銀髪のカイゼリン~オストリーバ帝国物語

八島唯

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第3章 南の海を目指して

南の国の旅へ

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 ハルトウィンは目をこする。目の前の机の上には山になった書類。羊皮紙の厚さとはいえ、尋常ではない事務作業をこなしていた。
 朝日が登る。夜は暗く、油も貴重品であるがしょうがない。ハルトウィンは典型的な夜型人間であり、事務仕事は主に深夜にこなしていた。
「ようやく、一段落付いたかな」
 ここ半年はまるで嵐のような時間が流れていた。
 故郷リーグニッツ荘園の改革。
 クリューガー公との戦い。
 そして、ラディム公太子の公爵授爵。
 帝国東部の不毛の地の一領主だったときとは違う、多忙な日々。
 それもようやく、区切りが見えてきた。
 リーグニッツ荘園は再生を果たし、穀物生産量が格段に向上した。このノウハウは他の荘園にも応用可能であろう。数年の後、クリューガー公領を含めて、収穫は帝国の平均を遥かに超えるこが予想された。
 クリューガー公領も新公爵ラディムを迎え、新たな道を歩み始めた。クリューガー公邸執事であったラルス=ヘルツフェルトを公国宰相代理として迎え、城塞都市ドレスタンの参事官だったレムケ卿を政務次官として抜擢した。
 筋を通すヘルツフェルトと事務作業に秀でたレムケ卿のコンビは、旧弊に飽き飽きしていた市民たちにも人気があり戦後処理をどんどん進めていった。それに反対する旧勢力は『ワルグシュタットの戦い』で一掃されていたことも大きかった。
「だいたい片付いたか」
 そっと、羊皮紙の上にハルトウィンは手を乗せる。『ゼーバルト辺境伯』としての仕事はこれで一段落であった。目を壁にかかった地図に上げる。形がかなりいびつであるが、大体の位置はつかめれるレベルの中世の地図である。
 中心にオストリーバ帝国が記され、モザイクのように諸領邦に分裂している。その南には大山脈をはさみ、『大内海』に突き出る半島――この当時はまだ統一を果たしてない、『アリタニア』と呼ばれる地域である。かつてリーバ帝国と呼ばれる大帝国を形成し、この大陸世界に覇を唱えたという――現在でもなお、分裂はしているが文化的にも経済的にも北の帝国よりも先進的であった。
『ハルトウィン様。行ってみませんか、『アリタニア』に』
 小さな背のイェルドが上目遣いにそう誘う。
『いえ、私も本来の性は商人ですから。ここ最近、きな臭い戦いにばかりに目が慣れてきたようで。ここで南の風光明媚な街並みでも見て、リフレッシュしようかなと――』
 その言葉に裏を感じるハルトウィン。イェルドが何かしらの目的がある旅行にハルトウィンを誘っているのは明らかであった。何しろ、イェルド=ルーマン女商人の本質は帝国参謀長ヴィンフリート=モルゲンシュテルンの転生者なのだから。
 ハルトウィンが旅立つのはそれより五日後の出来事であった。
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