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少年期 - 魔法使いの卵たち ‐
引っ越し2
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エントランスロビーのテーブルで、事務員に手続きをしてもらった。
「中等部では皆さん普通クラスに所属し、さらに任意で魔法クラスを選択できます。二人とも魔法クラスも受講しますか」
「はい」
「ではアリエル君はレベル4、アッシュ君はレベル1の魔法クラスに入ってもらいます」
机に広げられた案内書を読むと、魔法クラスはレベル1から4まであるようだ。
レベル1は魔法が使えなくても入れて、能力の発見、開発を目的とした授業がある。
アッシュがレベル2のクラスに上がれるかは、魔法学園のサポートがあったとしても運次第だそうだ。
アリエルとの大きなレベル差を示されて、アッシュは口を引き結んだ。
「アリエル君の魔法レベルならば本課程に飛び級も可能ですが、いかがしますか。留学が早く済みますよ」
アッシュはぎょっとして泣きそうになった。
本課程は他所でいうところの大学にあたる。
『魔法学園』とだけいえば、表すのは本課程もしくは研究室群のことだ。
「本課程の学生にならないと、大事な資料や研究に触れられないのでしょうか」
「いえ。ある程度信頼があれば中等部生徒でも大丈夫ですよ。特にアリエル君になら融通したい先生は多いと思います」
「それならゆっくり学びたいので、中等部からでいいです」
リリアンクでの目的は隷属魔法の解呪だ。
ミスティアに戻るのはいつでもいい。
「承知しました。でしたらいっそレベル3から始めるのはどうでしょう。レベル4とは違う魔法を数多く教えています。普通はそのうち二つ三つ使えればいいのですが、アリエル君は抜群の適性の幅を持っているので、一年ほど端から端まで挑戦してみては」
「んー……。はいっ。そうします」
「ではレベル3から。あ、図書館の閲覧権限はレベル4相当にしておきますね。取り扱い注意の魔法書や、本課程の講義記録など、閲覧範囲が広がります。権限がない資料も、先生の口利きで見られるものがありますので頼んでみてください」
「ありがとうございます!」
さすが魔法学園。
魔法教育の選択肢が多い。
面談はすぐに終わった。
「それじゃあ、おじい様に会いにいこう」
「うん」
案内書の地図を見て、中央棟の総合受付に向かうことにする。
「え……。おじい様とは、ハニアスタ氏のことですか」
まだ近くにいた担当者が、驚いた様子で訊いた。
「はい。約束はしていないのですが」
「約束をしていないなら、氏と会うことは絶対にできませんよ」
そうなのか。
(忙しいのかな。あ、旅しているのかも。……でも、おじい様には会わないと)
「ご要件は」
「隷……いえっ、個人的なことです」
「そうですか。総合受付だと待たされそうですね。私から学長に聞いておきます。返答は後日になっても構いませんか」
「はい。住居の欄がまだ空欄なので、決まったら報告に来る予定です。その時にお願いできますか」
「承知しました。お待ちしています」
ハニアスタを問い詰める予定が空白になってしまった。
お腹が空いたので、広場のフードコーナーに立ち寄った。
パラソルの下のテーブルで昼食にする。
鶏肉の香ばしい焼き目が食欲をそそる。
けれどアッシュは魔法のレベルの差をまだ気にしていた。
「僕、絶対追いつく」
「アッシュ……」
キッと真剣な涙目が可愛い……じゃなくて頼もしい!
(お父様お母様は、僕の分も家事をしさえすれば学費を出すと言っていたけど。アッシュは頑張り屋だなあ)
「アリエル様に並ぶ魔法使いになる!」
「うん。頑張ろう!」
アッシュの気合いに触発されて、アリエルも気合を入れる。
「やっぱりアッシュが隣にいると元気が出る」
「そう?」
「そうだよ。一緒に来てくれてありがとう」
「――!」
薄紫色の宝石のような目が、きらきらと輝いた。
元気を充填した二人は、広場の露店を眺めながら歩く。
店主オリジナルの妖しい魔法道具が置いてある店や、同じ齢くらいの子が売り子の店に寄ったりした。
そして学園を出てすぐ南の地区で、宿を取り荷物を置いた。
身軽になって街に繰り出す。
「住むとこ探しだっ」
「どこがいいかな」
これから学園のおすすめの寮や貸家を下見しにいく。
いくつかの候補地が載った地図をもらっているのだ。
まずは近くの銀行に寄って、送金関連の手続きをする。
ついでに送金額の証明書をもらった。
これがあると話が早いらしい。
学園の事務員が教えてくれた小技だ。
「天気がいいね」
リリアンクはオレンジ色の屋根が多く、植物の種類が豊富だ。
なんてことのない街並みも、ミスティアとは随分印象が違う。
「わあ……」
アパートメントに挟まれた細長い庭に、色とりどりの花が溢れていて見惚れた。
水やりをしていた大きなひさしの帽子の女性がにっこりと微笑む。
アリエルには青い花を、アッシュには薄紫色の花を髪に差してくれた。
二人の目の色だ。
今日は初めての学園なので、少しフォーマルな服にしている。
厳かな黒に、清廉な鮮やかさが添えられた。
「その服装はミスティアの子かしら」
「はい」
女性は服飾に詳しいらしい。
「霧をまとう神秘の国の天使さん。リリアンクの春を楽しんでね」
「はいっ。ありがとうございます!」
声を揃えてお礼を言って、また散策を続ける。
「青い花、綺麗」
「アッシュは青が好きだもんね」
「うん、好き。アリエル様は水色と薄紫が好きだよね」
「大好き。……交換する?」
「するっ」
お互いの色の花を髪に差し合った。
「お庭いいね」
ミスティアでは貴族の屋敷でも、あんなに溢れるような彩りは見なかった。
異国の香りの魅力が、二人の頭を占める。
もらった地図には、一軒家が多い地区も載っていた。
早速、魔法レールに乗って移動する。
リリアンクは陽気な人が多い。
花を差した少年二人を、通りすがりに微笑ましく見送る。
道を訊くと親切に教えてくれた。
学園の地図に載っていた口利き屋の前に着いたが、昼休憩の札が出ていた。
「まずは散策してみる?」
「うん」
「街と学校が見える」
坂が緩くて気づかなかったが、ここは街の中心部より高台にあるようだ。
リリアンク全体が見渡せる。オレンジ屋根の明るい街。
「あ、猫!」
少し下の屋根の上を、黒猫が身軽に走っていく。
耳と尻尾の先が紫という不思議な毛色をしている。まだ若い猫。
魔力を持っているので、もしかしたら魔法を使える動物かもしれない。
黒猫は屋根からアリエル達がいる道に飛び乗った。
「待て待てー」
陽のあたる道を、一匹と二人で駆けていく。
「猫やーい」
「どこだろう」
「ねえ、アリエル様。あの家……」
猫を見失った場所は、小さな一軒家の前だった。
庭には植物が生い茂り、素朴な壁には蔦が巻いている。
とんがり帽子のような急傾斜の屋根。
「魔女の家みたい」
物語の挿絵で見たことがある。
たくさんの不思議が起こるわくわくの場所。
低く細身の門には『貸家』の札が下げられていた。
「ここにしよう!」
「うん!」
二人は即決断した。
昼休憩が終わったであろう口利き屋を訪ねる。
「こりゃあ確かに天使だ」
「?」
入るなり店員が言った。
「昼入った食堂で話題になっていたんだよ。天使みたいに可愛い二人組が歩き回っているって」
「アッシュは可愛いもんね」
「アリエル様は可愛いもんね」
同時に言うと、
「息ぴったり。双子みたいだ」
と言われて二人で照れた。
希望した家の中を見せてもらう。
「木が生えてる!」
「魔女の家だっ」
とんがり帽子の屋根の下は円形の吹き抜けになっていた。
床下から生えた木がそのまま柱になっている。
「ははは。歴とした魔法使いが使っていたんだよ。調合の魔法使いだったかな」
台所らしき広い土間。
「そこで大きな鍋をかき混ぜていたんだよ。そっちの壁一面の棚は、見慣れない素材でいっぱいだった」
「おおお」
今はがらんとしているが、魔法使いの棲家っぽさがいたるところにある。
家は無事貸してもらえた。
家具も何もないので、その日は宿に泊まる。
次の日から掃除しつつ計画を立てた。
「アリエル様も掃除してくれるの? 僕はこれで学費もらっているんだよ?」
「しちゃいけないなんて言われていないもん」
「ふふ。ありがとう」
そして今日は家具屋巡りだ。
「アリエル様、ベッドこれにしよう」
展示されている物の中で一番大きいものをアッシュが指した。
「すごーい。大きいね」
「ねっ、いいよね。背が伸びても使えそう」
「でもこれだと寝室に一つしか入らないかも」
買い物の前に、部屋の使い方について相談した。
ドアで分かれた居室らしい居室は一つ。
そこは共用の寝室した。
ホールは書斎兼居間。小さな部屋は物置にすることに決めた。
寝室は二基のベッドを置くものと思っていたのだが。
「? いままで通り一つでいいでしょう?」
「そうなの? 中学に入ったんだから、もう一人で寝るものなのかと思ってた」
「僕、これがいいけど……だめ?」
アッシュが自信なさげに首を傾げた。
「わっ、分かった! これにしよう」
アリエルは慌てて同意した。
反対なわけではなく、ただ疑問を口にしただけだ。
アッシュに悲しげな顔をさせる気はない。
「ありがとう! アリエル様!」
アッシュはころっと笑顔になってお礼してくれた。可愛い。
部屋にどう運び込もうと思ったが、圧縮魔法を使える搬送屋さんがいるというのでお願いした。
圧縮魔法というのは物を一時的に三分の一程度に小型化する魔法だ。
生物には使えない。食品には使えるが、風味が少し変わることがあるそうだ。
「いいのが買えたね」
「そうだね」
そういえばアッシュは旅の間の宿も、できるだけベッドが二つのツインではなく、大きいベッドが一つのダブルを頼んでいた。
(まだまだ子供だなあ)
アリエルはほっこりしてアッシュの頭を撫でた。
「メイプル、お疲れさま」
ぬいぐるみのメイプルを寝室のソファに座らせる。
数日かけて、新居がひとまず住める状態になった。
「アッシュのセンスに任せてよかった。すごく素敵」
「えへへ」
「よし。学園に報告だ」
住所決定を伝えにいく。
ハニアスタとも会えるといいのだけど。
中等部に行くと、約束通り事務員は学長に連絡してくれたらしい。
そして、中央棟の重厚で美しい部屋に通される。
学長室だ。
「ようこそ。アリエル、アッシュ」
ソファに座り、学長ダリアと向かい合った。
「あの、祖父は来ないんですか?」
部屋には補佐役らしき女性と警護役がいるだけだ。
「あら」
ダリアは意外そうな顔をした。
「ハニアスタのこと、何も聞いていないの?」
「何のことでしょう」
アリエル達はハニアスタに会わなくてはいけない。
(おじい様だって隷属魔法のことはバレたくないはず。絶対に協力させる)
ハニアスタはアッシュに掛けられた魔法を解く重要な鍵。
その鍵は――。
「彼は国防を揺るがす重大な罪を犯して終身刑となり、異空間に幽閉されました」
すでに別件でお縄になっていた。
「中等部では皆さん普通クラスに所属し、さらに任意で魔法クラスを選択できます。二人とも魔法クラスも受講しますか」
「はい」
「ではアリエル君はレベル4、アッシュ君はレベル1の魔法クラスに入ってもらいます」
机に広げられた案内書を読むと、魔法クラスはレベル1から4まであるようだ。
レベル1は魔法が使えなくても入れて、能力の発見、開発を目的とした授業がある。
アッシュがレベル2のクラスに上がれるかは、魔法学園のサポートがあったとしても運次第だそうだ。
アリエルとの大きなレベル差を示されて、アッシュは口を引き結んだ。
「アリエル君の魔法レベルならば本課程に飛び級も可能ですが、いかがしますか。留学が早く済みますよ」
アッシュはぎょっとして泣きそうになった。
本課程は他所でいうところの大学にあたる。
『魔法学園』とだけいえば、表すのは本課程もしくは研究室群のことだ。
「本課程の学生にならないと、大事な資料や研究に触れられないのでしょうか」
「いえ。ある程度信頼があれば中等部生徒でも大丈夫ですよ。特にアリエル君になら融通したい先生は多いと思います」
「それならゆっくり学びたいので、中等部からでいいです」
リリアンクでの目的は隷属魔法の解呪だ。
ミスティアに戻るのはいつでもいい。
「承知しました。でしたらいっそレベル3から始めるのはどうでしょう。レベル4とは違う魔法を数多く教えています。普通はそのうち二つ三つ使えればいいのですが、アリエル君は抜群の適性の幅を持っているので、一年ほど端から端まで挑戦してみては」
「んー……。はいっ。そうします」
「ではレベル3から。あ、図書館の閲覧権限はレベル4相当にしておきますね。取り扱い注意の魔法書や、本課程の講義記録など、閲覧範囲が広がります。権限がない資料も、先生の口利きで見られるものがありますので頼んでみてください」
「ありがとうございます!」
さすが魔法学園。
魔法教育の選択肢が多い。
面談はすぐに終わった。
「それじゃあ、おじい様に会いにいこう」
「うん」
案内書の地図を見て、中央棟の総合受付に向かうことにする。
「え……。おじい様とは、ハニアスタ氏のことですか」
まだ近くにいた担当者が、驚いた様子で訊いた。
「はい。約束はしていないのですが」
「約束をしていないなら、氏と会うことは絶対にできませんよ」
そうなのか。
(忙しいのかな。あ、旅しているのかも。……でも、おじい様には会わないと)
「ご要件は」
「隷……いえっ、個人的なことです」
「そうですか。総合受付だと待たされそうですね。私から学長に聞いておきます。返答は後日になっても構いませんか」
「はい。住居の欄がまだ空欄なので、決まったら報告に来る予定です。その時にお願いできますか」
「承知しました。お待ちしています」
ハニアスタを問い詰める予定が空白になってしまった。
お腹が空いたので、広場のフードコーナーに立ち寄った。
パラソルの下のテーブルで昼食にする。
鶏肉の香ばしい焼き目が食欲をそそる。
けれどアッシュは魔法のレベルの差をまだ気にしていた。
「僕、絶対追いつく」
「アッシュ……」
キッと真剣な涙目が可愛い……じゃなくて頼もしい!
(お父様お母様は、僕の分も家事をしさえすれば学費を出すと言っていたけど。アッシュは頑張り屋だなあ)
「アリエル様に並ぶ魔法使いになる!」
「うん。頑張ろう!」
アッシュの気合いに触発されて、アリエルも気合を入れる。
「やっぱりアッシュが隣にいると元気が出る」
「そう?」
「そうだよ。一緒に来てくれてありがとう」
「――!」
薄紫色の宝石のような目が、きらきらと輝いた。
元気を充填した二人は、広場の露店を眺めながら歩く。
店主オリジナルの妖しい魔法道具が置いてある店や、同じ齢くらいの子が売り子の店に寄ったりした。
そして学園を出てすぐ南の地区で、宿を取り荷物を置いた。
身軽になって街に繰り出す。
「住むとこ探しだっ」
「どこがいいかな」
これから学園のおすすめの寮や貸家を下見しにいく。
いくつかの候補地が載った地図をもらっているのだ。
まずは近くの銀行に寄って、送金関連の手続きをする。
ついでに送金額の証明書をもらった。
これがあると話が早いらしい。
学園の事務員が教えてくれた小技だ。
「天気がいいね」
リリアンクはオレンジ色の屋根が多く、植物の種類が豊富だ。
なんてことのない街並みも、ミスティアとは随分印象が違う。
「わあ……」
アパートメントに挟まれた細長い庭に、色とりどりの花が溢れていて見惚れた。
水やりをしていた大きなひさしの帽子の女性がにっこりと微笑む。
アリエルには青い花を、アッシュには薄紫色の花を髪に差してくれた。
二人の目の色だ。
今日は初めての学園なので、少しフォーマルな服にしている。
厳かな黒に、清廉な鮮やかさが添えられた。
「その服装はミスティアの子かしら」
「はい」
女性は服飾に詳しいらしい。
「霧をまとう神秘の国の天使さん。リリアンクの春を楽しんでね」
「はいっ。ありがとうございます!」
声を揃えてお礼を言って、また散策を続ける。
「青い花、綺麗」
「アッシュは青が好きだもんね」
「うん、好き。アリエル様は水色と薄紫が好きだよね」
「大好き。……交換する?」
「するっ」
お互いの色の花を髪に差し合った。
「お庭いいね」
ミスティアでは貴族の屋敷でも、あんなに溢れるような彩りは見なかった。
異国の香りの魅力が、二人の頭を占める。
もらった地図には、一軒家が多い地区も載っていた。
早速、魔法レールに乗って移動する。
リリアンクは陽気な人が多い。
花を差した少年二人を、通りすがりに微笑ましく見送る。
道を訊くと親切に教えてくれた。
学園の地図に載っていた口利き屋の前に着いたが、昼休憩の札が出ていた。
「まずは散策してみる?」
「うん」
「街と学校が見える」
坂が緩くて気づかなかったが、ここは街の中心部より高台にあるようだ。
リリアンク全体が見渡せる。オレンジ屋根の明るい街。
「あ、猫!」
少し下の屋根の上を、黒猫が身軽に走っていく。
耳と尻尾の先が紫という不思議な毛色をしている。まだ若い猫。
魔力を持っているので、もしかしたら魔法を使える動物かもしれない。
黒猫は屋根からアリエル達がいる道に飛び乗った。
「待て待てー」
陽のあたる道を、一匹と二人で駆けていく。
「猫やーい」
「どこだろう」
「ねえ、アリエル様。あの家……」
猫を見失った場所は、小さな一軒家の前だった。
庭には植物が生い茂り、素朴な壁には蔦が巻いている。
とんがり帽子のような急傾斜の屋根。
「魔女の家みたい」
物語の挿絵で見たことがある。
たくさんの不思議が起こるわくわくの場所。
低く細身の門には『貸家』の札が下げられていた。
「ここにしよう!」
「うん!」
二人は即決断した。
昼休憩が終わったであろう口利き屋を訪ねる。
「こりゃあ確かに天使だ」
「?」
入るなり店員が言った。
「昼入った食堂で話題になっていたんだよ。天使みたいに可愛い二人組が歩き回っているって」
「アッシュは可愛いもんね」
「アリエル様は可愛いもんね」
同時に言うと、
「息ぴったり。双子みたいだ」
と言われて二人で照れた。
希望した家の中を見せてもらう。
「木が生えてる!」
「魔女の家だっ」
とんがり帽子の屋根の下は円形の吹き抜けになっていた。
床下から生えた木がそのまま柱になっている。
「ははは。歴とした魔法使いが使っていたんだよ。調合の魔法使いだったかな」
台所らしき広い土間。
「そこで大きな鍋をかき混ぜていたんだよ。そっちの壁一面の棚は、見慣れない素材でいっぱいだった」
「おおお」
今はがらんとしているが、魔法使いの棲家っぽさがいたるところにある。
家は無事貸してもらえた。
家具も何もないので、その日は宿に泊まる。
次の日から掃除しつつ計画を立てた。
「アリエル様も掃除してくれるの? 僕はこれで学費もらっているんだよ?」
「しちゃいけないなんて言われていないもん」
「ふふ。ありがとう」
そして今日は家具屋巡りだ。
「アリエル様、ベッドこれにしよう」
展示されている物の中で一番大きいものをアッシュが指した。
「すごーい。大きいね」
「ねっ、いいよね。背が伸びても使えそう」
「でもこれだと寝室に一つしか入らないかも」
買い物の前に、部屋の使い方について相談した。
ドアで分かれた居室らしい居室は一つ。
そこは共用の寝室した。
ホールは書斎兼居間。小さな部屋は物置にすることに決めた。
寝室は二基のベッドを置くものと思っていたのだが。
「? いままで通り一つでいいでしょう?」
「そうなの? 中学に入ったんだから、もう一人で寝るものなのかと思ってた」
「僕、これがいいけど……だめ?」
アッシュが自信なさげに首を傾げた。
「わっ、分かった! これにしよう」
アリエルは慌てて同意した。
反対なわけではなく、ただ疑問を口にしただけだ。
アッシュに悲しげな顔をさせる気はない。
「ありがとう! アリエル様!」
アッシュはころっと笑顔になってお礼してくれた。可愛い。
部屋にどう運び込もうと思ったが、圧縮魔法を使える搬送屋さんがいるというのでお願いした。
圧縮魔法というのは物を一時的に三分の一程度に小型化する魔法だ。
生物には使えない。食品には使えるが、風味が少し変わることがあるそうだ。
「いいのが買えたね」
「そうだね」
そういえばアッシュは旅の間の宿も、できるだけベッドが二つのツインではなく、大きいベッドが一つのダブルを頼んでいた。
(まだまだ子供だなあ)
アリエルはほっこりしてアッシュの頭を撫でた。
「メイプル、お疲れさま」
ぬいぐるみのメイプルを寝室のソファに座らせる。
数日かけて、新居がひとまず住める状態になった。
「アッシュのセンスに任せてよかった。すごく素敵」
「えへへ」
「よし。学園に報告だ」
住所決定を伝えにいく。
ハニアスタとも会えるといいのだけど。
中等部に行くと、約束通り事務員は学長に連絡してくれたらしい。
そして、中央棟の重厚で美しい部屋に通される。
学長室だ。
「ようこそ。アリエル、アッシュ」
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「あの、祖父は来ないんですか?」
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「あら」
ダリアは意外そうな顔をした。
「ハニアスタのこと、何も聞いていないの?」
「何のことでしょう」
アリエル達はハニアスタに会わなくてはいけない。
(おじい様だって隷属魔法のことはバレたくないはず。絶対に協力させる)
ハニアスタはアッシュに掛けられた魔法を解く重要な鍵。
その鍵は――。
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