24 / 32
第2章 絹の十字路
ルドヴィカの気持ち
しおりを挟む
ルドヴィカの家。ファルシードにたしなめながらも、たびたびシェランはここを訪れていた。
(......王宮はなんか居づらくて......わがままかも知れないけど)
王妃、といっても飾りのようなものだ。この間の結婚式で少し有名にはなったけれど、街の中で直接シェランの顔を知っている人はそういない。
むかしから、街がシェランにとっての居場所だった。
ルドヴィカのそばで荷物を整理しているカルロの姿。ファルシードからの手配で再びオウリパまでの使節を整えることができたのだった。その様子をじーっと見つめるシェラン。数か月前まではこの人と同じ国に住んでいたんだという感慨。
「どうしました?」
その視線には反応するカルロ。ヒゲもそり、涼し気な表情で。
「......い、いえ。私も大鳳皇国に住んでいたので。なんか、なつかしいなぁと...」
くすっと笑うカルロ。青い目が輝く。
「王妃殿下におかれては、王宮のさぞかし奥にお住まいでありましょう。私は王宮に出入りしていたとはいえ、外国人。普段は街に住んでいました」
「私もだよ」
不思議そうな顔をするカルロ。ルドヴィカが説明する。
「シェラン――いや王妃殿下は街なかに家を持っておられたんだ。皇族の中にはそういう人もいるってことさ」
カルロがなにかわかったようなわからないような、微妙な顔をする。
「大鳳皇国のことをなにか教えてくれませんか?なんでもいいです」
シェランが身を乗り出して問う。考えてみるとこのタルフィン王国ではじめて大鳳皇国の話題をできた人間かもしれない。シェランの興味はましていく。
「そうですね――なんといっても皇帝陛下に謁見できたことが一番すごい出来事でした。王妃殿下は普段からお会いしてご存知のことでしょうが」
(それがびっくり、あったことないんだよねぇ......親戚、なんだろうけど)
シェランが少し曇った顔をする。
「龍権帝陛下はすごいお方でした。まだお若いのに、その目はわたしなどより遥か遠く彼方を見つめておられるようでした。何度も王宮に呼ばれました。オウリパのこともよく聞かれました。どのような生活をしているのか、国を治めている王はどういう人なのか、税金は重いのか......など。とにかく色々なことを聞かれました。さらにはオウリパの言葉まで覚えられる始末。間違いなく名君として歴史に名を残すお方でしょうな」
シェランは少し誇らしい気になる。自国の皇帝が褒められれば、それはうれしいものだ。見たことはないとはいえ、親戚ではあるのだし。極めて遠い親戚だが。
「......すぐに旅立つのか?」
ルドヴィカがそう問う。聞かれたカルロは少し沈黙した後静かにうなづいた。
「一刻でも早く、皇帝陛下のご意思を母国の国王に伝えたい。大事な勅書は奪われてしまったが、タルフィン国王がエリアニアン国王に向けて勅書をしたしめてくれた。それを差し出せば大体の仔細は通じるだろう。そうすれば、わが故郷と大鳳皇国は同盟関係を結ぶことができる」
「どんな国なの?――いや、わたしのそのあたりの出身のようなんだけどよくわかんなくて。子供の時エリアニアンをでてからずっと、タルフィンにいるから」
「美しい国さ」
ルドヴィカの質問に遠い目をしながらカルロは答える。
「大地に草が生い茂り、川はただ静かに悠々と流れる。春には花々が咲きほこり、秋には果実が我々の喉の乾きをいやす。かつて、大帝国が存在したわが故郷――エリアニアン」
そこで言葉をカルロは切る。
「しかし――人々の生活は豊かにならない。色々な勢力が入り乱れ、強盗や放火などが日常茶飯事なのです。外敵をしりぞけ、国内をもっと統一することができれば――そのためにも」
ぐっと、拳に力を入れるカルロ。その指には皇帝から下賜された指輪が光っていた。
「......そうなんだ。早く故郷が平和になるといいね」
そういったきり、口を閉じるルドヴィカ。
カルロもまた――
夜の王宮。王妃の部屋にルドヴィカはいた。当然シェランも。
公的には王妃と出入りの商人であるが、実際には友人の関係である。
すこし、シェランのほうが年上ではあるがルドヴィカが大人びているために同級生のような感じであった。
(同年の友達とかいたら、こんな感じなのかな)
シェランはルドヴィカの存在がなによりありがたく感じていた。
知り合いもいないこの国で、数少ない頼れる存在。実際、色々お世話になったのも事実である。
(すこしは、恩返しないとな)
王妃の部屋に招待し、二人で夜を過ごすことにした。
こっそり集めたお菓子もある。小さなランプに火をともし、二人で夜を明かすつもりであった。
そして、目的はもう一つ。
浮かない顔をしているルドヴィカに対して、確かめることがあった。
「ええと、ルドヴィカちゃん――カルロさんのこと――どう思っているの?」
いきなりシェランは核心をついた――
(......王宮はなんか居づらくて......わがままかも知れないけど)
王妃、といっても飾りのようなものだ。この間の結婚式で少し有名にはなったけれど、街の中で直接シェランの顔を知っている人はそういない。
むかしから、街がシェランにとっての居場所だった。
ルドヴィカのそばで荷物を整理しているカルロの姿。ファルシードからの手配で再びオウリパまでの使節を整えることができたのだった。その様子をじーっと見つめるシェラン。数か月前まではこの人と同じ国に住んでいたんだという感慨。
「どうしました?」
その視線には反応するカルロ。ヒゲもそり、涼し気な表情で。
「......い、いえ。私も大鳳皇国に住んでいたので。なんか、なつかしいなぁと...」
くすっと笑うカルロ。青い目が輝く。
「王妃殿下におかれては、王宮のさぞかし奥にお住まいでありましょう。私は王宮に出入りしていたとはいえ、外国人。普段は街に住んでいました」
「私もだよ」
不思議そうな顔をするカルロ。ルドヴィカが説明する。
「シェラン――いや王妃殿下は街なかに家を持っておられたんだ。皇族の中にはそういう人もいるってことさ」
カルロがなにかわかったようなわからないような、微妙な顔をする。
「大鳳皇国のことをなにか教えてくれませんか?なんでもいいです」
シェランが身を乗り出して問う。考えてみるとこのタルフィン王国ではじめて大鳳皇国の話題をできた人間かもしれない。シェランの興味はましていく。
「そうですね――なんといっても皇帝陛下に謁見できたことが一番すごい出来事でした。王妃殿下は普段からお会いしてご存知のことでしょうが」
(それがびっくり、あったことないんだよねぇ......親戚、なんだろうけど)
シェランが少し曇った顔をする。
「龍権帝陛下はすごいお方でした。まだお若いのに、その目はわたしなどより遥か遠く彼方を見つめておられるようでした。何度も王宮に呼ばれました。オウリパのこともよく聞かれました。どのような生活をしているのか、国を治めている王はどういう人なのか、税金は重いのか......など。とにかく色々なことを聞かれました。さらにはオウリパの言葉まで覚えられる始末。間違いなく名君として歴史に名を残すお方でしょうな」
シェランは少し誇らしい気になる。自国の皇帝が褒められれば、それはうれしいものだ。見たことはないとはいえ、親戚ではあるのだし。極めて遠い親戚だが。
「......すぐに旅立つのか?」
ルドヴィカがそう問う。聞かれたカルロは少し沈黙した後静かにうなづいた。
「一刻でも早く、皇帝陛下のご意思を母国の国王に伝えたい。大事な勅書は奪われてしまったが、タルフィン国王がエリアニアン国王に向けて勅書をしたしめてくれた。それを差し出せば大体の仔細は通じるだろう。そうすれば、わが故郷と大鳳皇国は同盟関係を結ぶことができる」
「どんな国なの?――いや、わたしのそのあたりの出身のようなんだけどよくわかんなくて。子供の時エリアニアンをでてからずっと、タルフィンにいるから」
「美しい国さ」
ルドヴィカの質問に遠い目をしながらカルロは答える。
「大地に草が生い茂り、川はただ静かに悠々と流れる。春には花々が咲きほこり、秋には果実が我々の喉の乾きをいやす。かつて、大帝国が存在したわが故郷――エリアニアン」
そこで言葉をカルロは切る。
「しかし――人々の生活は豊かにならない。色々な勢力が入り乱れ、強盗や放火などが日常茶飯事なのです。外敵をしりぞけ、国内をもっと統一することができれば――そのためにも」
ぐっと、拳に力を入れるカルロ。その指には皇帝から下賜された指輪が光っていた。
「......そうなんだ。早く故郷が平和になるといいね」
そういったきり、口を閉じるルドヴィカ。
カルロもまた――
夜の王宮。王妃の部屋にルドヴィカはいた。当然シェランも。
公的には王妃と出入りの商人であるが、実際には友人の関係である。
すこし、シェランのほうが年上ではあるがルドヴィカが大人びているために同級生のような感じであった。
(同年の友達とかいたら、こんな感じなのかな)
シェランはルドヴィカの存在がなによりありがたく感じていた。
知り合いもいないこの国で、数少ない頼れる存在。実際、色々お世話になったのも事実である。
(すこしは、恩返しないとな)
王妃の部屋に招待し、二人で夜を過ごすことにした。
こっそり集めたお菓子もある。小さなランプに火をともし、二人で夜を明かすつもりであった。
そして、目的はもう一つ。
浮かない顔をしているルドヴィカに対して、確かめることがあった。
「ええと、ルドヴィカちゃん――カルロさんのこと――どう思っているの?」
いきなりシェランは核心をついた――
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜
菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。
まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。
なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに!
この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。
皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる
えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。
一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。
しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。
皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
後宮物語〜身代わり宮女は皇帝に溺愛されます⁉︎〜
菰野るり
キャラ文芸
寵愛なんていりません!身代わり宮女は3食昼寝付きで勉強がしたい。
私は北峰で商家を営む白(パイ)家の長女雲泪(ユンルイ)
白(パイ)家第一夫人だった母は私が小さい頃に亡くなり、家では第二夫人の娘である璃華(リーファ)だけが可愛がられている。
妹の後宮入りの用意する為に、両親は金持ちの薬屋へ第五夫人の縁談を準備した。爺さんに嫁ぐ為に生まれてきたんじゃない!逃げ出そうとする私が出会ったのは、後宮入りする予定の御令嬢が逃亡してしまい責任をとって首を吊る直前の宦官だった。
利害が一致したので、わたくし銀蓮(インリェン)として後宮入りをいたします。
雲泪(ユンレイ)の物語は完結しました。続きのお話は、堯舜(ヤオシュン)の物語として別に連載を始めます。近日中に始めますので、是非、お気に入りに登録いただき読みにきてください。お願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる