49 / 63
第5章 首都の戦い
革命勃発
しおりを挟む
大きく王の間が揺れる。まるで地震のようだった。壁が崩れる。そして天井も。
「陛下!大変でございます!」
小太りの体躯を揺らしてベナークが飛び込んでくる。
「陛下はここです!」
ジョルジェ二世を抱きしめて抱えるリドール。床には血がつたう。
「侍医を!まずは止血を!」
リドールの大きな声。ベナークは真っ青な顔でそこに立ち尽くす。
「状況を説明してくれ」
峻一朗がよろよろと立ち上がる。ナージがそれを支える。
「は、は!実は王城が暴徒に包囲されています。暴徒は口々に『革命バンザイ』を叫んでおります」
「革命だと!?」
煙の中から現れるエットカルト。隣室に控えていたのだが、あまりの状況の変化に飛び出してきたようだ。傍らに気の失ったジョフィ女史を抱きしめながら。
「とうてい一般民衆が扱える火力ではない。多分この砲撃は7.7cmFK16野砲によるものだ。世界大戦時のドイツの主力野砲――」
峻一朗は即座に判断する。革命の暴徒らは『ドイツ』軍の兵器を装備しているということを。
「セドラークの国軍はどうした?」
エットカルトがそう叫ぶ。ベナークは少しの間の後に答える。
「国軍は新市街の外に駐屯しています。暴徒は旧市街地を占領して、王城を包囲している模様で......」
「早く戻せないのか?」
「旧市街地の四つの門がすべて壊されて、バリケードによって封鎖されています。なんとも――」
ふう、と峻一朗はため息をつく。水も漏らさぬ計画に基づいた『革命』らしい。そんな事ができるのは当然、クラインベック少将の他にいるはずもない。
「暴徒たちはドイツ人か?」
峻一朗の質問にベナークは首を振る。
「セドラークの民衆のようです。人数は数百人程度かと。しかし、多くの市民は扉を閉めて、ことの成り行きを見守っているようです」
少ないな――と峻一朗は分析する。このような革命であれば、老若男女を問わない市民が殺到するはずである。ましてこの国の政情。小国ではあるが、決して貧しくはない。むしろ豊かと言っても良い。国王の治世もよろしく、それほど市民が反抗的であるとも思えなかった。
しかし、全く不満分子がいないというわけではない。特に共産主義者のグループ。ヨーロッパ各国にその勢力を強め、国によっては非合法化されている共産党もあるはずだ。
脳裏に浮かぶ眼鏡の男性の姿。
レオン=トロツキー――ソ連の共産党幹部にして、数年前にクラインベック少将と密会した人物である。
峻一朗は考え込む。この二人を結びつける糸の存在を――
「陛下!大変でございます!」
小太りの体躯を揺らしてベナークが飛び込んでくる。
「陛下はここです!」
ジョルジェ二世を抱きしめて抱えるリドール。床には血がつたう。
「侍医を!まずは止血を!」
リドールの大きな声。ベナークは真っ青な顔でそこに立ち尽くす。
「状況を説明してくれ」
峻一朗がよろよろと立ち上がる。ナージがそれを支える。
「は、は!実は王城が暴徒に包囲されています。暴徒は口々に『革命バンザイ』を叫んでおります」
「革命だと!?」
煙の中から現れるエットカルト。隣室に控えていたのだが、あまりの状況の変化に飛び出してきたようだ。傍らに気の失ったジョフィ女史を抱きしめながら。
「とうてい一般民衆が扱える火力ではない。多分この砲撃は7.7cmFK16野砲によるものだ。世界大戦時のドイツの主力野砲――」
峻一朗は即座に判断する。革命の暴徒らは『ドイツ』軍の兵器を装備しているということを。
「セドラークの国軍はどうした?」
エットカルトがそう叫ぶ。ベナークは少しの間の後に答える。
「国軍は新市街の外に駐屯しています。暴徒は旧市街地を占領して、王城を包囲している模様で......」
「早く戻せないのか?」
「旧市街地の四つの門がすべて壊されて、バリケードによって封鎖されています。なんとも――」
ふう、と峻一朗はため息をつく。水も漏らさぬ計画に基づいた『革命』らしい。そんな事ができるのは当然、クラインベック少将の他にいるはずもない。
「暴徒たちはドイツ人か?」
峻一朗の質問にベナークは首を振る。
「セドラークの民衆のようです。人数は数百人程度かと。しかし、多くの市民は扉を閉めて、ことの成り行きを見守っているようです」
少ないな――と峻一朗は分析する。このような革命であれば、老若男女を問わない市民が殺到するはずである。ましてこの国の政情。小国ではあるが、決して貧しくはない。むしろ豊かと言っても良い。国王の治世もよろしく、それほど市民が反抗的であるとも思えなかった。
しかし、全く不満分子がいないというわけではない。特に共産主義者のグループ。ヨーロッパ各国にその勢力を強め、国によっては非合法化されている共産党もあるはずだ。
脳裏に浮かぶ眼鏡の男性の姿。
レオン=トロツキー――ソ連の共産党幹部にして、数年前にクラインベック少将と密会した人物である。
峻一朗は考え込む。この二人を結びつける糸の存在を――
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
鎌倉最後の日
もず りょう
歴史・時代
かつて源頼朝や北条政子・義時らが多くの血を流して築き上げた武家政権・鎌倉幕府。承久の乱や元寇など幾多の困難を乗り越えてきた幕府も、悪名高き執権北条高時の治政下で頽廃を極めていた。京では後醍醐天皇による倒幕計画が持ち上がり、世に動乱の兆しが見え始める中にあって、北条一門の武将金澤貞将は危機感を募らせていく。ふとしたきっかけで交流を深めることとなった御家人新田義貞らは、貞将にならば鎌倉の未来を託すことができると彼に「決断」を迫るが――。鎌倉幕府の最後を華々しく彩った若き名将の清冽な生きざまを活写する歴史小説、ここに開幕!
蘭癖高家
八島唯
歴史・時代
一八世紀末、日本では浅間山が大噴火をおこし天明の大飢饉が発生する。当時の権力者田沼意次は一〇代将軍家治の急死とともに失脚し、その後松平定信が老中首座に就任する。
遠く離れたフランスでは革命の意気が揚がる。ロシアは積極的に蝦夷地への進出を進めており、遠くない未来ヨーロッパの船が日本にやってくることが予想された。
時ここに至り、老中松平定信は消極的であるとはいえ、外国への備えを画策する。
大権現家康公の秘中の秘、後に『蘭癖高家』と呼ばれる旗本を登用することを――
※挿絵はAI作成です。
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。

織田信長に育てられた、斎藤道三の子~斎藤新五利治~
黒坂 わかな
歴史・時代
信長に臣従した佐藤家の姫・紅茂と、斎藤道三の血を引く新五。
新五は美濃斎藤家を継ぐことになるが、信長の勘気に触れ、二人は窮地に立たされる。やがて明らかになる本能寺の意外な黒幕、二人の行く末はいかに。
信長の美濃攻略から本能寺の変の後までを、紅茂と新五双方の語り口で描いた、戦国の物語。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
幕末レクイエム―士魂の城よ、散らざる花よ―
馳月基矢
歴史・時代
徳川幕府をやり込めた勢いに乗じ、北進する新政府軍。
新撰組は会津藩と共に、牙を剥く新政府軍を迎え撃つ。
武士の時代、刀の時代は終わりを告げる。
ならば、刀を執る己はどこで滅ぶべきか。
否、ここで滅ぶわけにはいかない。
士魂は花と咲き、決して散らない。
冷徹な戦略眼で時流を見定める新撰組局長、土方歳三。
あやかし狩りの力を持ち、無敵の剣を謳われる斎藤一。
schedule
公開:2019.4.1
連載:2019.4.19-5.1 ( 6:30 & 18:30 )
陸のくじら侍 -元禄の竜-
陸 理明
歴史・時代
元禄時代、江戸に「くじら侍」と呼ばれた男がいた。かつて武士であるにも関わらず鯨漁に没頭し、そして誰も知らない理由で江戸に流れてきた赤銅色の大男――権藤伊佐馬という。海の巨獣との命を削る凄絶な戦いの果てに会得した正確無比な投げ銛術と、苛烈なまでの剛剣の使い手でもある伊佐馬は、南町奉行所の戦闘狂の美貌の同心・青碕伯之進とともに江戸の悪を討ちつつ、日がな一日ずっと釣りをして生きていくだけの暮らしを続けていた……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる