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プロローグ

『魔法』と『科学』の世界

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 人間は動物とは異なる。
 狼の牙もなければ、馬の足もない。
 生身では野生の動物にどうしても勝てない存在。それが人間である。
 そして人間は道具を作った。最初は簡単な石器であったが、それが進歩しいわゆる『道具』が出そろうこととなる。
 しかし、所詮は道具。どんな達人でも刀で石を切ることはできず、またどんな力持ちでも船を持ち上げることはできなかった。
 そこで登場したのが『魔法』である。
 『魔法』はすべての物理的作用を精神的な作用により支配する技術であった。
 最初は人力にも劣る威力しか持たなかった『魔法』は、先人の努力と偶然の発見によりどんどん進歩していく。
 この時代、『魔法』は万能とも言える力であった。
 それは個人の力量に左右され、生まれつき魔法力の強いものは魔法使いとして重用されることとなる。
 それは戦争をより悲惨なものとし、また『魔法』に対抗するための『反魔法』の技術も進歩したことによって戦乱は長く続いた。
 しかし、『魔法』も『反魔法』も通用しない新たな技術が発見される。
 ゼーバルド辺境伯の書物倉に眠っていた、数冊の本。
 それには『魔法』とは異なり、物理的な原理をもって物理的な作用を行う秘術がのっていた。
 すなわち、それを『科学』という。
 数千年の沈黙を経て、ぜーバルド辺境伯ハルトウィンはその力で、混乱する帝国を治めようとする。
 これはその物語である。
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