25 / 35
第2章 クリューガー公国との戦い
長い夜の始まり
しおりを挟む
森の中の襲撃。ラディム公太子の一行を襲う、無数の矢弾。
その前に仁王立ちして、詠唱をカレルは行っていた。
後ろにラディムを隠れさせ、それをまるで覆い隠すように。
何本かの矢が、カレルの上半身をそして顔をかすめる。しかし、目を閉じたままカレルはピクリともしない。
そして――『魔弾』から放たれいた魔法の光の煙が消えた瞬間、ラディムは身をひるがえす。背に背負っていた二挺の銃を引き抜き回転する動きで『魔弾』を装填し、放つ。
一発、そして一発。
森に吸い込まれるように消えた『魔弾』。その次の瞬間、カレルは銃を放り捨て、ラディムの上に覆いかぶさった。
激しい光の球が二つ森の中に現れる。そして、少し間をおいて激しい衝撃が二人を襲う。葉や草や木の混じった嵐が二人の上を通り過ぎていく。
「ご無事ですか」
無機質なカレルの声で、ラディムは目を覚ます。どうやら気絶していたらしい。
立ち上がり、体の埃を払うカレル。ラディムが無言で頷くと、そっと右手を差し出し立ち上がるのを手伝おうとした。
右のほほに伸びる血の跡。それに気づいたラディムは腰のマントでそれをそっとふき取る。カレルはそんなラディムを不思議そうに眺めていた――
夜の帷幕。体の傷をカレルは手当てしていた。顔だけではなく、体のあちこちに傷があった。矢に毒が付されていなかったことは幸いである。最も、その程度の毒なら魔法術でなんともできる範囲であろうが。
上半身に包帯を巻き終えた、その瞬間に気配を感じ小銃を手にとっさにカレルは振り返る。
帷幕の入り口、そこには――鎧を外したラディムがたたずんでいた。
目を閉じ、そっと小銃をかたわらの簡易机の上にカレルは置く。
「入ってもよろしいかな」
無言でうなずくカレル。すっと帷幕の中に入ったラディムは、小さな椅子の上に腰を下ろす。
「いかがなされましたか、公太子殿下」
なるべく無感情を装ってカレルがそう答える。慇懃に感じられないような限界の配慮をしつつ。
「今日は申し訳なかった」
「それほどのことでも」
「そのように......全身に傷を負わせてしまい......」
「これは、わが身の未熟さゆえの手傷。どうかお気になさらず。これも任務ですから」
なかなか会話がかみ合わない。しかしラディムの方はそんなことも気にかけず、じっとカレルの方を見つめていた。
「......お茶でもお入れしましょうか。そばに適当な川もないゆえ、あまり水の質はよくないですが」
うなずく、ラディム。
「少し、クバーセク副使殿と話したいこともあるし。いやどちらかといえば私が話をしたいのは――きみ、カレル」
カレルの手が止まる。突然の自分を呼ぶ名前を耳を疑う。さらに信じられない言葉があとを続いた。
「おねえさまのことについて、お話をしたいな、と」
それは、長い夜の始まりを予感するように――
その前に仁王立ちして、詠唱をカレルは行っていた。
後ろにラディムを隠れさせ、それをまるで覆い隠すように。
何本かの矢が、カレルの上半身をそして顔をかすめる。しかし、目を閉じたままカレルはピクリともしない。
そして――『魔弾』から放たれいた魔法の光の煙が消えた瞬間、ラディムは身をひるがえす。背に背負っていた二挺の銃を引き抜き回転する動きで『魔弾』を装填し、放つ。
一発、そして一発。
森に吸い込まれるように消えた『魔弾』。その次の瞬間、カレルは銃を放り捨て、ラディムの上に覆いかぶさった。
激しい光の球が二つ森の中に現れる。そして、少し間をおいて激しい衝撃が二人を襲う。葉や草や木の混じった嵐が二人の上を通り過ぎていく。
「ご無事ですか」
無機質なカレルの声で、ラディムは目を覚ます。どうやら気絶していたらしい。
立ち上がり、体の埃を払うカレル。ラディムが無言で頷くと、そっと右手を差し出し立ち上がるのを手伝おうとした。
右のほほに伸びる血の跡。それに気づいたラディムは腰のマントでそれをそっとふき取る。カレルはそんなラディムを不思議そうに眺めていた――
夜の帷幕。体の傷をカレルは手当てしていた。顔だけではなく、体のあちこちに傷があった。矢に毒が付されていなかったことは幸いである。最も、その程度の毒なら魔法術でなんともできる範囲であろうが。
上半身に包帯を巻き終えた、その瞬間に気配を感じ小銃を手にとっさにカレルは振り返る。
帷幕の入り口、そこには――鎧を外したラディムがたたずんでいた。
目を閉じ、そっと小銃をかたわらの簡易机の上にカレルは置く。
「入ってもよろしいかな」
無言でうなずくカレル。すっと帷幕の中に入ったラディムは、小さな椅子の上に腰を下ろす。
「いかがなされましたか、公太子殿下」
なるべく無感情を装ってカレルがそう答える。慇懃に感じられないような限界の配慮をしつつ。
「今日は申し訳なかった」
「それほどのことでも」
「そのように......全身に傷を負わせてしまい......」
「これは、わが身の未熟さゆえの手傷。どうかお気になさらず。これも任務ですから」
なかなか会話がかみ合わない。しかしラディムの方はそんなことも気にかけず、じっとカレルの方を見つめていた。
「......お茶でもお入れしましょうか。そばに適当な川もないゆえ、あまり水の質はよくないですが」
うなずく、ラディム。
「少し、クバーセク副使殿と話したいこともあるし。いやどちらかといえば私が話をしたいのは――きみ、カレル」
カレルの手が止まる。突然の自分を呼ぶ名前を耳を疑う。さらに信じられない言葉があとを続いた。
「おねえさまのことについて、お話をしたいな、と」
それは、長い夜の始まりを予感するように――
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説


どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる