銀髪のカイゼリン~オストリーバ帝国物語

八島唯

文字の大きさ
上 下
12 / 35
第2章 クリューガー公国との戦い

ラディムとの関係

しおりを挟む
「これは一年は戦えそうなくらいの、ストックですな」
 小さな体を、羊皮紙の書類の山に埋まらせてそうイェルドはつぶやく。
「食料、武器、そのほか......最近実用化されたばかりの新型火薬もあります。クリューガー公はよっぽどお金持ちと見える。それとも、ただ単に放置していたのか。いずれにせよ、我々にとってはラッキーなことです」
 短時間のうちに分析を済ませてしまうイェルドをじっと、ハルトウィンは見つめる。
 先ほど大広間で『宮中クーデタ』ともいえる出来事を済ませていたのと同じく、城外でも戦闘が繰り広げられていた。その指揮をしていたのがこのイェルドである。切り札である『魔弾』を一切使用せず、そして全く被害もなく敵を鎮圧したその手並み。
 信用して軍の指揮を任せたハルトウィンであったが、ここまでの実力とは正直思っていなかった。
 正直、自分になぜ肩入れしてくれるのかが疑問なところもあったが、信用しても問題なさそうだなとハルトウィンは結論付けていた。
 資料室がノックされる。年老いた男性が、茶を運んでくれたようだ。
「これは、レムケ卿。わざわざ申し訳ない」
「いえいえ、このようなことの方がおいぼれには似合っていますので。何か気になる部分はないですかな?」
 レムケ卿。初老の騎士である。騎士とはいっても、この都市で若いころから参事官的な仕事をしてきたらしい。性格も穏やかで、かねてからラディム公太子と父であるアロイジウス公爵、そしてお目付け役であるフンメル準男爵のとの関係を心配していたらしい。立場としては当然公太子派で、今回のクーデタ後も一番ハルトウィンらに協力的であった。
「信用してよろしいかと思います。それ以外の兵士たちも、ほぼ公太子側に忠誠を誓うことを確約しました。この都市の一千近くの兵と、数十人の騎士は間違いなく動くでしょう。公太子ラディム=フォン=クリューガーのためならば」
 イェルドの言。それをかみしめながら、ハルトウィンはラディムの部屋へと向かう。
 ノックをして名を名乗るハルトウィン。扉に手をかけた段階でラディムが飛びだしてくる。
「辺境伯様......」
 すがるようなラディムの視線。まだ少年問うこともあり、ハルトウィンの方が一まわり大きい。
『いいですか。絶対公太子の歓心と好意を失わないように。我々の唯一の権力基盤ですからね。まあ、公太子のほうがハルトウィン様をはなしてくれなさそうですが。変な意味ではなく――そう『親代わり』みたいな感じなのでしょうな』
 うんざりするようなイェルドの助言。
 手を引くようにハルトウィンを部屋に引き入れるラディム。
(むしろ男女の間の感情だったら、むしろ楽だったかもな......)
 ラディムがハルトウィンに向けているその感情。それは明らかに『親愛』の感情に思われた。
 生徒が教師に、子供が親に向けるようなその感情。
 多分ラディム自身も初めてなのかもしれない。親からは対して相手にされず、また公太子という立場上、誰にも甘えることのできない日々。
「辺境伯様、この間は命を助けていただきありがとうございました!」
 会うたびに出るその謝辞。今のところ多分それだけが、話題のすべてなのかもしれない。
「ハルトウィンでよろしい。皇太子殿下」
 長い銀の髪をかき分け、そうつぶやく。
「では私もラディムと呼んでいただけないでしょうか」
「爵位が上の方をそのように」
 首を振るラディム。
「私はハルトウィン様に恩のある身。ましてやハルトウィン様は年長であるのですから、ぜひ」
 有無を言わさぬラディムの言葉に、押し切られるハルトウィン。
「では、ラディム......殿......でよろしいか」
 満面の笑みでうなずくラディム。
 ハルトウィンの頭の中にイェルドの意地の悪そうな笑みが浮かぶ。あわせてカレルの不機嫌そうな顔も――

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

処理中です...