20 / 63
第2章 バイエルンの夜の霧
『会議は踊る』
しおりを挟む
「客人よ。そして、我が同胞よ。私の力を借りたいという話だが」
玉座のルードヴィッヒ二世は指輪をつけた指を差し出しながら、そう問いかける。
「は。このヨーロッパに再び混乱がもたらされようとしています。それを防ぐためにも陛下の御威光におすがりしたく――」
普段はあまり見ない峻一朗の慇懃な態度に、ナージは目を見張る。
ナージ自身、ここに来たのは初めてであった。玉座のルードヴィッヒ二世なる人物――物語上の人物としか知らない存在であった。ドイツ統一に関係するキーパーソンであり、そして謎の死を遂げた人物。亡くなったのは一九世紀後半、今から半世紀も前の出来事である。しかし、玉座の男性はまるで時を超越しているように若々しく感じられた。
「『ビスマルクの残光』を浴びたいのか。よろしい。詳細を聞かせてもらおう。ただ――」
ルードヴィッヒ二世は隣の廷臣になにやら耳打ちをする。
「客人を迎えるにあたってまずは宴をひらくのが筋であろう。なぁに、今宵限りのことだ。どうか楽しんでいってほしい」
それが謁見が終わる区切りとなった。
時は夕方に。
相変わらず『王女リーディエ』であるリドールは前世紀的なドレスを身にまとっていた。同じくナージも同様のドレスを身にまとう。長いテーブルが大広間に並べられ、その上には地中海の産物や高級そうなワイン、そして果物が山のように盛られていた。
そして多くの人たちが、その大広間には集い、食べ、談笑していた。
リドールは耳をそばだてる。
主に聞こえるのはラテン語。稀にロシア語やイタリア語、フランス語も聞こえてきた。
彼らの服装は豪華であり、王侯貴族の雰囲気を伺わせた。かつて『会議は踊る』と評されたウィーン会議の舞踏会も、かくのごとき華やかさであったのだろうかと思いを巡らす。
そんな事を考えていると、思わず人にぶつかってしまうリドール。その体を倒れないようにおさえる手が伸びる。
「大丈夫ですか?王女殿下」
峻一朗である。それに対して立礼でリドールは答える。
「ここにいる人々は――」
峻一朗はグラスを持ちながらあたりを見回す。
「『革命』で母国を失った貴族たちです。近くはロマノフ家に連なるもの、古くはナポレオン帝政下で幅を利かせていた新貴族もおります」
「ここは一体」
「この城はそのような人々の終着地なのです。ルードヴィッヒ二世陛下はそのような方々を自らのもとに集めたのです。『ビスマルクの残光』の名のもとに、ヨーロッパの勢力均衡による平和を目指して」
玉座のルードヴィッヒ二世は指輪をつけた指を差し出しながら、そう問いかける。
「は。このヨーロッパに再び混乱がもたらされようとしています。それを防ぐためにも陛下の御威光におすがりしたく――」
普段はあまり見ない峻一朗の慇懃な態度に、ナージは目を見張る。
ナージ自身、ここに来たのは初めてであった。玉座のルードヴィッヒ二世なる人物――物語上の人物としか知らない存在であった。ドイツ統一に関係するキーパーソンであり、そして謎の死を遂げた人物。亡くなったのは一九世紀後半、今から半世紀も前の出来事である。しかし、玉座の男性はまるで時を超越しているように若々しく感じられた。
「『ビスマルクの残光』を浴びたいのか。よろしい。詳細を聞かせてもらおう。ただ――」
ルードヴィッヒ二世は隣の廷臣になにやら耳打ちをする。
「客人を迎えるにあたってまずは宴をひらくのが筋であろう。なぁに、今宵限りのことだ。どうか楽しんでいってほしい」
それが謁見が終わる区切りとなった。
時は夕方に。
相変わらず『王女リーディエ』であるリドールは前世紀的なドレスを身にまとっていた。同じくナージも同様のドレスを身にまとう。長いテーブルが大広間に並べられ、その上には地中海の産物や高級そうなワイン、そして果物が山のように盛られていた。
そして多くの人たちが、その大広間には集い、食べ、談笑していた。
リドールは耳をそばだてる。
主に聞こえるのはラテン語。稀にロシア語やイタリア語、フランス語も聞こえてきた。
彼らの服装は豪華であり、王侯貴族の雰囲気を伺わせた。かつて『会議は踊る』と評されたウィーン会議の舞踏会も、かくのごとき華やかさであったのだろうかと思いを巡らす。
そんな事を考えていると、思わず人にぶつかってしまうリドール。その体を倒れないようにおさえる手が伸びる。
「大丈夫ですか?王女殿下」
峻一朗である。それに対して立礼でリドールは答える。
「ここにいる人々は――」
峻一朗はグラスを持ちながらあたりを見回す。
「『革命』で母国を失った貴族たちです。近くはロマノフ家に連なるもの、古くはナポレオン帝政下で幅を利かせていた新貴族もおります」
「ここは一体」
「この城はそのような人々の終着地なのです。ルードヴィッヒ二世陛下はそのような方々を自らのもとに集めたのです。『ビスマルクの残光』の名のもとに、ヨーロッパの勢力均衡による平和を目指して」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
蘭癖高家
八島唯
歴史・時代
一八世紀末、日本では浅間山が大噴火をおこし天明の大飢饉が発生する。当時の権力者田沼意次は一〇代将軍家治の急死とともに失脚し、その後松平定信が老中首座に就任する。
遠く離れたフランスでは革命の意気が揚がる。ロシアは積極的に蝦夷地への進出を進めており、遠くない未来ヨーロッパの船が日本にやってくることが予想された。
時ここに至り、老中松平定信は消極的であるとはいえ、外国への備えを画策する。
大権現家康公の秘中の秘、後に『蘭癖高家』と呼ばれる旗本を登用することを――
※挿絵はAI作成です。
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

陣借り狙撃やくざ無情譚(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)猟師として生きている栄助。ありきたりな日常がいつまでも続くと思っていた。
だが、陣借り無宿というやくざ者たちの出入り――戦に、陣借りする一種の傭兵に従兄弟に誘われる。
その後、栄助は陣借り無宿のひとりとして従兄弟に付き従う。たどりついた宿場で陣借り無宿としての働き、その魔力に栄助は魅入られる。
旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。
浅葱色の桜
初音
歴史・時代
新選組の局長、近藤勇がその剣術の腕を磨いた道場・試衛館。
近藤勇は、子宝にめぐまれなかった道場主・周助によって養子に迎えられる…というのが史実ですが、もしその周助に娘がいたら?というIfから始まる物語。
「女のくせに」そんな呪いのような言葉と向き合いながら、剣術の鍛錬に励む主人公・さくらの成長記です。
時代小説の雰囲気を味わっていただくため、縦書読みを推奨しています。縦書きで読みやすいよう、行間を詰めています。
小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも載せてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる