
 ランドは無視していた。

 レベル3での対戦について説明された。
 防護結界を破るには、ある程度の威力が必要。
 それ以外は同じルールだ。

 ただしアリエルは、
「君は本来レベル4だったな。では魔法は五種類まで」
 と一人だけ言われてしまった。
(思いつきで使っていたらすぐに使い切っちゃう。考えなきゃ……)

 ふと気になって教師に質問する。部分的に巻いた独特の髪型の教師だ。
「今掛けてもらった防護結界の内側にも、防護魔法を掛けているのですがそれもカウントしますか」
「それは数えなくて構わない。だが感知魔法はカウントする」
「えっ」
 先程アッシュ対ラティ戦の見学中、魔物がいないか探したからだろうか。
 今は使っていないのに。
「では位置について」
「わわっ」
 考える時間がない。
 アッシュの魔法道具が使用不可だったこともそうだが、次からは事前にレギュレーションを確認しよう。

「詠唱」
 開始前の詠唱時間。
「《嵐雲》」
 ランドが風魔法らしき魔法を発動しようとしている。
(とりあえず、ランドは魔力多め。そして風魔法が得意って言っていた。風魔法はシンプルに速い。それと手数も多くできる)
 アリエルはランドを観察しながら自分の戦い方を考える。
(なんか、大きい?)
 ランドの魔力層がフィールド全体を包んでいる。
(どういう攻撃なんだろう。浮遊魔法で避けるのは、素早くて遠距離が得意な風相手では有利を取れない。防護魔法は……手数でこられるとすぐに制限回数に達しちゃう。でもこれだけ大掛かりな魔法なら一点のパワーは落ちる?)
 とりあえずアリエルは規定ギリギリの耐久力の防護結界を張った。
 感知魔法と合わせてこれで二種類。

「始め!」
「《風牙》」
 ランドが作っていた魔力層。
 そこに一度に風の刃が生まれ、四方八方から襲いかかった。
 アリエルは防護結界で受け止める。
 できれば耐久力を保つために角度を調整して受け流したかったが、数が多すぎて不可能だ。
 アリエルは欠けた防護結界を作り直す。
 これで授業における使用制限数に達してしまった。

 ランドの攻撃が止む。ようやく全弾を撃ち切ったようだ。
 アリエルにはボロボロの結界が辛うじて残ったが、次の攻撃で破られてしまうだろう。

(最初のは風魔法のための場を作る魔法だったんだ)
 【嵐雲】は直接攻撃するものではないが、魔法の発動中は風魔法の生成スピードや威力、術者とのリンクが上がるようだ。
 大掛かりな魔法で使いどころが難しそうだが、詠唱時間が確保されているなら使いやすくなる。
(ランドはルールを活かしている)
 アリエルの苦手なところだ。

「《鋒嵐》」
 ランドが第二波を生成していく。
「魔力量が上がった……ッ」
 空中に並ぶ風の槍。
 おそらく全ての攻撃が、結界の耐久力を超える威力になっている。

「《土竜》」
 土を波のように隆起させ、襲い来る風の槍を防いだ。
 三種類目。
「速いな。土魔法も実戦レベルなのか」
 そう言って再び攻撃してくる。
 土壁が壊され、アリエルは再び生成する。
(ランドの魔力、まだ余裕そう)
 ランドの魔力生成は純度が低いようだが、元々風魔法は消費魔力が少なめだし、補助魔法で補っている。
 長引けば魔力量で押し切られるかもしれない。
(そうだ)
 アリエルは押し寄せる風の刃に向かって構える。
「《風刃》」
 ランドの風に風をぶつけて相殺した。
「できた!」
 嵐雲の効果も感じた。
 使用者に関わらず恩恵を受けられるようだ。
「よしこれで同じ条件……わっ!」
 相殺しきれなかった刃が襲ってくる。アリエルは土壁に隠れた。
(しまった)
 ランドの方が操っている数が多い。
 風魔法は特化しているランドの方が上手いのだ。
(四種類目。あと一種類しか使えない。それに……まだ全然攻撃できていない)
 ランドは速さと範囲を兼ね備えた風魔法で、攻守両面の有利を取っている。
(僕も攻撃を)
 土壁から身を乗り出すが、ランドの攻撃が激しくて再び引っ込む。

 一瞬だがランドの様子が見えた。
(……ギリギリ僕の方が魔力の持続力は上?)
 ランドの魔力量は多いが、純度はあまり高くない。効率が悪いのだ。
 というよりリリアンクに来てから気づいたのだが、魔力の純度についてはアリエルとアッシュがずば抜けている。
(このまま待って、ランドが疲れたところを……)

「アリエル様あー!」
 声のした方を見た。アッシュが眉を寄せて、口を引き結んでいる。
(心配している顔)
 そして――。
(信じている顔)

 アリエルがぐっと気合を入れ直す。
「勝つ」
 ギリギリの可能性を待つだけなんて、そんな戦いアッシュに見せられない。
 この手で可能性を引き寄せなくては。
(勝てる魔法……。僕だけの得意なこと)
 アリエルはなんでもできる分、一つの系統に頓着してこなかった。

(攻撃手段が欲しい)
 使った魔法は風、土、防護、それと感知。
 この中では攻撃というと風魔法だが、ランドには手の内が読まれるかもしれない。
『五種類』と言われたからには、威力だけならともかく効果を大きく変えるのは反則になりかねない。
 土魔法でも攻撃できなくはないが、やや攻撃速度が遅く射程が短い。

(僕って防御ばっかり得意になって、全然……。あれ?)
 防御だけど、得意魔法ではある。

「!」
 土壁が壊れた。
 ランドは攻撃の手を緩めない。
(土で防いだ。風で相殺した)
 アリエルは風の刃に手を伸ばす。
 そして五種類目。
 最後の魔法を使った。
「《反転せよ》」
 アリエルの魔力がランドの風を次々と捕らえ、塗り替えた。
 風はぐるりと弧を描き、ランドの方へと放たれる。
「《風紗》!」
 ランドは風のヴェールで弾いた。
「魔力干渉! こんなに正確に……。!」
 ランドは気づいた。
 風の刃が一つ、ヴェールに突き刺さったあと消えない。
 それは空気を震わしてヴェールの構造を壊していく。
「術者から離れての干渉……!?」
 ヴェールが振り払われたランドの視界には、アリエルの追撃――【風刃】が迫っていた。

 結界の割れる音が修練場に響き渡る。
「勝者、アリエル!」

「勝った!」
「やったー! アリエル様ー!」
 向こうで見ていたアッシュが喜んでくれている。
 その声を聞いて、アリエルの緊張と疲れは清涼感へと変わっていく。

「干渉魔法、いいかも」
『初級魔法読本』には載っていない魔法。
 解析魔法と同じ【魔法操作魔法】の系統だ。
 他の系統の魔法にも働きかけることができる魔法である。
 ランドの攻撃の方向を反転させた。
 万能の適性を持ち、多くの系統の魔法を使ったことがあるアリエルと相性がいい。
 それに単純な魔法に干渉する分には、魔力消費が少ない。
 シンプルな魔法である風魔法には有利を取れる。
 風魔法のスピードに反応できることが前提ではあるが。
 ヴェールの破壊を狙わなくても、あれだけでランドの魔力切れまで押し切ることもできただろう。

 ヴェールの破壊には、風魔法と魔法操作を組み合わせた。
 矢のように進む風に、広がる風を閉じ込めた。魔法操作で方向を操り、二つの力を保って。
 一つ目の風が消えた時、二つ目の風が吹き荒れる。
 それによってランドの警戒を突破して風の護りを突破できた。

(魔法兵団のかっこいい魔法、ちょっと真似できた)
 段階を持たせることを思いついたのは、中央魔法兵団のフラドの戦い方を思い出したのだ。
 あの時、魔物が暴れる度に拘束の魔法がさらに増えていた。
 あの魔法は多分、魔物が出現する前から細かいところまで構築されていた。
 対象の動きに反応して拘束する、置き罠のような魔法。
 あれなら素早く発動できるし、想定外の形態の魔物が出現しても自動で変化して対応できる。

(時間差のある発動。これって呪印に弾かれた時に似ている)
 呪印は過去に掛けた魔法だけでアリエルを退けた。
 つまりどんな解呪が施されるか『予想』して妨害している。
(魔力操作防護。これを工夫していけば、呪印を構築した人の思考が分かるかも)



「アリエル様ー」
 授業が終わり、アッシュが駆け寄ってきた。可愛い。
「アリエル様かっこよかった!」
「えへへっ。ありがとう。アッシュも格好よかった」
「でしょ!」
 得意げアッシュ。かわいー……。
 アリエルがほわほわの感情に揺蕩っている横で、ラティがランドに近づく。

「えっと、ランド様かっこよかったっすよ」
「うるさい……」
 ランドの地を這うような声に、アリエルははっと目をやった。
 ランドの目に射抜かれて、アリエルはたじろぐ。
(アッシュ以外との真剣勝負、初めてだ。どう思っているんだろう)
 まだ友達になったばかりの相手の反応に、アリエルはドキドキする。
「風の防護を破った魔法だが」
「う、うん」
「どうやったのか詳しく教えてくれないか。私は魔法操作の適性があるが、まだ追尾もろくにできない。アリエルの知恵を貸してほしい」
「! もちろん!」
 友達に頼まれちゃった。嬉しい。
「ランド様が素直……」
 茶々を入れるラティをひと睨みするランド。
「悔しくはあるが、学ぶためにこの学園に来たんだ。アリエルと対戦できてよかった」
「僕も!」

 ランドに追い詰められたから勝ちたいと思った。勝ちたいと思ったから手持ちのカードに気づけた。
「また戦おうね」
「ああ」

 アリエルはアッシュに目を向ける。

『罪滅ぼしじゃなくて、一緒に笑うために頑張りたい』

 ミスティアを旅立つ前にアッシュがくれた言葉。
 この日々はきっと、実り多く楽しいものになる。
 六人で魔法についてあれこれ話しながら、次の授業へ向かった。
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