ビスマルクの残光

八島唯

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第5章 首都の戦い

革命勃発

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 大きく王の間が揺れる。まるで地震のようだった。壁が崩れる。そして天井も。
「陛下!大変でございます!」
 小太りの体躯を揺らしてベナークが飛び込んでくる。
「陛下はここです!」
 ジョルジェ二世を抱きしめて抱えるリドール。床には血がつたう。
「侍医を!まずは止血を!」
 リドールの大きな声。ベナークは真っ青な顔でそこに立ち尽くす。
「状況を説明してくれ」
 峻一朗がよろよろと立ち上がる。ナージがそれを支える。
「は、は!実は王城が暴徒に包囲されています。暴徒は口々に『革命バンザイ』を叫んでおります」
「革命だと!?」
 煙の中から現れるエットカルト。隣室に控えていたのだが、あまりの状況の変化に飛び出してきたようだ。傍らに気の失ったジョフィ女史を抱きしめながら。
「とうてい一般民衆が扱える火力ではない。多分この砲撃は7.7cmFK16野砲によるものだ。世界大戦時のドイツの主力野砲――」
 峻一朗は即座に判断する。革命の暴徒らは『ドイツ』軍の兵器を装備しているということを。
「セドラークの国軍はどうした?」
 エットカルトがそう叫ぶ。ベナークは少しの間の後に答える。
「国軍は新市街の外に駐屯しています。暴徒は旧市街地を占領して、王城を包囲している模様で......」
「早く戻せないのか?」
「旧市街地の四つの門がすべて壊されて、バリケードによって封鎖されています。なんとも――」
 ふう、と峻一朗はため息をつく。水も漏らさぬ計画に基づいた『革命』らしい。そんな事ができるのは当然、クラインベック少将の他にいるはずもない。
「暴徒たちはドイツ人か?」
 峻一朗の質問にベナークは首を振る。
「セドラークの民衆のようです。人数は数百人程度かと。しかし、多くの市民は扉を閉めて、ことの成り行きを見守っているようです」
 少ないな――と峻一朗は分析する。このような革命であれば、老若男女を問わない市民が殺到するはずである。ましてこの国の政情。小国ではあるが、決して貧しくはない。むしろ豊かと言っても良い。国王の治世もよろしく、それほど市民が反抗的であるとも思えなかった。
 しかし、全く不満分子がいないというわけではない。特に共産主義者のグループ。ヨーロッパ各国にその勢力を強め、国によっては非合法化されている共産党もあるはずだ。
 脳裏に浮かぶ眼鏡の男性の姿。
 レオン=トロツキー――ソ連の共産党幹部にして、数年前にクラインベック少将と密会した人物である。
 峻一朗は考え込む。この二人を結びつける糸の存在を――
  
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