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第4章 国防軍との対決
フレーデン平原にて
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どこまでも続く地平線。ベルリンから少し離れただけで、このような草原が広がる。
もし前大戦でロシア軍が攻めてきたら、ここが最終防衛ラインとなることだろう。第一次世界大戦ではまだ電撃戦、つまり機動力を利用した戦いは体系的に確立されていなかったが。
しかしこの大地には何台もの戦車が展開する。歩兵と並走しつつ、仮想敵をゆっくりと掃討しながら進む。その姿は鉄の象さながらに、勇壮なものであった。
「すごいな」
物陰から双眼鏡を覗きながら、峻一朗はそうつぶやく。そのかたわらにはナージが銃を構え、少年姿のリドールもいた。そして相変わらず『大佐』の服装できめているエットカルト。同じく軍服をまとうのはジョフィ女史である。もちろん男性の兵士の軍服であった。床には手錠をかけられたフリューガーがげっそりとしながら座っていた。
古びた農家の二階。住人はすでになく、廃墟となっていた。そこからはこのフレーデン平原を一望することができた。逆に家の周りの小さな木々が家を隠し、向こうからは見えない。
「戦車――新兵器じゃないか。ヴェルサイユ条約で保有を禁止されたのでは」
「シュナイダー戦車でもなければ、イギリスの鹵獲品マーク戦車でもないですな。ありゃ、『ルノーFT』のように見えるが、どうなんだい?」
エットカルトは双眼鏡を目からはなしながら、フリューガーに問いかける。しかし、フリューガーは無言である。
「まあ、予想するに――自国で生産できない以上輸入するしかない。イギリスやフランスはヴァイマール共和国に新型戦車を渡すなんてありえない。他に戦車を作れる国と言ったら――」
エットカルトの独り言にびくっとフリューガーは反応する。それを面白そうに見つめるエットカルト。
「『ソヴィエト社会主義共和国連邦』......!」
一九二二年、ヴァイマール共和国政府はいまだ国家としての体をなしていないソビエト・ロシア政府との間に秘密条約を締結する。お互いの友好条約であるとともに、秘密裏にお互いの軍事的な援助を定めたものであった。
つまりヴェルサイユ体制下で表立って新兵器開発をできないヴァイマール共和国に変わって、ソ連がそれを援助する。ソ連国内でヴァイマール共和国の軍人が新兵器の開発に携わり、再び起こるであろう世界大戦に向けてちゃくちゃくと準備をすすめていたのだ。
「噂には聞いていましたが......まさか二カ国がこのような形で協力するとは」
リドールが息を呑む。
「この場合、お互いがお互いを利用しあっている関係ですね。すこしでもそのバランスが崩れれば再び対立し合うでしょうが」
そう言いながら、再び峻一朗は双眼鏡を覗く。そこには何人かの軍人が話し合いをしているようだったーー
もし前大戦でロシア軍が攻めてきたら、ここが最終防衛ラインとなることだろう。第一次世界大戦ではまだ電撃戦、つまり機動力を利用した戦いは体系的に確立されていなかったが。
しかしこの大地には何台もの戦車が展開する。歩兵と並走しつつ、仮想敵をゆっくりと掃討しながら進む。その姿は鉄の象さながらに、勇壮なものであった。
「すごいな」
物陰から双眼鏡を覗きながら、峻一朗はそうつぶやく。そのかたわらにはナージが銃を構え、少年姿のリドールもいた。そして相変わらず『大佐』の服装できめているエットカルト。同じく軍服をまとうのはジョフィ女史である。もちろん男性の兵士の軍服であった。床には手錠をかけられたフリューガーがげっそりとしながら座っていた。
古びた農家の二階。住人はすでになく、廃墟となっていた。そこからはこのフレーデン平原を一望することができた。逆に家の周りの小さな木々が家を隠し、向こうからは見えない。
「戦車――新兵器じゃないか。ヴェルサイユ条約で保有を禁止されたのでは」
「シュナイダー戦車でもなければ、イギリスの鹵獲品マーク戦車でもないですな。ありゃ、『ルノーFT』のように見えるが、どうなんだい?」
エットカルトは双眼鏡を目からはなしながら、フリューガーに問いかける。しかし、フリューガーは無言である。
「まあ、予想するに――自国で生産できない以上輸入するしかない。イギリスやフランスはヴァイマール共和国に新型戦車を渡すなんてありえない。他に戦車を作れる国と言ったら――」
エットカルトの独り言にびくっとフリューガーは反応する。それを面白そうに見つめるエットカルト。
「『ソヴィエト社会主義共和国連邦』......!」
一九二二年、ヴァイマール共和国政府はいまだ国家としての体をなしていないソビエト・ロシア政府との間に秘密条約を締結する。お互いの友好条約であるとともに、秘密裏にお互いの軍事的な援助を定めたものであった。
つまりヴェルサイユ体制下で表立って新兵器開発をできないヴァイマール共和国に変わって、ソ連がそれを援助する。ソ連国内でヴァイマール共和国の軍人が新兵器の開発に携わり、再び起こるであろう世界大戦に向けてちゃくちゃくと準備をすすめていたのだ。
「噂には聞いていましたが......まさか二カ国がこのような形で協力するとは」
リドールが息を呑む。
「この場合、お互いがお互いを利用しあっている関係ですね。すこしでもそのバランスが崩れれば再び対立し合うでしょうが」
そう言いながら、再び峻一朗は双眼鏡を覗く。そこには何人かの軍人が話し合いをしているようだったーー
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