ビスマルクの残光

八島唯

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第5章 首都の戦い

ヴァイマールの危機

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「危急の状況...?」
 峻一朗はそうつぶやく。好景気に沸くヴァイマール共和国。政治的にも右派左派の勢力は後退し、何ら心配することはないように思われたからだ。
 ふん、とクラインベック少将はほくそ笑む。
「こんな平穏など、ちょっとしたことですぐ崩壊するさ。ヴァイマール共和制、社会民主党の政権など砂上の楼閣にすぎない。ドイツ共産党は虎視眈々と社会主義革命を目指し、一方で右派勢力は社会が混乱するのを手ぐすね引いて待っている。すでにその兆しは見え始めている。アメリカの景気に陰りが見えているのは、ちょっと想像すればわかることだ。あれはもう『バブル』の状態にあると言って良い」
 クラインベック少将はさらにつづける。
「アメリカの景気が後退すれば、我が国への資本投入もストップすることだろう。そうなればまた昔に逆戻りだ。失業率は上がり、社会不安は増大し――共産党も右派勢力も待ってたとばかりに革命や動乱を起こすことだろう。それを抑えることができるのは唯一、わが国防軍なのだ!!」
 銃弾がはなたれる。峻一朗の頬をかすめ、血がすうっと滴った。
 ゆっくりと歩みをクラインベック少将は進める。
「ドイツ共産党はなんとでも抑えはきく。ソ連をトロツキー氏が抑える限りは、共存もできよう。しかし右派勢力――これは不可能だ。彼らはヴェルサイユ体制の打破を掲げ、愚かな民衆の支持を受けることだろう。選挙を通じて合法的に政権を獲得するかもしれない。そうなる前に――国防軍が権力を掌握する必要があるのだ。ヒンデンブルグ閣下でも、この際ルーデンドルフ閣下でも構わない。軍部が政権を獲得することによって、将来の憂いを晴らすことができるのだ!私は祖国が狂信的なエセ愛国者に乗っ取られることをよしとしない。彼らはその不満を晴らす方法を体外侵略に求め、その結果またドイツが敗北する欧州大戦に引きずり込まれるだろう。だからこそ、『セドラークのオルガン』、それが必要なのだ!!」
 さらに数発を発射する。今度はリドールにめがけて。
 肩に突き刺さる弾丸。リドールはすこしよろめいたが、すぐに姿勢を立て直し直立する。
 驚いた顔をして、また銃を乱射するクラインベック少将。しかし、それはすべてリドールに命中することはなかった。
 クラインベック少将は感じ始めていた。リドール――この少年になにかとてつもない力が宿っていることを――
 
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