29 / 35
第2章 クリューガー公国との戦い
公爵位、認められる
しおりを挟む
いくつもの旗が大広間にたなびく。ここは帝国の立法府たる帝国議会である。もっとも身分制議会であるから、議員はすべて帝国貴族によって成り立っていたが。
議長を務めるのは、年配の大貴族クンツェンドルフ公クラウス、御年八七歳の老人である。形式通りに定例会議は開催され、厳かにいくつもの議題が読み上げられる。
基本、この本会議に至る前に大貴族同士で根回しはすんでいる。異議がない限り、論議になることはない。
終わりごろに『クリューガー公の即位について』の議題が取り上げられる。『クリューガー公領にて、当主と公太子の内戦勃発』というニュースは議員の周知のことであった。当然その経過と結果もである。議長の机の上にはクリューガー公の印璽と、当主を引退する旨のアロイジウスの公的申請書が供えられていた。
『意義なし』
広間に響き渡る、議員たちの声。クンツェンドルフ公は大きな金の槌を机にたたきつける。きーんと金属音が響き渡る。
『議題を了承する』旨の合図である。
帝国議会別室。そこには爵位典礼大臣たるネバニック子爵がラディムと向かい合っていた。
「『本日の帝国議会の議決の結果、ラディム=フォン=クリューガーを正式にクリューガー公爵と認めるものである。帝国議会議長クンツェンドルフ公クラウス』」
小太りなネバニック男爵が震えながら高い声でそう公文書を読み上げ、慇懃にそれを両手でラディムに手渡す。それをそっと受け取るラディム。
「いやいや、おめでたいことですな。正直、議会の論議も紛糾したところもありまして。なんといっても帝国内で内戦をしたわけですからな。見ようによっては簒奪、とも見えるわけで......」
そばに控えるカレルが後ろに回した手をぎゅっと握る。状況が許せば、男爵の失礼な言動に手が出ていたかもしれない。
「大臣閣下にはいろいろお骨折りいただき、感謝に耐えない」
そういいながら、机の上にそっと小さな羊皮紙を差し出す。
クリューガー公領内で使用可能な小切手である。金額は——金貨で千枚ほどの額に見えた。
ごほんと咳ばらいをしながら、それを机の引き出しの中に放り込むネバニック男爵。そして脂ぎった手でラディムに握手を求める。
「いやいや、お若いのになかなか。そうそう、もしよろしければ皇帝陛下に会われては。本来ならば正式な即位式の時に臣下の誓いを立てることになるのですが、わたくしの力をもってすれば、本日なりとも謁見を許可できるかと。顔をうっておくにしくはないですよ」
カレルの方をすっとラディムは見つめる。
静かにうなずくカレル。ラディムはそれを確認したうえで答える。
「ぜひ。皇帝陛下にはまだお会いしたことはないゆえに、そのようにとりはかっていただけるのは望外のことだ」
結果として、さらに千枚の金貨を男爵から所望されることになったラディムであった。
その二時間後、ラディムは皇帝との謁見をすることとなる――
議長を務めるのは、年配の大貴族クンツェンドルフ公クラウス、御年八七歳の老人である。形式通りに定例会議は開催され、厳かにいくつもの議題が読み上げられる。
基本、この本会議に至る前に大貴族同士で根回しはすんでいる。異議がない限り、論議になることはない。
終わりごろに『クリューガー公の即位について』の議題が取り上げられる。『クリューガー公領にて、当主と公太子の内戦勃発』というニュースは議員の周知のことであった。当然その経過と結果もである。議長の机の上にはクリューガー公の印璽と、当主を引退する旨のアロイジウスの公的申請書が供えられていた。
『意義なし』
広間に響き渡る、議員たちの声。クンツェンドルフ公は大きな金の槌を机にたたきつける。きーんと金属音が響き渡る。
『議題を了承する』旨の合図である。
帝国議会別室。そこには爵位典礼大臣たるネバニック子爵がラディムと向かい合っていた。
「『本日の帝国議会の議決の結果、ラディム=フォン=クリューガーを正式にクリューガー公爵と認めるものである。帝国議会議長クンツェンドルフ公クラウス』」
小太りなネバニック男爵が震えながら高い声でそう公文書を読み上げ、慇懃にそれを両手でラディムに手渡す。それをそっと受け取るラディム。
「いやいや、おめでたいことですな。正直、議会の論議も紛糾したところもありまして。なんといっても帝国内で内戦をしたわけですからな。見ようによっては簒奪、とも見えるわけで......」
そばに控えるカレルが後ろに回した手をぎゅっと握る。状況が許せば、男爵の失礼な言動に手が出ていたかもしれない。
「大臣閣下にはいろいろお骨折りいただき、感謝に耐えない」
そういいながら、机の上にそっと小さな羊皮紙を差し出す。
クリューガー公領内で使用可能な小切手である。金額は——金貨で千枚ほどの額に見えた。
ごほんと咳ばらいをしながら、それを机の引き出しの中に放り込むネバニック男爵。そして脂ぎった手でラディムに握手を求める。
「いやいや、お若いのになかなか。そうそう、もしよろしければ皇帝陛下に会われては。本来ならば正式な即位式の時に臣下の誓いを立てることになるのですが、わたくしの力をもってすれば、本日なりとも謁見を許可できるかと。顔をうっておくにしくはないですよ」
カレルの方をすっとラディムは見つめる。
静かにうなずくカレル。ラディムはそれを確認したうえで答える。
「ぜひ。皇帝陛下にはまだお会いしたことはないゆえに、そのようにとりはかっていただけるのは望外のことだ」
結果として、さらに千枚の金貨を男爵から所望されることになったラディムであった。
その二時間後、ラディムは皇帝との謁見をすることとなる――
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説


どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる