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第2章 絹の十字路

嵐、来る

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 王宮の一室のベッドの上に見を横たえるロシャナク。
 それを心配そうに見つめるシェラン。そして腕を組むファルシード――
「トゥルタン部か......」
 ファルシードは何度もその名前をくりかえす。
 体中に傷を負いながらも、一騎ラクダにまたがり帰還をロシャナクは果たした。
『国王陛下に......ファルシードに......!』
 刃のこぼれた剣を支えにしながら、謁見するロシャナク。
『トゥルタン部の軍勢が王都の西に集結。その数、数千。ガジミエシュなるものが『ハン』位を名乗り、その頭目にあり。至急対応を――』
 そこまで言うと、ロシャナクは倒れ込む。すぐに医者が駆けつけ、手当にあたる。
 シェランがはらはらしながら、ロシャナクの手を握る。反応はない。かなりの大怪我のようであった。
 一方ファルシードは家臣の前でただ、考え込んでいた。
「トゥルタン部では先年、内部抗争があったようです」
 大臣の一人がそう申し出る。
 タルフィン王国は交易で成り立つ国である。交易路周辺の情報は商人たちによって、ふんだんにもたらされるものであった。
 しかし、遊牧民族トゥルタン部の情報は少ない。
「われわれが支配するのが『絹の道』。それに対して彼らは『草原の道』を支配しております。遥か離れた地域ゆえ、情報も少なく」
 『草原の道』。それは大鳳皇国とオウリパをつなぐもう一つの道である。どこまでも低い草原が続き、遊牧民族が住んでいる。タルフィンのようなオアシス都市は存在せず、だだっ広い草原が地平線まで延々と続く。
「当然、商業も行われておりません。彼らはその広い草原を移動しながら遊牧生活を送る民。歴史上一度たりとも、この『絹の道』にその軍勢を送ったという記録は――」
「しかし、彼らはやってきた」
 大臣の言葉を区切るファルシード。大臣は言葉に詰まる。そう、目の前のロシャナクがその証拠である。彼らは明らかに敵意を持って、この王国に侵攻しているのだ。
「まずは、使節をもうけるべきでありましょう。その上で、交渉を――」
「無駄なことだ」
 小さく震えるベッドの上のロシャナクを見つめながら、家臣の策にファルシードはそう答える。
「彼らに話し合う気持ちはない。親衛隊長の部隊は全滅させられた。遊牧民族というのはそういうものだ。財産はつくるものではない、うばうものなのだから」
 ファルシードの言葉に家臣一同が凍りつく。
 シェランも思わずつばを飲む。
 幼いとはいえ、さすがの国王である。これで方針は決した。
「戦の準備を。私自ら軍を編成する。王都の門を閉める。以降、一切外部との交渉を禁ずる。至急手配せよ!」
 ファルシードの号令に家臣一同はっ、と承る。
 王の間に将軍たちが呼ばれる。意識のないロシャナクの側で軍事会議が開催される。
 タルフィンの動員できる兵は千にも満たない。
 その少ない兵力をどのように配置し、トゥルタン部の騎馬軍勢を迎え撃つか。
 がやがやとした喧騒があたりを包み込む。
 そんな中、シェランのほうを振り向くファルシード。
「王妃――」
 シェランはじっとファルシードを見つめる。
「このような状態だ。王宮の女官たちをお願いする。くれぐれも動揺のないように――」
 静かにうなずくシェラン。
 このタルフィンに嫁入りして、初めての試練が訪れようとしているようだった。

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