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第2章 桃園の誓い

第三次ポエニ戦争

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 奈穂はじっと、情報携帯端末に表示されている時刻に見入っていた。そこには、現在の時刻と目の前で展開している戦いのリアルタイムの時刻——一つは日本時間であり、もう一つはアメリカ太平洋時間が並行して刻まれていた。
 すっかりと日は昇り、もう早朝とも言えない時間——先程の剣幕から、すぐにでも航空機同士の戦いが始まるのかと思っていた奈穂は、ちょっと拍子抜けするのを感じた。しかし、眼上に浮遊し対峙し合う二人の少女——墨子と知恵の緊張感は、ただごとではなかった。お互いに固まったように、不動の体制でなにかに備えているようだった。
 その状態が、三十分も続いたであろうか。遠くからの小さな点が、どんどん墨子の機動艦隊に近づいていく。息を呑む奈穂。アメリカ時間十時十五分。史実であればその時まであと数分のことである。
急降下爆撃機『ドーントレス』が『加賀』に爆弾を投下し、その瞬間にこの海戦の趨勢が一瞬にして決した、その時。
「でも。違うんだな。今回は」
 知恵が奈穂の気持ちを読んでいたように、そう言い放つ。近づく点を指さす知恵。点は無数の点となり、また面となる。
「史実では雷撃隊、艦爆隊の波状攻撃だったけどね。今回は——雷爆一体の、一斉攻撃を実施するよ。百機近くの大編隊だ。僅かな直掩機と、貧相な対空兵装でどのくらい耐えられるかな?史実以上のワンサイドゲーム……四隻一斉に沈めてしまうよ!」
 奈穂はまた、情報携帯端末で検索する。史実の攻撃では、艦爆で時間差をつけての攻撃だったことを知る。当然、それは墨子も承知のことだろう。
 目を閉じる墨子。観念したのであろうか。しかし、その刹那目を見開き、狂ったようにコンソールを操作する。
 バラける四空母。その空母に寄り添うように、支援部隊の重巡、戦艦そしていつの間にかけつけていた警戒隊の駆逐艦が、空母ごとに密集した輪形陣を形成する。
「第二形態。『墨守』の陣。雷撃はすべて戦艦・巡洋艦・駆逐艦が引き受ける。空母は一隻たりとも沈まさせねーよ‼」
 四つに艦隊が分裂したことで、アメリカ航空攻撃隊も分散を余儀なくされる。その間隙をぬって精鋭の『零戦』直掩部隊が、戦闘力に劣るアメリカ軍の雷撃隊、艦爆隊を撃破していく。
無論、日本艦隊も無傷というわけにはいかない。数隻の駆逐艦が撃破され、煙を上げる。戦艦も何弾か被弾し、戦艦『榛名』は中破の状態に追い込まれた。
しかし——空母は全くの無傷である。このまま行けば、歴史が——変わるかもしれない。
「……」
 その状況を、無言で眺める知恵。時間の経過とともに、アメリカ航空隊の現有戦力はどんどんすり減っていった。
しかし奈穂は気づく。天頂から、悪魔が舞い降りることを。
「上!」
 思わず口に出す奈穂。墨子が上を見上げる。
「遅い」
 一言、言い放つ知恵。薄気味悪い笑みを、浮かべて。
 青空を切り裂くような、不気味な音。それは——『ドーントレス』急降下爆撃機の一団。突如現れたその部隊は二つ。まずは空母『加賀』に六機が垂直に突っ込む。激しい対空砲火を抜けまるでV字のように機体を翻す『ドーントレス』。
 たった一瞬がまるで永遠のように感じられた次の瞬間。
 轟音とともに、火柱が上がる。空母『加賀』の甲板に——
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