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第1章 歴史への旅
真実の泉(セン)皇后
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「何者か?無礼であるぞ!」
大きな女性の声。思わず灰簾は身を震わせる。
二人の女官――見た感じかなり高位の女官らしい。手には行灯を持ち、それを灰簾に突き出す。
「どうなさいました」
また別な女性の声。二人の後ろから聞こえる。
「下々の女官がどうやらここまで迷い込んだようで。まことに申し訳ございませぬ」
そう、後ろの女性に説明する女官。
後ろには――まるで天女のごとき衣服をまとう、女性。明らかに前の二人とは違う雰囲気を漂わせていた。
「子供ではないか。道でも迷うたか」
「そのように下々のものにお声をかけれては――口が汚れます、皇后陛下」
そんな女官の諫めにも動ぜずに灰簾のそばに近寄る女性。
(皇后陛下――ってぇことは......)
灰簾は頭をフル回転させる。皇帝の妻が皇后。つまりこの人は――稀代の悪女『泉皇后』。
「かわいそうにのう。そんな子供でこのような後宮に勤めに出なければいけないとは」
灰簾の顔に泉皇后は身を屈め、視線を合わせる。
年のころは二十代の後半くらいであろうか。化粧は濃いが、品の良さがそれを和らげていた。長い目がじっと灰簾に向けられる。
懐から、すっと何やら取り出す泉皇后。それをそっと灰簾の手に握らせる。
「さみしいときにお食べ」
「皇后陛下、もう――」
女官にせかされ、うなずく泉皇后。
三人が去り、再び闇の中に残される灰簾。
右手を開いてみる。その中にはお菓子が懐紙に丁寧に包まれていた。
(あの方が、『稀代の悪女』......?)
金平糖のような菓子をつまんでしげしげと見つめる灰簾。
『泉皇后に出会えたようだな』
頭の中に響き渡る声。翔極)のものである。
うん、と灰簾は頷く。
「あの人が、歴史に名高い悪女――とは見えないんだけど」
『人というものは様々な面があるものだ。できるだけ客観的にそして納得のいく評価をする必要がある』
「難しいなぁ......」
『まずはそちらの世界で、もう少し情報を探ることだ。女官として後宮に潜り込み様々な情報を手に入れろ。それが『歴史の真実』を探る唯一の手段となる』
なんとも人使いの荒い話である。
とはいえ灰簾は素直に頷いた。
灰簾は興味を持ち始めていた。
悪女と呼ばれていた泉皇后そして暴君と呼ばれている皇帝隆靭がどのような人物なのかに。
翌日から、灰簾の調査が始まることとなる――
大きな女性の声。思わず灰簾は身を震わせる。
二人の女官――見た感じかなり高位の女官らしい。手には行灯を持ち、それを灰簾に突き出す。
「どうなさいました」
また別な女性の声。二人の後ろから聞こえる。
「下々の女官がどうやらここまで迷い込んだようで。まことに申し訳ございませぬ」
そう、後ろの女性に説明する女官。
後ろには――まるで天女のごとき衣服をまとう、女性。明らかに前の二人とは違う雰囲気を漂わせていた。
「子供ではないか。道でも迷うたか」
「そのように下々のものにお声をかけれては――口が汚れます、皇后陛下」
そんな女官の諫めにも動ぜずに灰簾のそばに近寄る女性。
(皇后陛下――ってぇことは......)
灰簾は頭をフル回転させる。皇帝の妻が皇后。つまりこの人は――稀代の悪女『泉皇后』。
「かわいそうにのう。そんな子供でこのような後宮に勤めに出なければいけないとは」
灰簾の顔に泉皇后は身を屈め、視線を合わせる。
年のころは二十代の後半くらいであろうか。化粧は濃いが、品の良さがそれを和らげていた。長い目がじっと灰簾に向けられる。
懐から、すっと何やら取り出す泉皇后。それをそっと灰簾の手に握らせる。
「さみしいときにお食べ」
「皇后陛下、もう――」
女官にせかされ、うなずく泉皇后。
三人が去り、再び闇の中に残される灰簾。
右手を開いてみる。その中にはお菓子が懐紙に丁寧に包まれていた。
(あの方が、『稀代の悪女』......?)
金平糖のような菓子をつまんでしげしげと見つめる灰簾。
『泉皇后に出会えたようだな』
頭の中に響き渡る声。翔極)のものである。
うん、と灰簾は頷く。
「あの人が、歴史に名高い悪女――とは見えないんだけど」
『人というものは様々な面があるものだ。できるだけ客観的にそして納得のいく評価をする必要がある』
「難しいなぁ......」
『まずはそちらの世界で、もう少し情報を探ることだ。女官として後宮に潜り込み様々な情報を手に入れろ。それが『歴史の真実』を探る唯一の手段となる』
なんとも人使いの荒い話である。
とはいえ灰簾は素直に頷いた。
灰簾は興味を持ち始めていた。
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翌日から、灰簾の調査が始まることとなる――
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