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第4章 会議は踊る

十字軍、来たれり

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 目の前に広がる草原。南宮山を南に望み東には規則正しく配置された無数の陣が連なる。それは西軍本隊——三万にも及ぶ大部隊が展開していた。
 その圧迫感たるや——尋常なものではない。その圧を受けるのがその正面に対峙する西軍本隊、一万。石田隊は墨子隊の壊滅によりほぼ消滅し、その大部分が小西、宇喜多の手勢である。命令は出せるが、奈穂が『補正』をかけることができない部隊である。
 一方、南宮山の麓、東軍の南側にも西軍の別働隊が控えていた。毛利秀元の別働隊、これも一万である。日和見な態度は捨てたとはいえ、吉川と安国寺の両将を失いあまり期待は持てない戦力である。実際、東軍の側面に食らいついてはいるが、そこを死守している井伊直政勢に何度も押し返されていた。
 それを、遠目に馬上より見渡す武者——石田治部少輔三成——宍戸奈穂——である。彼女の背後には千足らずの騎馬隊を中心とした部隊が控える。
 一方、本隊の安全圏に控え、床几の上に足を組んで虚空を睨みつけているのが——徳川内府家康——こと梁川宗世その人である。兜を脱ぎ、その長い黒髪が風になびく。
「……見損なったかな、一年生」
 物見の報告を受ける宗世。奈穂が行おうとしているのは、策もなにもない特攻。それ以外には考えられない。一縷の勝利ののぞみもない自己陶酔でこの戦いが終わるというのは、ちょっと期待はずれだな、と宗世は思う。
 すっと立ちあがり、空中のコンソールを操作する宗世。念の為に後方から、前衛に兵を移動させ前陣の厚みを図る。本陣もやや後方にそして、毛利勢に対応しやすいように南宮山側に布陣を開始する。
 あとは知恵の自殺にも等しい突撃を待つばかりである。日はすでに傾き始めている。風が強まってきた。風の音が静けさを更に強く感じさせた。
 その静寂が破られたのは——東軍東側面、つまり後詰めの陣最後尾である。
 遥か東の彼方から上がる土煙。その合間に光る火花。東軍最後尾の備えの兵士がバタバタと倒れる。煙は晴れ、その旗印が現れる。『丸に十字』の旗印。知らないものはいない。朝鮮出兵では彼の国の人にその激しさから『鬼石曼子』と称された軍隊——島津勢三千もの兵である。
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