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第1章 蘭癖高家、闊歩す
盗賊の群れ
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弾け飛ぶ軍配。思わず乗元はのけぞる。
それに続く、大きな音。
前面に構えていた火縄銃をもった男たちが、悲鳴を上げて倒れる。
「鉄砲じゃ!引け!」
混乱した状態をおさめる乗元。闇夜のなか、屋根の上かもしくは庭の木の上からか銃撃を受けたらしい。
物陰に散り散りとなる乗元たち。物陰より屋敷をうかがう。物音一つしない中、ぼんやり明かりが見える。
「......!」
屋敷の玄関口を降りてくる人影が二つ。前を行く男は手に提灯を持ち、その後ろを長身の男がゆっくりと歩みを進めるのが見えた。
その姿――総髪は提灯の光を受け黄金に輝く。南蛮備えの陣羽織に、両手には刀をぶら下げて。
前をゆく黒羽織の男がうやうやしくあたりを払いながら、大きな名乗りを上げる。
「こちらにおわすは、高家一色中将統秀さまである。かような軍勢を頼みに老中中屋敷に押し入るとはいかなる了見か、お答えいただきたい『高山主膳乗元』どの!」
響き渡る平左の声。その調べには何か自嘲の雰囲気すら感じられた。
旗本たちは気圧される。
ばれていたのか......これは一体......
ざわざわと手に武器を持ちながら浮足立つ旗本たち。雇われの兵たちも顔を見合わせる。
「慌てるな!」
乗元の一喝。
「今の幕府にはまとまった軍勢など揃えられるわけもなし。この江戸においてわが軍団を打ち払えるものは存在せぬ!屋敷ごと消え去ってしまえ!」
乗元の統率力というべきか。それまで収縮し始めていた熱気が一気に解放された。
再び手の武器を握りしめる旗本たち。
敵は二人。平左と統秀のみである。
如何に二人が強かろうが、押し包んでしまえば問題ない。乱戦に持ち込めば敵の銃撃をキにする必要もない。
勢いを得た無法者が一斉に統秀たちに飛びかかろうとする。
統秀は身構えるも、逃げようとはしない。
数発の銃弾が侍をなぎ倒すも、その勢いを止めることはできなかった。
先頭の侍が大きく振りかぶり、統秀を狙う。
右手の細身の刀でそれを絡め取り、侍ごと地面に叩きつける。
平左は太い十手を手に何人かの侍の急所をしたたかに打ち付ける。
「そのまま!それで良い!数で押し切る!」
指示を出しながら、自らも抜刀して叫ぶ乗元。
如何に二人が手練とはいえ、人間の技である。いずれ刀がこぼれ、力尽きるのは時間の問題を思われた。
にやり、と乗元はいやな笑みを浮かべ刀を構え直す。
首を取るのは自分が、と前に身を乗り出したのだ。
その瞬間、黒い影が目の前を覆う。
それは突然舞い上がった突風のように――
それに続く、大きな音。
前面に構えていた火縄銃をもった男たちが、悲鳴を上げて倒れる。
「鉄砲じゃ!引け!」
混乱した状態をおさめる乗元。闇夜のなか、屋根の上かもしくは庭の木の上からか銃撃を受けたらしい。
物陰に散り散りとなる乗元たち。物陰より屋敷をうかがう。物音一つしない中、ぼんやり明かりが見える。
「......!」
屋敷の玄関口を降りてくる人影が二つ。前を行く男は手に提灯を持ち、その後ろを長身の男がゆっくりと歩みを進めるのが見えた。
その姿――総髪は提灯の光を受け黄金に輝く。南蛮備えの陣羽織に、両手には刀をぶら下げて。
前をゆく黒羽織の男がうやうやしくあたりを払いながら、大きな名乗りを上げる。
「こちらにおわすは、高家一色中将統秀さまである。かような軍勢を頼みに老中中屋敷に押し入るとはいかなる了見か、お答えいただきたい『高山主膳乗元』どの!」
響き渡る平左の声。その調べには何か自嘲の雰囲気すら感じられた。
旗本たちは気圧される。
ばれていたのか......これは一体......
ざわざわと手に武器を持ちながら浮足立つ旗本たち。雇われの兵たちも顔を見合わせる。
「慌てるな!」
乗元の一喝。
「今の幕府にはまとまった軍勢など揃えられるわけもなし。この江戸においてわが軍団を打ち払えるものは存在せぬ!屋敷ごと消え去ってしまえ!」
乗元の統率力というべきか。それまで収縮し始めていた熱気が一気に解放された。
再び手の武器を握りしめる旗本たち。
敵は二人。平左と統秀のみである。
如何に二人が強かろうが、押し包んでしまえば問題ない。乱戦に持ち込めば敵の銃撃をキにする必要もない。
勢いを得た無法者が一斉に統秀たちに飛びかかろうとする。
統秀は身構えるも、逃げようとはしない。
数発の銃弾が侍をなぎ倒すも、その勢いを止めることはできなかった。
先頭の侍が大きく振りかぶり、統秀を狙う。
右手の細身の刀でそれを絡め取り、侍ごと地面に叩きつける。
平左は太い十手を手に何人かの侍の急所をしたたかに打ち付ける。
「そのまま!それで良い!数で押し切る!」
指示を出しながら、自らも抜刀して叫ぶ乗元。
如何に二人が手練とはいえ、人間の技である。いずれ刀がこぼれ、力尽きるのは時間の問題を思われた。
にやり、と乗元はいやな笑みを浮かべ刀を構え直す。
首を取るのは自分が、と前に身を乗り出したのだ。
その瞬間、黒い影が目の前を覆う。
それは突然舞い上がった突風のように――
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