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第2章 桃園の誓い

三巨頭会談

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 長く、黒い矢が海面を切り裂く。
単縦陣で移動する、奈穂の艦隊。
ゆっくりと、その形を変化させていく。中央に旗艦『大和』。その横には小柄な空母の姿が。輪形陣を形成しつつ、ゆっくりと速度を落とす。
「そうか……宍戸さん、そういうことか!」
 知恵は気づく。この艦隊の正体に。
「俺自身もうっかりしていたね。後方にいた主力艦隊……空母は『鳳翔』、か」
 主力艦隊。戦艦『大和』を旗艦として数十隻の駆逐艦からなる大艦隊。その中に日本最初の空母である『鳳翔』も含まれていた。機動艦隊の後詰として、艦隊決戦用に温存されていた艦隊である。
史実では、何らなすことのなかった艦隊であるが、奈穂はそれを利用する。特に空母『鳳翔』に艦載されている戦闘機は、搭載数こそ少ないとはいえ、搭乗員の練度は正規機動部隊のそれに劣るものではない。
「せっかくあるのに使わないのはもったいないよね。飛行機に限らず、このでかい船も」
「戦艦だ」
 墨子が静かにそう突っ込む。
「まあ、なんでもいいけど」
 そう言いながら、情報携帯端末を見つめる奈穂。二つの艦隊が合流し、『赤城』『飛龍』が輪形陣の中に取り込まれる。一方、戦艦三隻は前面に移動する。
 遠くからまた轟音が近づく。知恵の管轄の外にある航空戦力。ミッドウェー島守備隊の航空戦力だ。かなり、消耗したとはいえ、まだ残存機五十機以上の規模を誇っていた。覚悟を決めて総出撃に出たらしいことがうかがえる。
 それを冷静な顔で横目に見送る知恵。
この数では奈穂の有するなけなしの旧型戦闘機での対応は難しいように思われた。しかし、奈穂は情報携帯端末から目を離し、知恵に告げる。
「思ったんだよね。この『大和』のスペックを見て。少々の攻撃では沈まない。実際『大和』の最後を見ると、かなり、耐えているからね。一九四三年に対空改装が行われているけど……現状でも決して悪い装備じゃない。なら——」
 『大和』を先頭にして、二隻の戦艦が散開する。輪形陣の外側を守るように。
「戦艦で航空攻撃をガードする。なあに、少々のことでは沈まないと思うしね」
 高速でその戦艦に近づく攻撃隊。『B—26マローダー』や『B—17フライングフォートレス』といった機も見える。
どんどん輪形陣に近づく編隊。しかし轟音がそれを切り裂く。虎の子の三式弾が『大和』『長門』、『陸奥』三隻から一斉に放たれたのだ。
 『長門』『陸奥』もビックセブンと称される大型艦である。その火力は尋常ではない。空中に生じる火球。それはアメリカの航空機を飲み込んでいく。
 しかし、その激しい砲火をかいくぐって、さらに他の攻撃隊が迫る。
対空機銃の嵐が、攻撃隊に向かって巻き起こる。それでも、至近距離から魚雷や爆弾をかろうじて投下する攻撃隊。中には、それを抱えたまま破裂する機体も。
 爆音。『大和』の右舷に着弾する。
しかし、全く動じることはない。即座に着弾部分の隔壁が閉ざされ、注排水システムが作動する。不沈艦『大和』の面目躍如である。
「沖縄特攻に使うくらいなら、このほうがまだ意味のある使い方だよね。ほんとは航空機には航空機をぶつけるのがセオリーなんだろうけど」
 他の駆逐艦や、巡洋艦もそれに習い、対空戦闘を開始する。
始まってから数十分。戦艦三隻はいずれも何かしらの形で着弾を受けたが、戦闘及び航行には全く支障がないように見えた。
「小破……って、感じかな。まあ、このくらいなら上等だよね」
 奈穂の言葉を聞く余裕もなく、ウィンドウをいくつも立ち上げる知恵。『0』の数字が羅列したデータ。
この段階で、アメリカ海軍側が有する航空戦力は、皆無となったことを意味していた。
煙たなびく戦場に帰還する、航空隊。先程飛びたった墨子の、第二次攻撃隊である。
『赤城』『飛龍』に着艦する艦載機。一方、母艦をなくした『加賀』『蒼龍』攻撃隊は、海面に軟着陸を試みる。
「機体はしょうがないけど、搭乗員は絶対、助けないと。大事なソフトウェアだし…なにより人命は大事だから」
「当たり前のことを…!」
 知恵がイライラした声で、そう吐き捨てる。それをじっと見つめる奈穂。はぁ、とため息をついたあと奈穂はつぶやく。
「アタリマエのことって、難しいよね。ほんと」
 動きが止まる知恵。
 時間が止まったかのように思われた次の瞬間——ウィンドウが新たな展開を告げることになる——
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