59 / 63
第5章 首都の戦い
ヴァイマールの危機
しおりを挟む
「危急の状況...?」
峻一朗はそうつぶやく。好景気に沸くヴァイマール共和国。政治的にも右派左派の勢力は後退し、何ら心配することはないように思われたからだ。
ふん、とクラインベック少将はほくそ笑む。
「こんな平穏など、ちょっとしたことですぐ崩壊するさ。ヴァイマール共和制、社会民主党の政権など砂上の楼閣にすぎない。ドイツ共産党は虎視眈々と社会主義革命を目指し、一方で右派勢力は社会が混乱するのを手ぐすね引いて待っている。すでにその兆しは見え始めている。アメリカの景気に陰りが見えているのは、ちょっと想像すればわかることだ。あれはもう『バブル』の状態にあると言って良い」
クラインベック少将はさらにつづける。
「アメリカの景気が後退すれば、我が国への資本投入もストップすることだろう。そうなればまた昔に逆戻りだ。失業率は上がり、社会不安は増大し――共産党も右派勢力も待ってたとばかりに革命や動乱を起こすことだろう。それを抑えることができるのは唯一、わが国防軍なのだ!!」
銃弾がはなたれる。峻一朗の頬をかすめ、血がすうっと滴った。
ゆっくりと歩みをクラインベック少将は進める。
「ドイツ共産党はなんとでも抑えはきく。ソ連をトロツキー氏が抑える限りは、共存もできよう。しかし右派勢力――これは不可能だ。彼らはヴェルサイユ体制の打破を掲げ、愚かな民衆の支持を受けることだろう。選挙を通じて合法的に政権を獲得するかもしれない。そうなる前に――国防軍が権力を掌握する必要があるのだ。ヒンデンブルグ閣下でも、この際ルーデンドルフ閣下でも構わない。軍部が政権を獲得することによって、将来の憂いを晴らすことができるのだ!私は祖国が狂信的なエセ愛国者に乗っ取られることをよしとしない。彼らはその不満を晴らす方法を体外侵略に求め、その結果またドイツが敗北する欧州大戦に引きずり込まれるだろう。だからこそ、『セドラークのオルガン』、それが必要なのだ!!」
さらに数発を発射する。今度はリドールにめがけて。
肩に突き刺さる弾丸。リドールはすこしよろめいたが、すぐに姿勢を立て直し直立する。
驚いた顔をして、また銃を乱射するクラインベック少将。しかし、それはすべてリドールに命中することはなかった。
クラインベック少将は感じ始めていた。リドール――この少年になにかとてつもない力が宿っていることを――
峻一朗はそうつぶやく。好景気に沸くヴァイマール共和国。政治的にも右派左派の勢力は後退し、何ら心配することはないように思われたからだ。
ふん、とクラインベック少将はほくそ笑む。
「こんな平穏など、ちょっとしたことですぐ崩壊するさ。ヴァイマール共和制、社会民主党の政権など砂上の楼閣にすぎない。ドイツ共産党は虎視眈々と社会主義革命を目指し、一方で右派勢力は社会が混乱するのを手ぐすね引いて待っている。すでにその兆しは見え始めている。アメリカの景気に陰りが見えているのは、ちょっと想像すればわかることだ。あれはもう『バブル』の状態にあると言って良い」
クラインベック少将はさらにつづける。
「アメリカの景気が後退すれば、我が国への資本投入もストップすることだろう。そうなればまた昔に逆戻りだ。失業率は上がり、社会不安は増大し――共産党も右派勢力も待ってたとばかりに革命や動乱を起こすことだろう。それを抑えることができるのは唯一、わが国防軍なのだ!!」
銃弾がはなたれる。峻一朗の頬をかすめ、血がすうっと滴った。
ゆっくりと歩みをクラインベック少将は進める。
「ドイツ共産党はなんとでも抑えはきく。ソ連をトロツキー氏が抑える限りは、共存もできよう。しかし右派勢力――これは不可能だ。彼らはヴェルサイユ体制の打破を掲げ、愚かな民衆の支持を受けることだろう。選挙を通じて合法的に政権を獲得するかもしれない。そうなる前に――国防軍が権力を掌握する必要があるのだ。ヒンデンブルグ閣下でも、この際ルーデンドルフ閣下でも構わない。軍部が政権を獲得することによって、将来の憂いを晴らすことができるのだ!私は祖国が狂信的なエセ愛国者に乗っ取られることをよしとしない。彼らはその不満を晴らす方法を体外侵略に求め、その結果またドイツが敗北する欧州大戦に引きずり込まれるだろう。だからこそ、『セドラークのオルガン』、それが必要なのだ!!」
さらに数発を発射する。今度はリドールにめがけて。
肩に突き刺さる弾丸。リドールはすこしよろめいたが、すぐに姿勢を立て直し直立する。
驚いた顔をして、また銃を乱射するクラインベック少将。しかし、それはすべてリドールに命中することはなかった。
クラインベック少将は感じ始めていた。リドール――この少年になにかとてつもない力が宿っていることを――
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
蘭癖高家
八島唯
歴史・時代
一八世紀末、日本では浅間山が大噴火をおこし天明の大飢饉が発生する。当時の権力者田沼意次は一〇代将軍家治の急死とともに失脚し、その後松平定信が老中首座に就任する。
遠く離れたフランスでは革命の意気が揚がる。ロシアは積極的に蝦夷地への進出を進めており、遠くない未来ヨーロッパの船が日本にやってくることが予想された。
時ここに至り、老中松平定信は消極的であるとはいえ、外国への備えを画策する。
大権現家康公の秘中の秘、後に『蘭癖高家』と呼ばれる旗本を登用することを――
※挿絵はAI作成です。
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。

織田信長に育てられた、斎藤道三の子~斎藤新五利治~
黒坂 わかな
歴史・時代
信長に臣従した佐藤家の姫・紅茂と、斎藤道三の血を引く新五。
新五は美濃斎藤家を継ぐことになるが、信長の勘気に触れ、二人は窮地に立たされる。やがて明らかになる本能寺の意外な黒幕、二人の行く末はいかに。
信長の美濃攻略から本能寺の変の後までを、紅茂と新五双方の語り口で描いた、戦国の物語。

陣借り狙撃やくざ無情譚(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)猟師として生きている栄助。ありきたりな日常がいつまでも続くと思っていた。
だが、陣借り無宿というやくざ者たちの出入り――戦に、陣借りする一種の傭兵に従兄弟に誘われる。
その後、栄助は陣借り無宿のひとりとして従兄弟に付き従う。たどりついた宿場で陣借り無宿としての働き、その魔力に栄助は魅入られる。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
浅葱色の桜
初音
歴史・時代
新選組の局長、近藤勇がその剣術の腕を磨いた道場・試衛館。
近藤勇は、子宝にめぐまれなかった道場主・周助によって養子に迎えられる…というのが史実ですが、もしその周助に娘がいたら?というIfから始まる物語。
「女のくせに」そんな呪いのような言葉と向き合いながら、剣術の鍛錬に励む主人公・さくらの成長記です。
時代小説の雰囲気を味わっていただくため、縦書読みを推奨しています。縦書きで読みやすいよう、行間を詰めています。
小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも載せてます。
旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。
剣客逓信 ―明治剣戟郵便録―
三條すずしろ
歴史・時代
【第9回歴史・時代小説大賞:痛快! エンタメ剣客賞受賞】
明治6年、警察より早くピストルを装備したのは郵便配達員だった――。
維新の動乱で届くことのなかった手紙や小包。そんな残された思いを配達する「御留郵便御用」の若者と老剣士が、時に不穏な明治の初めをひた走る。
密書や金品を狙う賊を退け大切なものを届ける特命郵便配達人、通称「剣客逓信(けんかくていしん)」。
武装する必要があるほど危険にさらされた初期の郵便時代、二人はやがてさらに大きな動乱に巻き込まれ――。
※エブリスタでも連載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる