ビスマルクの残光

八島唯

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第3章 ベルリン、陰謀の都

スクープ

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 猛烈に彼女はペンを紙の上に走らせる。右に、そして左に。まるで絵画でも描いているようなその動きは、あっという間に紙の上を黒く染めていった。
 十分後、おもむろにジョフィ女史の手が止まる。
 振り返り満面の笑みで、紙面を峻一朗にさしだすジョフィ女史。一礼して峻一朗はそれを受け取る。
 タブロイド判、というのだろうか。両手に収まるサイズで所狭しと手書きの文字が記されている。その左上にとりわけ大きな文字――記事の見出しにはこのように書かれていた。
『驚愕!共和国国防軍兵務局後方作戦次長コンスタンティン=クラインベック少将の謎!『セドラークのオルガン』の秘密とは!』
 必要以上に煽っている感じの見出しであるが、早速記事を読み始める。
「このベルリン市内で起こっている出来事で、私以上に知っている人はいないはずよ。もっともあんなやつのこと、知りたくもなかったけれどね」
 ジョフィ女史の声を背に峻一朗は記事を読み進める。
『......クラインベック少将の独断専行は今に始まったことではないが、今回の醜聞はとりわけである。上層部に一切図らずに特務費を流用し、セドラーク王国の秘中の秘とも言える、特殊工作機『セドラークのオルガン』を密輸していたのであった。この機械は精密な工業製品を加工可能であり、当然それは軍事的な機器すなわち兵器への使用が当然であろう。ヴェルサイユ条約下においてこのような行為は、国際社会の非難を浴びるのは必定であり、また平和国家の道を歩き始めた我が共和国にとっても危険なものである。しかし......』
 突然勇ましい論調がそこでストップする。それを察したのかジョフィ女史が恥ずかしそうに面を伏せた。
『.....現在共和国軍内において新規に生産された兵器は、小火器などもふくめて皆無であり、またそのような動きも見られない。いや、それどころか密輸したはずの『セドラークのオルガン』数台が行方不明の状態にある。摩訶不思議。一体どこに消えたのか?次号を待て!』
 いちばん大事なところで記事は途切れる。何度も紙面を確認する峻一朗。残りの部分はゴシップ誌よろしく、クラインベック少将の個人的なスキャンダルや、軍部の悪口で埋められていた。
「核心部分は、不明ということか」
 ため息をつきながら峻一朗は新聞を閉じる。
 期待外れ、という程でもなかった。少なくともクライベック少将が軍上層部に黙って『セドラークのオルガン』を購入したこととそれが今『行方不明』にあることがわかったのだから。
「一つ提案があります」
 ジョフィ女史がそう峻一朗に申しでる。
「このまま引き下がっては、『ベルリンシュピーゲル』の名折れです。ぜひやらせてほしいのですが――」
 ジョフィ女史が希望したこと、それは驚くべきことであった――
 
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