この手がおひさまに届くまで

風庭 はなな

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おひさまとおんなのこ

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 はいけい、おひさまへ。
 そちらはどうでしょうか。おひさまは、お元気でお過ごしでしょうか。


 「またお空を見ているの、紫苑しおん

 ふと、ドアの開く音がしました。
 そこには、きれいな女の人がわらって立っていました。紫苑しおんのお母さんです。

 「お母さん、お空はいつも青色ね」

 「あら、灰色はいいろをしているときもあるじゃない。黒いときだってあるでしょう」

 お母さんがおかしそうにくすくすとわらいます。

 「たしかにそうだけど。でも、どうして、お空って色がかわるんだろうね」

 紫苑しおんが空を見ながら言いました。
 お母さんが紫苑しおんのそばによると、小さなかたにやさしく手をおきました。

 「それはね、おひさまとおつきさまが、かわりばんこでお空を守っているからよ」

 「じゃあ、灰色はいいろなのは?」

 紫苑しおんが聞くと、お母さんは困ったようなかおをしました。

 「うーん、なんなのかしら。お母さんにもよくわからないわ」

 「お母さんにもわからないことがあるのね。お空ってふしぎ」

 そう。おとなにだって、わからないことがあるのです。
 だけど、ふふふっと紫苑しおんたのしそうにわらいます。

 「もしかしたら、おひさまとおつきさまがケンカをしているのかもね」

 「ケンカ?」

 「おひさまもおつきさまも、お空がだいすきだから、きっととり合ってケンカしているんじゃないかしら」

 「ふうん……」

 紫苑しおんのかおがすこしだけ悲しそうになりました。
 空を見上げながら、お母さんは続けます。

 「だけどね、ほんとうはどっちも仲良しなの」

 「仲良しなのに、ケンカするの?」

 紫苑しおんがすこしおどろいたかおをしました。
 お母さんがええ、とうなずきます。

 「お空がだいすきだから、ついケンカしちゃうの。仲良しでもね、言い合っちゃったりするものなのよ」

 「そっかあ…」

 紫苑しおんはまた空を見ました。
 そして、かのじょはつぶやきます。

 「わたしにも、仲良くして、ケンカできるあいてがいたらよかったのにな」

 そう言う紫苑しおんのかおは、とてもかなしそうでした。
 
 ──── 紫苑しおんは、生まれつき心臓しんぞう病気びょうきでした。
 なので、外で元気に走ることも、木のぼりやなわとびであそぶこともできません。

 紫苑しおんには、おともだちがいませんでした。

 ずっとベッドでひとりきり。
 生まれてからずうっと、この部屋へやでひとりぼっちだったのです。

 元気なからだで生んであげることができなかった。
 かのじょに、かわいそうなことをしてしまった。
 お母さんは、いつもいつもそんなきもちでいっぱいでした。

 空を見ていた紫苑しおんが、ふりかえりました。
 そのかおには、えがおがうかんでいます。
 
 「ねえお母さん。わたし、おひさまがすき」

 「あら、どうしたの、きゅうに」

 お母さんが尋ねます。

 「だっておひさまってね、きらきらしてて、まぶしくて、あったかいの。わたし、おひさまのおともだちになりたい」

 紫苑しおんはわらって、そう言いました。

 「とどくかなあ。おひさまに、わたしの手」

 とおいとおい空のむこう、紫苑しおんは小さな手をのばしました。

 「とどくといいなあ」

 病気びょうきのしょうじょは、わらったままおひさまへ手をのばしつづけました。
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