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第1章 タルフィン王国への降嫁

三つめの『つとめ』

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 ロシャナクの目の前には二つのグラスが並べられる。
 一つには青い液体が、もう一つには白い液体が注がれていた。
 それをそっと一つに合わせる。
 不思議なことに、色は消え透明な液体が生成された。
 それをぐっと飲み干すロシャナク。
「......いい味だ」
 いつも飲んでいる水の味。オアシス民にとって、何より貴重なものそれは水である。
 そして水にも味がある。
 この水こそが毎日喉を潤してくれる、オアシスの水であった。
 難しそうな顔をしてそれを玉座から見つめるファルシード。
「どうしたのですか、陛下。シェラン殿下は二つ目の『王妃のつとめ』を見事果たしたというのに。なにか考え事でも」
 この国の王妃になるためのミッション、『類まれなる宝石。オアシスの女神。それを捧げよ』のつとめをシェランは見事果たしたのだった。
『『オアシスの女神』は珍しい宝石ではありません。それより遥かに価値のある宝――それは『水』です。ほとんど地下水がないこのオアシス都市を潤してくれるのは、たった一つの水源。それが殿下が見つけた水源です』
 シェランから預かった革袋を手にロシャナクはそう説明する。
『この革袋に満たされた青い水と白い水――青い水は一切の混じり気のない純粋な水、一方白い水は様々な栄養が含まれた水。それらがちょうどいい塩梅で混合することにより我々の飲水や農業に使う水も作ってくれるのです。この国の開祖初代クテシファン王は地下坑道を掘り、その水を水源からこの都市まで届けることに成功しました』
 シェランを前に、そうロシャナクは続ける。
『この『王妃のつとめ』の目的は、我がタルフィン王国にとって必要なものを実感してもらうことでもありました。一つ目は交易品もう一つは水。その二つがなければ、この国はあっという間に砂漠の中に消えてしまうでしょうから』
 うなずきながらロシャナクの言葉をきくシェラン。
『それでは最後の『王妃のつとめ』をこれから伝えます』
 そしてまた、つとめを果たすためにシェランは王宮を出ていく。
「二つの『つとめ』を果たしたとういのに、なにか納得いっていないご様子ですね」
 ロシャナクの鋭い指摘に、ファルシードは、はっとする。
「――二つ目の『つとめ』のとき、陛下はシェラン殿下のお身を守られましたね」
 静かにうなずくファルシード。
「別に手助けするのは悪いことではありません。判定役の私としても、そのくらいは当然だと思いますよ」
「その時に、遊牧民族たちが彼女らを襲った。街のすぐ外だというのに」
「――!」
 今度はロシャナクの顔色が変わる。街の防衛に関しては彼女が責任者である。
「鎧から部族がしれた。はるか北の民『トゥルタン部』のものらしい」
「おかしいですね」
 ロシャナクは顎に手をやり考え込む。
「ここ最近、外敵がしかも遊牧民族が国境を超えてやってくるなんて報告は受けていません。ましてや『トゥルタン部』といえば北方の草原に住む遊牧民族。それが家畜も釣れずにこのあたりをウロウロしていたというのは――きな臭い話です」
「噂がある」
 ファルシードは続ける。
「トゥルタン部で部族の王が新たに選ばれたという噂だ。何かごたごたもあったらしい」
 ロシャナクは嫌そうな顔をして立ち上がる。
「あの連中は好戦的で困ったものですね。わかりました、より仔細を調べてみます。ああ――」
 帰りざまにふりかえりながら、ロシャナクは玉座のファルシードに告げる。
「三つ目の『王妃のつとめ』ですが、今回は手助け無しでお願いします。街の中でこなせる『つとめ』ですので、危険はないかと。何より、陛下がそれを知ってしまうと『面白く』なくなってしまいますので」
 少し笑みをロシャナクはもらす。
 ファルシードはまた難しい顔をして書類に目を通し始めたのだった。


「『王妃のつとめ』最後、それは......」
 シェランが紙に書いたミッションを読み上げる。それをつばを飲みながら、聞き入るルドヴィカ。
「『国王との結婚式。国民に喜びを与えよ。国民の笑顔こそが王妃のなによりの奉仕なり』......」
「なんか、一番難しそうなのが来たねぇ」
 ルドヴィカが手を後ろで組みながらそうつぶやく。
「喜びって......お金とか?」
「まあ、貰えば嬉しいけど持ってるんかい?」
 ルドヴィカの質問に首をふるシェラン。
「じゃあ......無理だな。そうだ!お姫様なら踊りとかなんか、こう下々の者にはできないような稽古してるだろ。そういうので......」
「そういうのお金かかるから、したことないんだよ......」
 二人の間を風が吹き抜ける。
 最後にして最大の試練がシェランの肩にのしかかるのであった――
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