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第1章 歴史への旅
後宮の探索
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宮女が歩みを進める。
深夜の宮殿。それもこの帝国を統べる皇帝のおわす『左豊宮』の後宮である。
幼い宮女。それは――
(なんでこんなかっこしなきゃいけないんだよ、まったく......)
それは、灰簾が変装した姿であった。
『くれぐれも、バレぬように。この世界に生きている人間は、そなたを認識できる。怪しまれれば殺されるかもしれん』
「そんなんやだよ!」
『大丈夫、死んでも術が解けるだけだ。ただ、刀で切られたりすると痛いからな。そのあたりは現実と同じだ』
「より、悪質じゃん!」
『とりあえず、宮女の衣服を送った。それで変装するがよい』
翔極の言葉とともに、灰簾の目の前に現れる宮女の衣装。どうやら『亜理斯(アリス)の業』という術は色々なことが可能らしい。
しぶしぶ着替える灰簾。
「で、これからどうしろと?」
こほんと咳払いが聞こえる。それは翔極のものであった。少しの沈黙ののち、翔極は語り始めた。今はすでに滅んでない『隆朝』の最後を――
隆朝は二百年以上にわたってこの大陸を支配した王朝である。
初代隆剣の建国ののち、強力な軍事国家として周辺の異民族を平らげ隆盛を誇ることとなる。歴代の皇帝も初代ほどではないにせよ、そこそこの政治を行い国は隆盛を極めていった。
しかし、隆朝も皇帝一七代目に至り、様々な矛盾が生じるようになる。
国境警備のための軍団維持に使う莫大な費用。そして上から下まで汚職が横行し、人々の暮らしも困窮していった。
その一七代目の皇帝はのちに廃残帝と諡号される、隆靭(リュウジン)であった。
「聞いたことある。とても残酷でひどい皇帝だったって」
灰簾は学校に通ったことはない。そんな、庶民であっても知っている名前である。
民に重税を課し、気に入らない文官にはことごとく極刑を与えた。
とりわけ、悪評の的とされるのが隆靭の皇后であった泉皇后である。
贅沢と蕩尽にうつつを抜かし、後宮を淫蕩の渦に沈めた隆朝最悪の悪女とされている皇后である。
『結果、貴族の一人であった鳳朝の高祖、つまり翔淑さまが皆の期待を受け反乱を起こし皇帝を倒した――と『隆朝紀伝』には記されている』
「それを調べろって事かい?いまさら何を――」
灰簾は足を止める。人の気配がする。
暗い闇の向こうに目を凝らす。
ゆっくりと近づいてくる人影――それは――
深夜の宮殿。それもこの帝国を統べる皇帝のおわす『左豊宮』の後宮である。
幼い宮女。それは――
(なんでこんなかっこしなきゃいけないんだよ、まったく......)
それは、灰簾が変装した姿であった。
『くれぐれも、バレぬように。この世界に生きている人間は、そなたを認識できる。怪しまれれば殺されるかもしれん』
「そんなんやだよ!」
『大丈夫、死んでも術が解けるだけだ。ただ、刀で切られたりすると痛いからな。そのあたりは現実と同じだ』
「より、悪質じゃん!」
『とりあえず、宮女の衣服を送った。それで変装するがよい』
翔極の言葉とともに、灰簾の目の前に現れる宮女の衣装。どうやら『亜理斯(アリス)の業』という術は色々なことが可能らしい。
しぶしぶ着替える灰簾。
「で、これからどうしろと?」
こほんと咳払いが聞こえる。それは翔極のものであった。少しの沈黙ののち、翔極は語り始めた。今はすでに滅んでない『隆朝』の最後を――
隆朝は二百年以上にわたってこの大陸を支配した王朝である。
初代隆剣の建国ののち、強力な軍事国家として周辺の異民族を平らげ隆盛を誇ることとなる。歴代の皇帝も初代ほどではないにせよ、そこそこの政治を行い国は隆盛を極めていった。
しかし、隆朝も皇帝一七代目に至り、様々な矛盾が生じるようになる。
国境警備のための軍団維持に使う莫大な費用。そして上から下まで汚職が横行し、人々の暮らしも困窮していった。
その一七代目の皇帝はのちに廃残帝と諡号される、隆靭(リュウジン)であった。
「聞いたことある。とても残酷でひどい皇帝だったって」
灰簾は学校に通ったことはない。そんな、庶民であっても知っている名前である。
民に重税を課し、気に入らない文官にはことごとく極刑を与えた。
とりわけ、悪評の的とされるのが隆靭の皇后であった泉皇后である。
贅沢と蕩尽にうつつを抜かし、後宮を淫蕩の渦に沈めた隆朝最悪の悪女とされている皇后である。
『結果、貴族の一人であった鳳朝の高祖、つまり翔淑さまが皆の期待を受け反乱を起こし皇帝を倒した――と『隆朝紀伝』には記されている』
「それを調べろって事かい?いまさら何を――」
灰簾は足を止める。人の気配がする。
暗い闇の向こうに目を凝らす。
ゆっくりと近づいてくる人影――それは――
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