47 / 70
第4章 会議は踊る
戦場竈のアイアンメイデン
しおりを挟む
特別クラス『巨人連隊』の日々が始まる。
以前のクラスよりも、授業内容はさらに専門的に高度な内容が課せられていった。
難なくこなす、桃、墨子、知恵。さらにグロッキーになる奈穂。弾道計算学では微分積分を学ぶことができてちょっと奈穂的にはご褒美であったが。——『シュリーフェンプランに見るドイツ参謀本部の構造的欠陥』『国家総動員法から読み取れる日本型国家社会主義の限界と独自性』などなど……徹夜の日々を重ねる奈穂。したくもない歴史の勉強であったが、これも転学のためと割り切って、どんどんこなしていく毎日。
「『宍戸さん』……わたしそういうのいやだな」
机の上に、ずらっと並ぶレシート。それを、計算しつつノートに張っていく奈穂。あまりの忙しさに、校内の購買部で食事を買うことが増えた奈穂であった。そのレシートの整理である。
(この人は……!)
知恵はいつもこうだった。奈穂がちょっと『日常的』なことをすると、呼び方を変える。買い物の時にポイントを使う。マイバックを持っていく。そういったことにいちいち反応するのだ。
「そういうの、『英雄』っぽくないから」
普段はナポちゃん、とか言ってなつく癖に、ちょっとでも地に足の着いたようなことをするとツンと反抗的になる。
「『英雄』なんだから、もっとデカダンな生活でもいいんだよ。朝から酒飲んだりとか」
それは犯罪だろ、と奈穂は強く否定する。そんな様子をみて桃がくすっと笑う。
四人だけのクラス。正直高校生らしくない感じもするが、奈穂的にはほっとしていた。桃が一人の状態から解放されたことが何より——
『今日の授業は、戦闘糧食史概論となります』
担当者は授業AI。指定された授業場所は調理室である。さすがは聖リュケイオン学園。調理室も尋常ではない。
和洋中を問わない調理設備。ちょっとしたホテルの調理室の雰囲気すらある。何より『屠殺場』と書かれた一室——それには奈穂はあえて視線を避けた。
「じゃあ、実際に戦闘糧食を作ってみろってことだな!」
墨子が黄色いエプロンを着て、腕をまくる。他の三人もそれぞれもエプロンをつけて。
(こういうのだよ……こういうの……!)
久しぶりに、高校生的な展開に心躍る奈穂。なぜか知恵は不満そうな顔をして、桃は何かおどおどして。
『それでは、これから皆さんに戦闘糧食の作成を、実践してもらいます』
授業AIがそう告げる。
『墨子さん、戦闘糧食の定義及び目的について、答えてください。これは評価B—19に含まれます』
ちょっとの間をおいて答える墨子。
「戦闘は、結局生産を伴わない経済活動だな。衣食住のリソースが普段よりも早く大量にに消耗する。特に、食は戦闘に一番必要不可欠なリソースだ。いかに効率よく、食を満たすかが戦闘では必要となってくる。それが——戦闘糧食という発想だ。如何に調理しやすく、携帯しやすく、栄養に満ちて、なにより食欲を十分に満たせる食事を提供できるかを——それが戦争の直接の勝因になることは疑いないな!」
今始まる。聖リュケイオン女学園のキッチンスタジアム。
『いでよ!戦闘糧食のアイアンメイデンたちよ!——』
以前のクラスよりも、授業内容はさらに専門的に高度な内容が課せられていった。
難なくこなす、桃、墨子、知恵。さらにグロッキーになる奈穂。弾道計算学では微分積分を学ぶことができてちょっと奈穂的にはご褒美であったが。——『シュリーフェンプランに見るドイツ参謀本部の構造的欠陥』『国家総動員法から読み取れる日本型国家社会主義の限界と独自性』などなど……徹夜の日々を重ねる奈穂。したくもない歴史の勉強であったが、これも転学のためと割り切って、どんどんこなしていく毎日。
「『宍戸さん』……わたしそういうのいやだな」
机の上に、ずらっと並ぶレシート。それを、計算しつつノートに張っていく奈穂。あまりの忙しさに、校内の購買部で食事を買うことが増えた奈穂であった。そのレシートの整理である。
(この人は……!)
知恵はいつもこうだった。奈穂がちょっと『日常的』なことをすると、呼び方を変える。買い物の時にポイントを使う。マイバックを持っていく。そういったことにいちいち反応するのだ。
「そういうの、『英雄』っぽくないから」
普段はナポちゃん、とか言ってなつく癖に、ちょっとでも地に足の着いたようなことをするとツンと反抗的になる。
「『英雄』なんだから、もっとデカダンな生活でもいいんだよ。朝から酒飲んだりとか」
それは犯罪だろ、と奈穂は強く否定する。そんな様子をみて桃がくすっと笑う。
四人だけのクラス。正直高校生らしくない感じもするが、奈穂的にはほっとしていた。桃が一人の状態から解放されたことが何より——
『今日の授業は、戦闘糧食史概論となります』
担当者は授業AI。指定された授業場所は調理室である。さすがは聖リュケイオン学園。調理室も尋常ではない。
和洋中を問わない調理設備。ちょっとしたホテルの調理室の雰囲気すらある。何より『屠殺場』と書かれた一室——それには奈穂はあえて視線を避けた。
「じゃあ、実際に戦闘糧食を作ってみろってことだな!」
墨子が黄色いエプロンを着て、腕をまくる。他の三人もそれぞれもエプロンをつけて。
(こういうのだよ……こういうの……!)
久しぶりに、高校生的な展開に心躍る奈穂。なぜか知恵は不満そうな顔をして、桃は何かおどおどして。
『それでは、これから皆さんに戦闘糧食の作成を、実践してもらいます』
授業AIがそう告げる。
『墨子さん、戦闘糧食の定義及び目的について、答えてください。これは評価B—19に含まれます』
ちょっとの間をおいて答える墨子。
「戦闘は、結局生産を伴わない経済活動だな。衣食住のリソースが普段よりも早く大量にに消耗する。特に、食は戦闘に一番必要不可欠なリソースだ。いかに効率よく、食を満たすかが戦闘では必要となってくる。それが——戦闘糧食という発想だ。如何に調理しやすく、携帯しやすく、栄養に満ちて、なにより食欲を十分に満たせる食事を提供できるかを——それが戦争の直接の勝因になることは疑いないな!」
今始まる。聖リュケイオン女学園のキッチンスタジアム。
『いでよ!戦闘糧食のアイアンメイデンたちよ!——』
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幽愁のモラトリアム
都築よう子
SF
理人は壮絶な戦いの後、病室で意識を取り戻す。過去の記憶と現在の痛みが交錯する中、母の死と未解決の家族の秘密に苦悩する。内面の葛藤と安楽死の現実に直面し、彼は自身の生き方と未来を模索する。
108人のキャラクターたちと織りなす近未来SF文芸シリーズ・第一弾『視窓のフリンジ』のスピンオフ作品ではございますが、読み切りなので初見でも楽しめる内容です。
↓
視窓のフリンジ(現在は非公開)
https://kakuyomu.jp/works/16817330664483020434
★ 幽愁のモラトリアムの登場人物★
⚪︎理人・タイラー:物語の主人公で法医学部生。ミヤビとの運命の出会いにより、雷と風のエレメンタルフォースが使えるようになるも、ヴァンロードとの戦闘で負傷をし、病院に入院した。
⚪︎杏・タイラー:理人の母親。幼き理人の身代わりとなって交通事故で死亡している。
⚪︎ヘンリー・タイラー:理人の父親で生物学と遺伝工学の科学者。現在は、クローン技術を違法に応用した罪で最凶死刑囚として収監されている。
⚪︎鞠 凛:杏の妹で理人の育ての親。蹴鞠(けまり)の創始者だった祖の流れを受け継ぐ鞠一族の末裔。
⚪︎アレクサンダー・フィールズ:理人の主治医であり、経験豊富な医師。過去に杏とヘンリーに因縁がある。
⚪︎ジュディ・アンドール:先進的な人工知能と感情認識技術を搭載したナースロイド。
⚪︎ミヤビ:口伝詩、魔法遺産(オーパーツ)を修めた賢者の石を守護すべく生み出された一族の末裔。運命共同体として理人にエレメンタルフォースを授けた。
⚪︎宙太:古書店「迷子書房」の店主。常連客の理人とは探偵と助手のような間柄。
【おんJ】 彡(゚)(゚)ファッ!?ワイが天下分け目の関ヶ原の戦いに!?
俊也
SF
これまた、かつて私がおーぷん2ちゃんねるに載せ、ご好評頂きました戦国架空戦記SSです。
この他、
「新訳 零戦戦記」
「総統戦記」もよろしくお願いします。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲
俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。
今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。
「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」
その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。
当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!?
姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。
共に
第8回歴史時代小説参加しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる