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第一章 始まりは異世界転生。
13. あっという間に エディのお話
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ロイス伯父様は昨日の事件を聞いていたので、身を守るための護符や装飾品をお土産としてくれた。
今日はこの二週間で疲労もあるだろうからと、僕の今の実力を測るだけだった。その後は母様と三人でお茶を飲みながら昔話に花が咲いた。
僕のピアスを見るなり、ジョイスもちゃんと考えていてよろしいと褒めてくれた。伯父様は母様やウェスリー兄様にも色々と持たせていたと昔話をしてくれた。
ウェスリー兄様は病気のせいで週に2日か3日程しか通えなかったけれど、それでも何度も求婚や告白されて大変だったらしい。
それで従兄弟のジェスロが、護衛として付きっ切りだったそうだ。
僕が騎士科に入るならもっと危険度が上がるので、コースが騎士科に決まったら強力な人口精霊を用意してくれるそうだ。
たしか母様が居眠りもできないって言っていたやつだよね。それがもっと強力になるって想像がつかないなあ。
覚悟しておいた方がいいよと母様は笑っていたけれど大丈夫なんだろうか。
来週初めからは伯父様の屋敷か魔法局で授業を受けることになった。ここだけの話で光属性の魔導師が、僕に光属性の魔法を教えてくれることになった。
そのため機密保持と環境設備を考えるとそれが一番いいそうだ。光属性の授業のことは絶対に口外しないようにと念を押された。
僕が使えるようになったらまずいんじゃないかと聞いたら、ある程度の年齢を過ぎてから光属性が使えるようになる人もいるのでそれで押し通すそうだ。
学園に入学するまでの二か月間、週に五日は魔法の授業で一日は騎士団の訓練場に通うことになった。そして夜は体力作りと剣の稽古と忙しいけど、目標が出来たので楽しみで仕方がない。
そして、週に一度のタイラー公爵家の訪問はしばらくの間は見合わせることになった。毎週一度は僕とジョイスは騎士団で会うことになっているのと、グレイに対しての配慮ということでそういう話に決まった。
グレイに会えないのは寂しいけど、僕もどんな顔をして何を話していいのか分からないし、公爵家でジョイスとふたりっきりになるのも避けたい。
婚前交渉をしてみたいけど、やっぱり僕はまだ怖いんだ。
伯父様の屋敷で紹介された光属性のウィル先生は、学園に入学するまでは午前中の時間帯に週に二回授業を受け持ってくれることになった。入学したら半月に一度、学園の休みの日に教えて貰うことになった。
ウィル先生はとても優しくて分かり易く魔法を教えてくれる。前世でお世話になった主治医の先生に似ているので、主治医の先生にも褒められているようで嬉しくなってもっと頑張ろうと元気が出てくる。
その努力の成果で入学式前にはある程度の回復魔法が使えるようになっていた。もっともっと効力のある魔法を使えるようになりたい。いつかこの魔法で大勢の命を救えるといいのにな。
アディが塔に入ってからは時が過ぎるのはあっという間だった。
二ヶ月ほどしてアディが妊娠してなかったと母様から聞いてほっとした。ずっと心配だったので本当によかった。
入学式も終わり運良くみんなと同じクラスになって、四人でいつも一緒に過ごしていた。コース選択の試験の結果、騎士科は不適正ということで魔法科に通うことになった。
ジョイスとデュランは騎士科で僕とニールは魔法科に決まった。
悔しかったけど仕方ない。それでも身体や剣技を鍛えるのは続けることにした。
僕は双子なのにひとりしか入学していないとかなり噂になっていた。アディは病気療養中という話はあっという間に広まっていて、グレイとの婚約破棄も一緒になって流れていた。
僕に確認に来る生徒も多かったけど、ジョイスとニールが追い払ってくれた。
それよりも尻軽を始め大勢の生徒が、グレイにアピールを始めて大変だとキース兄様が教えてくれた。
学年が違うのでグレイにはほとんど合わなかったけど、また公爵家に遊びにおいでと言われて胸が痛んだ。
僕のせいだと自分を責めるのは良くないと思っても、中々それをやめることができない。
最初の二年間は騎士科も魔法科も共通した授業があるので午前中は四人一緒に過ごして、午後はニールと魔法科でできた友達と過ごすようになっていた。
デュランは真面目なのでニールが迫ってもきっぱりと断っていた。実力行使に出たら卒業まで口をきかないと言われニールは諦めたふりをしている。いつかチャンスがあるはずと色々と計画を練っている。
長男のダニエル様がキース兄様に嫁ぐので、デュランは婿養子としてニールと結婚する。ニールがデュランに一目惚れしてご両親に頼み込んで婚約にこぎつけた。
デュランは子爵家の三男なので両家同士の話はあっさりと決まった。子爵家から伯爵家への婿入りなので、デュランのご両親は大喜びだったそうだ。卒業間近に遠戚の伯爵家の養子になって爵位の釣り合いを取ることになっている。
僕らは以前と違って婚約者同士として仲良くしていた。そのおかげで、告白されることも絡まれることもかなり減っていた。
僕に告白すれば学園ではジョイスとキース兄様を、騎士団では父様とシェリーとエドガー様を敵に回すことになったのも大きい。
アディとグレイのこともあって、親達が僕らをふたりきりにはさせなかった。
学校でジョイスとはふたりきりになれても、伯父様の護符や人工精霊の守りに手出しができないのでかなり我慢して貰っている。
ジョイスは図書館や敷地内の木陰とか、いい場所があるのにとよくぼやいてくる。
そしてあの潤滑剤はやっぱり媚薬入りで、僕にどう効いてどうなったかを教えてくれと言われて渋々話してしまった。
ジョイスと性交渉をしたくなったことは伏せたけど、それでも刺激が強かったようで騎士団の備品倉庫の隅で押し倒されてしまった。それについては僕もかなり反省した。
人工精霊の警告音が鳴り響いたので、僕らは直ぐに身体を離して距離を取らざるを得なかった。その音を聞きつけて集まった騎士団員に取り繕うのが本当に大変だったなあ。
事情を知っているシェリーやエドガー様にからかわれて、僕は恥ずかしくてしばらく訓練所に顔を出せなった。
もちろん騒ぎを起こしたので、父様とアンドリュー様にも報告させられて顔から火が出るかと思う位に恥ずかしかった。
僕に手を出すとみんなの晒し者になると広まって、抑止力になって結果的に良しとアンドリュー様に言われてしまった。
この件について僕よりもジョイスに同情が集まったのは納得できない。
団長が父親だから大変とか生殺しで気の毒だとか色々と励まされて、これをきっかけにジョイスは団員とかなり仲良くなった。
アディのことを聞かれなくなった頃に、学園の庭の隅でグレイが婚約したことをジョイスから聞いた。
その相手は第二王子のジェイミーだった。あの意地悪なジェイミーだなんて。
式の日取りはグレイが18歳の誕生日を迎えてからだそうだ。在学中か卒業の後かはまだ確定はしていない。
ジェイミーが降嫁すると僕はタイラー公爵家には近づけなくなるな。ジェイミーは僕とアディのことをかなり嫌っていて、突き飛ばされたり物を隠されたりいい思い出が全くない。
ジェイミーがジョイスとの婚約に口を出すことはないといいなあ。
この話は今直ぐには公にならないので、両親以外には内緒にしてくれと言われた。
このことはアディに知らせるべきなんだろうか。そのうち、母様達からの手紙で知るんだろうけど。
これでグレイとアディの関係が終わったんだと僕は悲しくて仕方がなかった。
涙が止まらず声を殺して泣いていると、ジョイスは何も言わず僕が泣き止むまで寄り添って肩を抱いていてくれた。
その日の午後の授業はふたりともさぼって、下校時間までずっと庭で過ごすことになった。
それに付き合ってくれたジョイスの優しさに感謝しきれない。
もしも、ジョイスを失ったらどうしようかと考えるだけで胸が締め付けられていた。
僕はジョイスに一生側に居て欲しい。
泣き止んだ僕に授業が終わったから帰ろうと、ジョイスは立ち上がって手を差し出してくれた。
「授業をサボらせてごめんね。学園から親に連絡が入っているから、ジョイスまでも怒られてしまう・・・」
「いいよ、そんなこと気にすんなよ。一緒に居たくて俺もサボったんだから」
「ありがとう、ジョイス。さっきね、アディとグレイみたい会えなくなったら嫌だなって思ったんだ。ジョイスが居なくなったら嫌だ。ずっと僕の側にいてくれる?」
僕はジョイスの差し出した手を取り立ち上がった。ジョイスは顔を赤らめて僕の手を強く握りしめた。
「当たり前だろ、俺は絶対にお前から離れない。そんなこと言ってくれるなんて思いもしなかったから、嬉しくて死にそうだ。今すぐ抱き締めてキスしたいけど、また警報音で騒ぎになるから我慢するよ」
「学園に両親を呼ばれちゃうし、退学騒ぎになるかもね」
「また晒し者になるのはご免だな」
教室へ荷物を取りに行くと、ニールの置手紙があった。どうだった?やったら教えろよな、と書いてあって、ジョイスとふたりで声に出して笑った。
馬車の待合所まで色々と話をした。ジョイスが騎士団入りしたら僕らは結婚する話が出ていることを聞いた。
王都や領地を離れて辺境地に赴任するかもしれないと言われたけど、僕はどんな場所でも着いていきたいと了承した。
もし学園を辞めることになってもいいかと問われ、構わないから絶対に置いて行かないで答えた。
ジョイスは僕に大嫌いと言われてから、こんな条件じゃ断られると結婚を諦めていたそうだ。たしかにあの時はそうだったけど、今はジョイスと離れるなんて考えられない。
「じゃあ、また明日な」
「うん、また明日。あのね、ジョイスが好きだよ。だから、死ぬまで一緒にいたいんだ」
勇気を振り絞って離れ際にそう言って、ジョイスの返事を待たずに迎えの馬車に乗った。
「俺もだ!」
ジョイスは叫んで手を振りながら僕を見送ってくれた。
恥ずかしさと嬉しさが入り混じって、顔がものすごくにやけているのが分かったのでずっと下を向いていた。
にやけ顔と泣きはらした目を見ても同乗しているキース兄様は何も言わないので助かった。相談も愚痴も言わない時は、いつも僕が話すまで聞き出そうとしないのでありがたいと思う。
グレイの婚約のことは言えないので、帰りの馬車ではバレバレだろうけど寝たふりをしてやり過ごした。
僕が午後の授業をサボったことは学園から母様に伝わっていた。ジョイスも騎士科の授業を無断欠席したので一緒に居たのではないかという連絡を頂いたそうだ。
「ごめんなさい。僕に付き合ってジョイスもサボることになったんです。もう母様達は聞いていると思うけど・・昼休みにグレイが婚約したって聞いて、アディのことを考えたら涙が止まらなくて・・・」
「母様達も最近聞いたところだよ。理由もなくサボることはないと思っていたけど」
「本当にごめんなさい、もうサボりません。僕のせいでジョイスが怒られてしまうのが心配で」
おいでと手招きする母様の胸に僕は飛び込んだ。ひとしきり泣いた後に、僕はジョイスとの結婚の条件を了承したと報告した。
好きだから離れたくないと伝えると、母様はお前の気持ちが決まって良かったと額にキスをしてくれた。
次の日にジョイスはサボった理由を言わないことを怒られたと笑った。
その後にノア様は僕からのお詫びの手紙を読んで、お前もなかなかやるじゃないかとジョイスを褒めて秘蔵のワインを何本も開けたそうだ。
僕はその手紙にはジョイスがサボった理由と、結婚の条件について了承しましたと書いた。そして最後はノア様をお義母様とお呼びしたいですと締めくくった。
あんなに浮かれた母上を見たことはないし、兄貴も一緒に喜んでくれてホッとしたと言われ僕も嬉しかった。
ジョイスはちょっと二日酔いで辛いけど、とても幸せだと僕の手を握った。そして僕に何度も好きと言わせてはニヤニヤしていた。そんなジョイスが僕は大好きだ。
それからあまり経たないうちに、グレイとジェイミーの婚約が学園の噂になった。それもグレイが18歳になったら式を挙げるという具体的な話だった。
その話題の中心にジェイミーの取り巻きがいたので、ジェイミーが意図的に流したんじゃないかって情報通のダニエル様から聞いた。
憶測なので確証はないけれどねって教えてくれたけど多分そうだと思う。
ジェイミーは僕より二つ上で、学年が違って本当に良かった。もし同じ学年だったら、事あるごとに絡んできそうだもの。
グレイが結婚するまで、あと一年ちょっとしかないんだ。そして僕はもうすぐ13歳になる。アディと別れてもう一年が経ってしまう。
僕はこの一年はとても早かったけれど、アディはどうなんだろうか。
ジョイスとの結婚を了承したことを手紙に書いたら、アディはとても喜んでくれた。それを嬉しくも思うけど、僕のことを恨んでいないか心配になる。
そんなことはないよって笑い飛ばすに違いないけど、罪悪感で今も時々苦しくなる。
グレイとジェイミーの婚約話は公に発表されたら、母様が手紙に書くのであまり気にしないように言われた。
アディもグレイが早く婚約して結婚することを望んでいるんだから、お前が気に病んではいけないよと諭された。
すごいな、母様には何もかもがお見通しなんだ。
そして、僕らの誕生日にグレイとジェイミーの婚約が発表された。僕はジェイミーの悪意に打ちのめされてしまった。本当に酷い、信じられないよ。
それから精神的に参ってしまって、体調を崩してしばらくベッドから出られなかった。ジョイスは心配して毎日お見舞いに来てくれた。理由は分かっているだろうけど何も言わない。
学園は長期休暇に入っていたので、その間にゆっくりと自宅療養して無理はしないようにとお医者様に言われた。
体調を崩して一週間後にシェリーからとても可愛い仔猫を贈られた。カードには君の顔が見られなくて寂しいよとあった。
僕に甘える仔猫に癒されて世話に明け暮れているうちに、精神面も落ち着いて外出できるほど回復していった。
今日はこの二週間で疲労もあるだろうからと、僕の今の実力を測るだけだった。その後は母様と三人でお茶を飲みながら昔話に花が咲いた。
僕のピアスを見るなり、ジョイスもちゃんと考えていてよろしいと褒めてくれた。伯父様は母様やウェスリー兄様にも色々と持たせていたと昔話をしてくれた。
ウェスリー兄様は病気のせいで週に2日か3日程しか通えなかったけれど、それでも何度も求婚や告白されて大変だったらしい。
それで従兄弟のジェスロが、護衛として付きっ切りだったそうだ。
僕が騎士科に入るならもっと危険度が上がるので、コースが騎士科に決まったら強力な人口精霊を用意してくれるそうだ。
たしか母様が居眠りもできないって言っていたやつだよね。それがもっと強力になるって想像がつかないなあ。
覚悟しておいた方がいいよと母様は笑っていたけれど大丈夫なんだろうか。
来週初めからは伯父様の屋敷か魔法局で授業を受けることになった。ここだけの話で光属性の魔導師が、僕に光属性の魔法を教えてくれることになった。
そのため機密保持と環境設備を考えるとそれが一番いいそうだ。光属性の授業のことは絶対に口外しないようにと念を押された。
僕が使えるようになったらまずいんじゃないかと聞いたら、ある程度の年齢を過ぎてから光属性が使えるようになる人もいるのでそれで押し通すそうだ。
学園に入学するまでの二か月間、週に五日は魔法の授業で一日は騎士団の訓練場に通うことになった。そして夜は体力作りと剣の稽古と忙しいけど、目標が出来たので楽しみで仕方がない。
そして、週に一度のタイラー公爵家の訪問はしばらくの間は見合わせることになった。毎週一度は僕とジョイスは騎士団で会うことになっているのと、グレイに対しての配慮ということでそういう話に決まった。
グレイに会えないのは寂しいけど、僕もどんな顔をして何を話していいのか分からないし、公爵家でジョイスとふたりっきりになるのも避けたい。
婚前交渉をしてみたいけど、やっぱり僕はまだ怖いんだ。
伯父様の屋敷で紹介された光属性のウィル先生は、学園に入学するまでは午前中の時間帯に週に二回授業を受け持ってくれることになった。入学したら半月に一度、学園の休みの日に教えて貰うことになった。
ウィル先生はとても優しくて分かり易く魔法を教えてくれる。前世でお世話になった主治医の先生に似ているので、主治医の先生にも褒められているようで嬉しくなってもっと頑張ろうと元気が出てくる。
その努力の成果で入学式前にはある程度の回復魔法が使えるようになっていた。もっともっと効力のある魔法を使えるようになりたい。いつかこの魔法で大勢の命を救えるといいのにな。
アディが塔に入ってからは時が過ぎるのはあっという間だった。
二ヶ月ほどしてアディが妊娠してなかったと母様から聞いてほっとした。ずっと心配だったので本当によかった。
入学式も終わり運良くみんなと同じクラスになって、四人でいつも一緒に過ごしていた。コース選択の試験の結果、騎士科は不適正ということで魔法科に通うことになった。
ジョイスとデュランは騎士科で僕とニールは魔法科に決まった。
悔しかったけど仕方ない。それでも身体や剣技を鍛えるのは続けることにした。
僕は双子なのにひとりしか入学していないとかなり噂になっていた。アディは病気療養中という話はあっという間に広まっていて、グレイとの婚約破棄も一緒になって流れていた。
僕に確認に来る生徒も多かったけど、ジョイスとニールが追い払ってくれた。
それよりも尻軽を始め大勢の生徒が、グレイにアピールを始めて大変だとキース兄様が教えてくれた。
学年が違うのでグレイにはほとんど合わなかったけど、また公爵家に遊びにおいでと言われて胸が痛んだ。
僕のせいだと自分を責めるのは良くないと思っても、中々それをやめることができない。
最初の二年間は騎士科も魔法科も共通した授業があるので午前中は四人一緒に過ごして、午後はニールと魔法科でできた友達と過ごすようになっていた。
デュランは真面目なのでニールが迫ってもきっぱりと断っていた。実力行使に出たら卒業まで口をきかないと言われニールは諦めたふりをしている。いつかチャンスがあるはずと色々と計画を練っている。
長男のダニエル様がキース兄様に嫁ぐので、デュランは婿養子としてニールと結婚する。ニールがデュランに一目惚れしてご両親に頼み込んで婚約にこぎつけた。
デュランは子爵家の三男なので両家同士の話はあっさりと決まった。子爵家から伯爵家への婿入りなので、デュランのご両親は大喜びだったそうだ。卒業間近に遠戚の伯爵家の養子になって爵位の釣り合いを取ることになっている。
僕らは以前と違って婚約者同士として仲良くしていた。そのおかげで、告白されることも絡まれることもかなり減っていた。
僕に告白すれば学園ではジョイスとキース兄様を、騎士団では父様とシェリーとエドガー様を敵に回すことになったのも大きい。
アディとグレイのこともあって、親達が僕らをふたりきりにはさせなかった。
学校でジョイスとはふたりきりになれても、伯父様の護符や人工精霊の守りに手出しができないのでかなり我慢して貰っている。
ジョイスは図書館や敷地内の木陰とか、いい場所があるのにとよくぼやいてくる。
そしてあの潤滑剤はやっぱり媚薬入りで、僕にどう効いてどうなったかを教えてくれと言われて渋々話してしまった。
ジョイスと性交渉をしたくなったことは伏せたけど、それでも刺激が強かったようで騎士団の備品倉庫の隅で押し倒されてしまった。それについては僕もかなり反省した。
人工精霊の警告音が鳴り響いたので、僕らは直ぐに身体を離して距離を取らざるを得なかった。その音を聞きつけて集まった騎士団員に取り繕うのが本当に大変だったなあ。
事情を知っているシェリーやエドガー様にからかわれて、僕は恥ずかしくてしばらく訓練所に顔を出せなった。
もちろん騒ぎを起こしたので、父様とアンドリュー様にも報告させられて顔から火が出るかと思う位に恥ずかしかった。
僕に手を出すとみんなの晒し者になると広まって、抑止力になって結果的に良しとアンドリュー様に言われてしまった。
この件について僕よりもジョイスに同情が集まったのは納得できない。
団長が父親だから大変とか生殺しで気の毒だとか色々と励まされて、これをきっかけにジョイスは団員とかなり仲良くなった。
アディのことを聞かれなくなった頃に、学園の庭の隅でグレイが婚約したことをジョイスから聞いた。
その相手は第二王子のジェイミーだった。あの意地悪なジェイミーだなんて。
式の日取りはグレイが18歳の誕生日を迎えてからだそうだ。在学中か卒業の後かはまだ確定はしていない。
ジェイミーが降嫁すると僕はタイラー公爵家には近づけなくなるな。ジェイミーは僕とアディのことをかなり嫌っていて、突き飛ばされたり物を隠されたりいい思い出が全くない。
ジェイミーがジョイスとの婚約に口を出すことはないといいなあ。
この話は今直ぐには公にならないので、両親以外には内緒にしてくれと言われた。
このことはアディに知らせるべきなんだろうか。そのうち、母様達からの手紙で知るんだろうけど。
これでグレイとアディの関係が終わったんだと僕は悲しくて仕方がなかった。
涙が止まらず声を殺して泣いていると、ジョイスは何も言わず僕が泣き止むまで寄り添って肩を抱いていてくれた。
その日の午後の授業はふたりともさぼって、下校時間までずっと庭で過ごすことになった。
それに付き合ってくれたジョイスの優しさに感謝しきれない。
もしも、ジョイスを失ったらどうしようかと考えるだけで胸が締め付けられていた。
僕はジョイスに一生側に居て欲しい。
泣き止んだ僕に授業が終わったから帰ろうと、ジョイスは立ち上がって手を差し出してくれた。
「授業をサボらせてごめんね。学園から親に連絡が入っているから、ジョイスまでも怒られてしまう・・・」
「いいよ、そんなこと気にすんなよ。一緒に居たくて俺もサボったんだから」
「ありがとう、ジョイス。さっきね、アディとグレイみたい会えなくなったら嫌だなって思ったんだ。ジョイスが居なくなったら嫌だ。ずっと僕の側にいてくれる?」
僕はジョイスの差し出した手を取り立ち上がった。ジョイスは顔を赤らめて僕の手を強く握りしめた。
「当たり前だろ、俺は絶対にお前から離れない。そんなこと言ってくれるなんて思いもしなかったから、嬉しくて死にそうだ。今すぐ抱き締めてキスしたいけど、また警報音で騒ぎになるから我慢するよ」
「学園に両親を呼ばれちゃうし、退学騒ぎになるかもね」
「また晒し者になるのはご免だな」
教室へ荷物を取りに行くと、ニールの置手紙があった。どうだった?やったら教えろよな、と書いてあって、ジョイスとふたりで声に出して笑った。
馬車の待合所まで色々と話をした。ジョイスが騎士団入りしたら僕らは結婚する話が出ていることを聞いた。
王都や領地を離れて辺境地に赴任するかもしれないと言われたけど、僕はどんな場所でも着いていきたいと了承した。
もし学園を辞めることになってもいいかと問われ、構わないから絶対に置いて行かないで答えた。
ジョイスは僕に大嫌いと言われてから、こんな条件じゃ断られると結婚を諦めていたそうだ。たしかにあの時はそうだったけど、今はジョイスと離れるなんて考えられない。
「じゃあ、また明日な」
「うん、また明日。あのね、ジョイスが好きだよ。だから、死ぬまで一緒にいたいんだ」
勇気を振り絞って離れ際にそう言って、ジョイスの返事を待たずに迎えの馬車に乗った。
「俺もだ!」
ジョイスは叫んで手を振りながら僕を見送ってくれた。
恥ずかしさと嬉しさが入り混じって、顔がものすごくにやけているのが分かったのでずっと下を向いていた。
にやけ顔と泣きはらした目を見ても同乗しているキース兄様は何も言わないので助かった。相談も愚痴も言わない時は、いつも僕が話すまで聞き出そうとしないのでありがたいと思う。
グレイの婚約のことは言えないので、帰りの馬車ではバレバレだろうけど寝たふりをしてやり過ごした。
僕が午後の授業をサボったことは学園から母様に伝わっていた。ジョイスも騎士科の授業を無断欠席したので一緒に居たのではないかという連絡を頂いたそうだ。
「ごめんなさい。僕に付き合ってジョイスもサボることになったんです。もう母様達は聞いていると思うけど・・昼休みにグレイが婚約したって聞いて、アディのことを考えたら涙が止まらなくて・・・」
「母様達も最近聞いたところだよ。理由もなくサボることはないと思っていたけど」
「本当にごめんなさい、もうサボりません。僕のせいでジョイスが怒られてしまうのが心配で」
おいでと手招きする母様の胸に僕は飛び込んだ。ひとしきり泣いた後に、僕はジョイスとの結婚の条件を了承したと報告した。
好きだから離れたくないと伝えると、母様はお前の気持ちが決まって良かったと額にキスをしてくれた。
次の日にジョイスはサボった理由を言わないことを怒られたと笑った。
その後にノア様は僕からのお詫びの手紙を読んで、お前もなかなかやるじゃないかとジョイスを褒めて秘蔵のワインを何本も開けたそうだ。
僕はその手紙にはジョイスがサボった理由と、結婚の条件について了承しましたと書いた。そして最後はノア様をお義母様とお呼びしたいですと締めくくった。
あんなに浮かれた母上を見たことはないし、兄貴も一緒に喜んでくれてホッとしたと言われ僕も嬉しかった。
ジョイスはちょっと二日酔いで辛いけど、とても幸せだと僕の手を握った。そして僕に何度も好きと言わせてはニヤニヤしていた。そんなジョイスが僕は大好きだ。
それからあまり経たないうちに、グレイとジェイミーの婚約が学園の噂になった。それもグレイが18歳になったら式を挙げるという具体的な話だった。
その話題の中心にジェイミーの取り巻きがいたので、ジェイミーが意図的に流したんじゃないかって情報通のダニエル様から聞いた。
憶測なので確証はないけれどねって教えてくれたけど多分そうだと思う。
ジェイミーは僕より二つ上で、学年が違って本当に良かった。もし同じ学年だったら、事あるごとに絡んできそうだもの。
グレイが結婚するまで、あと一年ちょっとしかないんだ。そして僕はもうすぐ13歳になる。アディと別れてもう一年が経ってしまう。
僕はこの一年はとても早かったけれど、アディはどうなんだろうか。
ジョイスとの結婚を了承したことを手紙に書いたら、アディはとても喜んでくれた。それを嬉しくも思うけど、僕のことを恨んでいないか心配になる。
そんなことはないよって笑い飛ばすに違いないけど、罪悪感で今も時々苦しくなる。
グレイとジェイミーの婚約話は公に発表されたら、母様が手紙に書くのであまり気にしないように言われた。
アディもグレイが早く婚約して結婚することを望んでいるんだから、お前が気に病んではいけないよと諭された。
すごいな、母様には何もかもがお見通しなんだ。
そして、僕らの誕生日にグレイとジェイミーの婚約が発表された。僕はジェイミーの悪意に打ちのめされてしまった。本当に酷い、信じられないよ。
それから精神的に参ってしまって、体調を崩してしばらくベッドから出られなかった。ジョイスは心配して毎日お見舞いに来てくれた。理由は分かっているだろうけど何も言わない。
学園は長期休暇に入っていたので、その間にゆっくりと自宅療養して無理はしないようにとお医者様に言われた。
体調を崩して一週間後にシェリーからとても可愛い仔猫を贈られた。カードには君の顔が見られなくて寂しいよとあった。
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