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第3章 ブリュメールのクーデター

千日戦争

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 煙ともに、発射される弾頭。軌跡は見えないが、数秒の沈黙の後に着弾した。そしてソ連の貨物船が揺れる。大きな火球。
「なに……あぁ……」
 知恵の悲鳴とともに、大きな爆音が響き渡る。墨子が顔を手で覆う。
「大丈夫だよ」
 そんな絶望的な状況を察したように奈穂がそう告げる。
貨物船を指差す奈穂。本来ならば——大破しているはずの貨物船は——海の上に健在であった。
「——!もしかして……照明弾?」
 知恵が察する。それにうなずく奈穂。
「普段よりも、着弾高度を低くしてあるけどね。まあ致命傷にはならない程度に」
 奈穂はそう言うと、墨子の方を向く。
「それとなく、ソ連側にわかるように情報を流してくれるかな。『海上封鎖の際、照明弾の誤射によりソ連船が損傷』と。時間は……先程の西ベルリンの騒動と同じぐらいに操作して」
 はじめはキョトンとしていた墨子だったが、すぐ状況を理解する。わかったぜ、と一言おいて情報操作を始める。
 知恵は理解する。これは奈穂のバランス・オブ・パワーの戦略であると。
 一方的に敵対行為を許してしまっては、自国側からの非難は大きいものだろう。また相手がさらに増長する可能性もある。わかりやすく、同等規模の『手』を打つのも一つの策略であった。
 将棋で言う千日手に似ているのかもしれない。ただ根本的な解決にはならないことは明白だが。
「そろそろ、こちらからもなにかしたほうがいいのかな……先手を取られてばっかりだからね。大須さんのメッセージが大体わかってきたから、それに答える形で」
 知恵の方を向く、奈穂。
「テレビ会見の準備をしてくれる。全米に向けての会見を。むろん、全世界に流れるようにロイターに同時送信して」
 ぱあ、とか顔をほころばせる知恵。堂々としている奈穂をなによりも知恵は大好きだった。『英雄』としての奈穂の風格が。
「……あんまり、人前で話するのやだなぁ……まあ、これも成績のためだしね……」
 奈穂は遠くを見つめる。ほんとに浅い人生経験ではあったが、それでも応用がきくことがいっぱいあることに気づく。
 友達関係。駆け引き、というと、何か嫌な感じではあるが、それで色々面倒な人間関係を乗り切ってきた感じがする。
妬み、そねみ、嫉妬、嫌悪……むき出しの感情もあれば、奥底に秘めた感情もある。そういったものに対してどうすればお互いが傷つかずにすむか。喧嘩にならずにすむか。もしくはうまくお互いの感情をぶつけ合えるか。
国家の関係も、煎じ詰めればそういうレベルまで落とし込むことができるのかな……と奈穂は思う。
 まわりで楽しそうに、コンソールを操作する知恵と墨子。
出会ってから間もないが……まあいいルームメイトなのかもしれない。人間関係の面倒臭さがない。ある意味厄介ではあるのだが。ただもっと女子高生的な話をしたい気もするが、それは求めても、無理なのかもしれない。
 奈穂はため息をつくと、目を閉じる。これから行われる会見に向けて、その原稿を作成するために——
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