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わたしの罪

生きていくことへの抵抗

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 生きていくということ。
 わたしはそれに対して、強い抵抗があった。

 仕事で「努力」から見放され、すべてがから回り。やることなすこと全然上手くいかず。
 そこにいて何も出来ない自分が、疎ましくて大嫌いだった。

 どうせ何も出来ないなら、ここにいたって仕方ない。
 わたしがわたしという意味を示せないのなら、何をしたって全部無駄。


 わたしなんて、生きていたって仕方ない人間だ。


 いつの日から、そう思うようになって、その思いで頭が埋め尽くされるようになっていった。

 職場の先輩達を見ると思った。
 ────彼らはどうして生きているのだろう。

 道行く人達を見ると考えた。
 ────あの人達はなんであんなに楽しそにしていられるんだろう。



 わたしなんか、いつだって死にたい気持ちでいっぱいなのに。



 鬱陶しくてしょうがない。疎ましくてしょうがない。


 ────羨ましくて、しょうがない。


 日々を楽しくしていられる人が。目標を持って前へ進もうとする人が。何か理由を持って、生きようとしている人が。
 ただただ、妬ましくて、羨ましかった。

 わたしは何にも持っていない。何にも持てない。
 日々を楽しいと思うものも、前へ進むための目標も、生きようと思える理由も。

 何もない。何も見出すことが出来ない。

 あるのは生きることへの抵抗と、死を夢見ることくらいだ。


 生きたくない。

 ────死んでしまいたい。


 いつでもそれで頭が満たされている。いつもいつも、今でもその思いで満ちている。

 いつだったか、先輩にそれをほのめかしたことがあった。
 だけど先輩は言ったのだ。


 世の中には、生きたくても生きられない人達だっている、と。


 …………予想通りというか、定番の台詞だった。
 その瞬間にすべてを察した。

 この人達に、わたしの本当の思いを告げても、無駄だということを。

 だから言わなかった。話すことをしなかった。
 ところがあくる日。仕事中、違う先輩がわたしをバックルームへと呼び出した。その先輩はわたしが入社当時、教育係として面倒を見てくれた女性の先輩だった。
 そして彼女は唐突に聞いてきたのだ。「辛いこととか、何かあったの?」と。
 以前わたしの話を聞いた先輩が、わたしのいないところでこっそり言っただろうか。いや、彼女は聡い人だ。そうでなくとも、徐々におかしく不安定になっていくわたしを、どこかで気付いていたのかもしれない。

 「何でもないです」

 これもまた、定番の台詞と言えよう。
 笑ってわたしはそう答えた。わたしはわたしの思いを、誰にも見られないように、探られないように、奥底へとしまい込んだ。

  「何でも相談していいんだよ。一人で抱え込むのは良くないことだから」

 はい、と返事をした。それは入社当時から何度も言われていたことだった。
 仕事してる以上、嫌なことや辛いことは当然ある。その時は我慢せず、誰でもいいから話すこと。ちゃんとストレスを発散すること、と。

 だけど、わたしはそれをしなかった。
 最初こそ、誰に言っていいのかわからないと言うのもあった。

 だけど以前ほのめかして、先輩が告げた反吐の出るようなあの台詞。


 わたしは確信していた。
 全然無駄だと。

 ────言うだけ無駄なのだと。

 


 「相談していいんだよ」?


 ────誰に相談すればよかったの?


 「抱え込むのは良くないことだから」


 ────残念。もう抱えちゃってるの。重たいもの。



 確信を得たあの日から、先輩達を含めた色んな人を信じなくなった。

 この気持ちを話して、それでどうなるのだろうか。
 どうせ「そうだね、辛かったね」と同情をするだけだ。

 同情するだけ。それだけで、きっと他には何もしてくれない。


 ────助けてはくれない。


 この人達もきっと同じ。わたしを裏切った「努力」のように、手を離して見捨てていくんだ。

 そんなことわかっている。わかりきっていることだ。

 わたしの味方は誰もいない。
 「生きたくない」、「死にたい」と言うわたしを見て、みんな同情して去っていくだけ。

 何もしてくれないなら、優しくしないで。
 同情するだけなら、放っておいて。


 助けてくれないなら、もう、もう────


 

 ………手なんか、差し伸べないで。



 
 これ以上、心の傷を抉ろうとしないで。

 
 
 生きていたって仕方ない。こんな自分、死んでしまいたい。

 何も出来ないわたしが出来る、唯一の抵抗だ。

 
 死を望むための、生きていくことへの抵抗だ。
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