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第2章 絹の十字路

オアシスの狼

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 数日後の朝。王宮より使節が出発する。
 こざっぱりとした旅用の官服にそでを通し、ラクダにまたがるカルロ。
 オウリパ風のその出で立ちは、まるで将軍のように堂々たるものであった。
 それを見送るロシャナクとシェラン。国王の代理として二人が見送る事となったのだ。
「......」
 あたりを見回すシェラン。ルドヴィカの姿はない。
『まあ、気になるけどな。未練がましいのもあれだし』
 ぎゅっと指に力を入れるシェラン。
 数名からなる使節は王宮用の通路を通り、街の外へと消えていく。
 その先には道がひらけ、そしてそれはオウリパへと至る。
 一年以上の長い旅路となろう。
 砂漠を越え、山脈を越えそして大河を越えて――


 日常が始まる。
 ルドヴィカは王宮に果物や香辛料を収めに毎日やってくる。王宮の女官たちにも評判が良い。なにしろ、ルドヴィカはこの国にはないような珍しい化粧品を試しに置いていくのだ。
「商売上手だねぇ......」
 そういいながら、タルフィン語で書をしたためるシェラン。練習の成果もあり、かなりうまくなってきた。
 正直、踊りや化粧などの練習をするよりははるかに気が楽である。
 王宮の者たちともかなりなじんできたし、居場所がだんだんとできてくる気がした。
 国王ファルシードとの関係以外は。
「夫婦だから仲良くしなきゃいけないんだけど」
 どうも、ファルシードの反応が良くない。
 はあ、とため息をつくシェラン。
 自分に魅力がないのはしょうがないけど、などと愚痴をもらしつつ。
 そんな平和な王宮を揺るがす事件が起こる。
 ロシャナクが満身創痍の手負いとなって担ぎ込まれたのだった――


 数日前。カルロが旅立った一週間後、ロシャナクは兵を連れて、都の郊外に出ていた。
 偵察である。
 国、とはいってもタルフィン王国は都市国家。
 都市の外はタルフィンの力が及ばない真空地域と言っても過言ではない。
 野盗がでる。
 行き倒れがでる。
 獣が暴れる。
 いろいろなアクシデントが待ち構えていた。
 定期的な哨戒をすることにより、交易国家タルフィン王国の大動脈である街道を維持することができたのである。
 この時、ロシャナクは手練れの十騎ほどのラクダの兵士を伴っていた。
 女性とはいえ、ロシャナクは武芸には覚えがある。通常の相手であれば、決して遅れを取ることはあり得なかった。
 しかし――それは突然のことであった。
 砂煙が舞い、視界を覆う。
 隊列を止めるロシャナク。砂が目に入らないように、手で覆う。
 油断はしていなかった。
 しかし、次の瞬間に衝撃が走る。
 兵士の悲鳴。
「......!」
 とっさに剣をなぎはらい、手応えを覚える。
 また兵士の悲鳴。そして剣の交わる音。
 乗っていたラクダが跳ねる。どうやら矢を食らったらしい。
 地面に降りて、剣を構えるロシャナク。
 ようやく砂煙が消え始めた時、眼の前に見えるのは自分たちを取り囲む騎馬の軍団であった。
 数十機はいようか。みな、武装し手には見たことのない弓を構えている。
 一方味方は半分ほどやられたらしい。
 ロシャナクを守るように、兵士は剣を構える。
「名のある、兵であろう。名乗れ」
 重々しい声。敵の頭目らしい。
「タルフィン王国近衛隊長にして国王が一族。ロシャナク=クテシファンである」
 剣を目先に構えながらそう名乗る。
 馬の上でうなずく青年。どうやら彼がリーダーらしい。
「われはトゥルタン部が部族長にして、先日遊牧民族の王である『ハン』の位に即位したものである。名はガジミエシュ=トゥルタン=ハン。汝の国を――貰いに来た」
 ロシャナクはただ、馬上の男をにらみつける。軽装の鎧ではあるが、手の込んだものである。若くはあるが、なんとなく気品を感じる。それは狼のような鋭い、そして激しい感情をうちに秘めて。
 蘇る記憶。
 かつてシェランたちを襲った騎馬はトゥルタン部の兵士であった。
 とはいえ、まさか王自ら軍を率いてこのタルフィンの地に攻め込むなどとは予想もしていなかったロシャナクである。
(甘かったな......)
 自らを悔いるロシャナク。せめて、このことをファルシードに伝えなければ――
 最後の力を込めて剣を構えるロシャナク。まだ走れるラクダを横目に見ながら。
「戦う気があるのであれば、かかってくるが良い。オアシスの民の腕のほど、拝見しようではないか」
 トゥルタン部の若き王はそういいながら、弓矢を構える。
 長い髪が風に揺れる。そしてその弓はその髪にしたがうように長く、しなり、そして――
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