ビスマルクの残光

八島唯

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第5章 首都の戦い

北の塔

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「陛下の様子は」
 リドールが汚れたドレスのまま、そう問う。侍医は難しそうな顔をしながらも、うなずく。
 一団は王城の北の塔の最上階にいた。ここならば外からの攻撃をしばらくは防げるであろうという判断である。窓のはるか下では、暴徒の叫ぶ声が聞こえる。銃声とそして、赤い旗がいくつもひらめいていた。
「セドラークの正規軍が来るまでは、まだ時間がかかりそうだな」
 峻一朗はそう分析する。
 離れたベッドの上には、王の衣装をまとったままのジョルジェ二世の姿があった。意識はあるようだが、あまり反応がない。
「一見単なる暴動に見えて、その実指揮しているのは専門の教育を受けた士官ですね。全く効率的にこの城を攻めてきている。もっとも近代的な要塞じゃないだけに、攻めあぐねているのもあるようですがね」
 エットカルトが呆れた声で、そう答えた。それを苦々しい顔で見つめるジョフィ女史。
「逃げる、にしてももう先がないわね。こんなところまで来てしまっては」
 混乱の中、フリューガーとも離れ離れになってしまった。まあ、人質としての価値はもうありそうにないし、多分図太く生きる道を考えて、姑息にやっていることだろう。
「皇太子殿下」
 その称号でリドールを呼ぶ峻一朗。
「こうなってはもはや、頼るべきはものは一つしかありません。それは、マスターの『セドラークのオルガン』の存在です。マスターの存在を、敵は血眼になって探している。多分この城にあるとふんで」
 峻一朗は一呼吸おいて続ける。
「しかし、それはここにはない。かつてあなたに見せてもらった。郊外の離れた城の中に保管されていることを。ならば――」
 リドールはうなずき、それを認める。
「その『セドラークのオルガン』を確保して、援軍の到着を待てば状況は逆転できるということですな。問題はここをどう乗り切るかですが――」
「方法はあります」
 エットカルトの言葉に、リドールは強い口調で答える。
「ここに逃げたのは、ここに、最後の手段が残されているからです。先々代が残された、脱出手段が」
 そう言いながら、小型の『セドラークのオルガン』を取り出す。壁にそれを添えると、ゆっくりと操作を始める。
 何度も鍵の音のような、機械音が部屋に響き渡っった。最後、大きな金属音が――
 壁がゆっくりと開き、そこには空間が広がっていた。青い、どこまでも続く空が――
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