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第一章 始まりは異世界転生。

4.話して?放して!* エディのお話

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  ジョイスはいつも通りに早くしろって腕や肩を叩いて髪を引っ張る。今日はいつも以上にしつこく絡んでくるのが鬱陶しい。
   それでも僕は何もやり返すことができない。僕は前世でも引っ込み思案で、人見知りをして大人しかった。エディも同じ性格だったので、ジョイスにやり返すなんて無理だ。

  今日は庭で二時間ほど散歩してお話をするようにと、ふたりっきりにされて本当に参った。仲良くするように言われていたけれど、怖くて口をきけなかった。
   ジョイスが話し掛けて来ても僕はうんとかそんな返事が精いっぱいだった。
   頭をごしごしと撫で回されたり、三つ編みをずっと引っ張られて地獄のような時間だった。
   ジョイスんちの犬が視界に入るのが唯一の慰めだった。

  ゴールデンレトリーバーに似ていて毛がふさふさで可愛い。触りたくて犬をじっと見ているとジョイスが三つ編みから手を離した。

「犬に触りたいのか?」

 ジョイスが珍しく空気を読んだことに驚いた。

「うん、触りたい」
  
  僕の返事を聞くとジョイスが手首を強く握って引っ張るようにして犬に向かって歩かされた。痛いと言えなかったけど、犬を触らせてくれるのなら我慢しよう。

「頭と腹は撫でるなよ」
「もう触っていいの?」
「いいって言っているだろ!」

 確認しただけなのに理不尽に大声で怒られて僕は悲しくなってしまった。だめだ、気を取り直さなきゃ。ずっと入院生活で生まれて初めて犬を触れるんだからこのくらい我慢しなきゃ。

   僕は大人しく座っている犬の側に座って、そっと首や背中を撫でた。顔を舐められてくすぐったい。モフモフな毛並みと温かさにテンションが上がって思わず犬に抱き着いてしまう。

「いい子だね、モフモフしていいな。今度は猫も触ってみたいなあ」

  しばらく堪能していると、三つ編みを思いっ切り引っ張られ、バランスを崩して尻餅をついてそのままひっくり返った。僕は受け身もとれず頭から芝生に倒れ込んでしまった。

「痛い!」
「もういいだろう」

  犬が心配して僕に近づこうとするのを制して、ジョイスが不機嫌そうに上から覗き込んで来た。なんだよ、撫でるのをやめろって言えばいいじゃないか。僕はそう言えず目を逸らした。
  犬を触らせたくなかったんならなんで触らせたんだよ。そんなに僕のことが嫌いなんだ。
 
 大人は知っているけれど塔のことはジョイスには言ってはいけないことになっている。どうして僕がジョイスと結婚するの?僕が塔に入ればいいんだ。そしてアディとグレイが結婚すればいいんだ。涙で視界がぼやけて来た。

  早く立ち上がらないとジョイスがもっと怒るのが分かっていたけど僕は起き上がらずに声を堪えて泣いた。

「泣くなよ。お前はどうしていつも黙ってすぐに泣くんだよ。犬を撫でている時みたいになんでいつも笑ったり嬉しそうにしないんだよ!どうして今日はそんなに悲しそうなんだよ!」
 
   ジョイスは僕の腕を掴み、無理やり起き上がらせようとした。手加減なしで引っ張られて、痛くて身体を起こした。僕の背中に手を回して、何とか立ち上がらせようとする。

「早く立てよ!」
「分かったから、手を放して」

  消え入りそうな声で僕はつぶやいたけど、ジョイスは僕の手を放そうとしない。仕方なく立ち上がると、ジョイスに強く抱き締められた。
   いきなり何で?ジョイスが僕のことを抱き締めるなんて。僕が近寄らないようにしていたのもあるけれど、大きくなってからは久しぶりだった。

「エディ、ちゃんと話せよ」

 自分のことを棚に上げてよく言うよ。僕は悲しみより怒りで一杯になった。
   どうして僕はこんな目に合わなきゃならないんだ。そもそも僕らの婚約はグレイとアディのついでじゃないか。

「ジョイス、苦しいから放して」

  顔も見るのが嫌になって、できるだけ顔を背けた。僕の首筋に顔を埋めるジョイスの呼吸が荒くなって耳元でうるさい。
   息苦しいし熱いし、なんだよこの馬鹿力。さっきからお腹に何か当たっていて鬱陶しい。

「嫌だ、放したくない」

  ジョイスのことだからそう言うと思った。でもどうしてだろう、どう言ったらいいのか分からないけど、いつもと違う感じがして僕はとても不安になった。

「放して、放してジョイス!痛っ!」
 
   放すどころかジョイスは僕の耳を噛んできた。耳の中がぬるぬるしてくすぐったいし気持ち悪い。

「やだ、そんなこと気持ち悪い!」

  ジョイスの足を思いっきり踏んで、腕が緩んだ隙に僕は走り出した。お茶会の準備がしてある場所はすぐ近くだ。
  しばらく走って振り向くと、ジョイスは東屋の方に向かっていた。ジョイスは僕より足も速いからすぐ追いつかれるかと思ったけど、そっちに向かってくれて良かった。

 さっきされたことはとっても気持ち悪い。本当に嫌だ。なんであんなことするの?
   分かった、僕のことが嫌いだからあんなことをしたんだ。そんなに僕が嫌いなら、宰相閣下にお願いしてさっさと婚約破棄してよ!

  お茶会の席に母様達の姿が見えて僕はホッとした。

「ジョイスは?」

   ジョイスの母様のノア様が僕に笑顔を向けた。顔はジョイスに似ているけど、とても優しくて素敵な人だ。
   ノア様は優秀な文官で宰相閣下の部下だったそうだ。10歳年下のジョイスの父様が一目惚れして、学生なのに毎日のように職場に顔を出して口説き落としたそうだ。

「東屋に行きました」
「そう、勝手な子ですまないね。どうしてあの子はああなのかな。またエディを泣かすようなことばっかりしたみたいだね。今日も泣かしたらしばらくは合わせないって言ったのに。」
 
  泣きはらした僕の顔を見て、ノア様はため息をついて肩を竦めた。ジョイスもこの半分でも優しかったらいいのにな。

「グレイはアディのことが好きだけどジョイスは僕のこと嫌いなんです。さっきもすごく気持ちの悪いことをしてきたんです」
 
 僕は涙目になりながらずっと思っていたことを言った。ふたりともお互い目を見開いて頷き合って、ノア様が執事に目配せをして人払いをした。

「エディ、ジョイスは君に何をしたの?言うのは嫌かもしれないけど、私に教えてくれるかな?」

「僕が犬を触りたいのに気が付いて触らせてくれたんだけど、しばらく触って遊んでいたら急に怒って髪を引っ張ってきたんだ。後ろに転んで、頭を打ったのに謝ってくれなくて。痛くて泣いていたら無理やり立たせて、ちゃんと話せって怒るんだ。ジョイスがいつも怒るばかりして、僕とちゃんと話そうとしないのに勝手なことばっかり」
 
 ノア様に全部聞いてもらわなきゃ!と僕は敬語も使わずにまくしたてた。無礼だったけどノア様と母様は頷きながら聞いてくれる。

「犬と遊んで嬉しくて笑っていたのが何で悪いの?ジョイスはいつも僕がそんな顔を見せないって怒るけど、いつも意地悪なことをして来るのになんで笑えるの?それから急に僕のこと抱き締めて放してくれないんだ。放してって言っているのに放さなくて、急に僕の耳を噛んだんだ」
「え!そんな愚かなことを!?あ、ごめん話の途中で邪魔しちゃったね。続けてくれる?」
 
 ノア様が頭を抱えてため息をつき、母様はなんとも言えない困った顔をしていた。

「いつもと違って怖いし気持ち悪かった。僕、思いっきり足を踏んで逃げたんだ。ジョイスは僕より足が速いから捕まるかと思ったけど追いかけて来ずに東屋に行っちゃった」
「どう違ったの?」
「顔も見たくなくてそっぽ向いたら、首筋に顔をうずめてハアハアうるさくて。思いっきり抱き締められて熱いし苦しくて嫌だった。それから耳がぬるぬるして気持ち悪かった。僕のことが嫌いだから、あんな気持ち悪いことをしたんだ。だから僕が塔に行った方がいいと思います。」

 触ると少しだけ歯形がついていてきっと赤くなっている僕の耳を見て、ふたりとも大きなため息をついた。

「ジョイスが本当に申し訳ないことしました」
 ノア様は僕の手を取って頭を下げた。ノア様は何にも悪くないのに。

「僕のこと嫌いなら嫌いって言ってくれればいいのに」
「ごめんね、あのバカは君のことが好きで好きで堪え切れずにやっちゃったんだよ。大好きだからって許されることじゃないけどね。犬と楽しく遊んでいるのに嫉妬して、君を独り占めにしたくて抱き着いたんだよ。そこで思いとどまってくれて本当によかったよ」
「え?もっとひどいことするつもりだったの?あれより気持ち悪いこと?」

 僕は怖くなって思わず母様に抱き着いてしまった。母様は頭と頬を優しく撫でてくれたのでちょっとだけホッとした。

「ジョイスは心よりも身体の方が先に大人になってしまったんだよ。恋人や伴侶にすることをお前に許しを得ずにしてしまったんだ。まだ心も身体も大人になっていないお前には理解するのは難しいし、とても怖かったはずだ。母様がちゃんと気を付けていなかったから、お前をこんな目に合わせてしまった。ごめんね、エディ」
「あの気持ち悪いことってみんなするの?もしかして父様も母様にするの?」
「まだそういったことはちゃんとエディには説明してなかったね。うちに帰ったら、ちゃんと教えてあげるから」

 母様は僕の額にキスをして、隣の椅子に座らせた。

「ジョイスは成人していたのに、こちらがちゃんと配慮すべき問題でした。申し訳ありませんでした」

 ノア様が僕と母様に頭を下げた。そういえばさっきもだけど爵位が上の方が下位に謝罪することはとても珍しいことのはずだ。
   お祖父様が仲がいいだけじゃなくノア様と母様は親友同士とはいえ、それだけのことをジョイスがやったんだということは僕にも分かった。

「いえ、こちらもそうです。いつまでも子供だと思ってしまって、自分を護るためのちゃんとした性教育をしていませんでしたから」

 え?ジョイスが成人していた?性教育って言ったよね?もしかして、これって!僕はなんとなく性の話と分かって、恥ずかしくて顔が真っ赤になった。
 どうしよう、いまいち内容は理解できないけれど、親とこんな話をしているなんて。逃げたい、誰もいない塔の中に今すぐ逃げたい。

「ジョイスのことは申し訳なかったけれど、君が代わりに塔に行くのは違うよ。アディの意志をオズワルド伯がお認めになったんだ。これは分かるよね?」

 ノア様が僕の頭を優しくなでる。

「お祖父様が決めたことだと承知しています。父様は好きな人と結婚できて幸せだって毎日言っています。でも僕はジョイスを好きになれるか分からないです」
「結婚するまでまだ時間は十分にあるから急ぐことはないよ。塔にアディが行くことと今日のことで君も混乱しているだろうから、これについてはまたゆっくりと話そう。私はエディにお義母様と呼ばれたいことは覚えておいてね?」

 寂しそうにノア様が微笑むので僕はそれ以上何も言えず、分かりましたと答えるしかできなかった。

 噛まれた耳はこの位は大丈夫だと思うが念のためにと消毒してガーゼで傷口を抑えてくれた。
 エディはジョイスが大嫌いだった。記憶が戻ってから初めて会ったばかりだけれど僕もジョイスが大嫌いだ。
   入院生活中にこんな意地悪なことをする人には会ったことがなかったので本当に困っている。

 エディとしての記憶だと、天使のような可愛い双子だとか、母様に似て綺麗になるとかそういったことしか言われたことがない。
   どこにでもいる黒髪黒目の日本人顔だった僕としては気恥ずかしいけれど、鏡を見たら確かにそう思う。すごい可愛い。
 今日もお出迎えの時に、グレイがいつも可愛いとかどんどん美しくなると僕らを褒め称えた。主にアディ相手に言っているんだろうけどね。

 お世辞もあるんだろうけど、婚約者がもういるのかと残念がられることが多かった。
   宰相閣下のお孫さんが羨ましいとか、公爵家の彼らには敵わないとか。有力貴族だから僕らを婚約者にできたと、自分の爵位や地位の低さを嘆いて見せる人も何人かいた。
   正直に言えば何でも家柄のせいにする人はあまり話もしたくはない。

 求愛して来るその誰もが、僕達の見分けがついていなかった。それなのに愛しているとか意味が分からない。
 ジョイスにだって僕らの見分けがついているのに。言葉は悪いし比べるのも変だけどみんなジョイス以下で絶対に好きになれそうにもない。
   僕は一生独身で構わない。犬や猫に囲まれてひっそりと暮らしたい。

 あと僕らが可愛いから容姿だけで彼らを落としたんだろうと嫌味を言う人もいた。これはグレイだけじゃなくてジョイス狙いの子達からも言われた。親が決めたことなのに冗談じゃない。
 グレイは分かるよ、とっても素敵だもの。アディのためならなんだってするし、喜ばせるために贈り物をしてくれたりデートで色々と連れ出してくれた。それには僕もジョイスも必ず一緒に行くことになったけれど。

 ジョイスとの仲を妬んだ人から顔だけのくせにと言われた時に、好きでこの顔に生まれたわけじゃないとウェスリー兄様の前で泣いたことがある。
   それは産んでくれた母様に感謝すべきことであって、悪く言ってはいけないことだと兄様に諭された。

『でもここだけの話、正直に言うと気持ちは分かるよ。僕も僕自身のことを知らないくせに顔だけで求愛されるから困って、従兄弟のジェスロに恋人のふりをしてもらったこともあるからね』とウェスリー兄様は慰めてくれた。
 その従兄弟からウェスリー兄様と結婚するつもりだったと最近教えてもらった。病気でも子供が出来なくてもよかったんだそうだ。勇気を出す前に隣国に連れ去られたと一年以上落ち込んでいたそうだ。
   兄様は幸せになったけれど失恋したと従兄弟から聞いて恋って難しいんだなと思ってしまった。

 ウェスリー兄様から見た目で寄ってくる相手から回避する方法を教えてもらった。
   誘われたり言い寄られて困る時は、ジョイスに叱られますとかジョイスに聞いてみないと分かりませんとか、しつこく名前を呼ぶように言う相手には宰相閣下にあなたをファーストネームで呼んでもよいかをお伺いしてみても?と言って逃げることにした。

 僕へのやっかみは、ジョイス様にそうお伝えしますね?と悲しそうに言うだけであまり言われなくなった。
   世間的に立派な婚約者がいることが分かるだけで、言い寄ってくる人が少なくなったことは感謝している。
 でもその婚約者様と結婚したいかと言われたら別だ。愛しているとか僕にはまだよく分からないけど、ジョイスのことは大嫌いだ。

 アディとグレイが手を繋いで来たのを見て、僕はますます罪悪感で一杯になった。

「耳、どうしたの?」
「ああ、エディはちょっと散歩中に庭でけがをしたんだよ。大丈夫だから」
 とっさに母様がアディの質問に答えてくれてよかった。よく分からないけれど性の話とやらをアディとグレイの前で言えないよ。

 お茶会が始まるギリギリにジョイスが登場した。僕の耳のガーゼに気が付くと顔を真っ赤にしてその場を離れようとして、ノア様にさっさと席に着くようにと叱られた。
 ジョイスはノア様達に僕への意地悪がばれたことに勘づいて居心地が悪そうにしていた。僕だって居心地が悪いよ。逃げたい、早く家へ帰りたい。
 そうこうしているうちにお茶会も無事に終わり、不貞腐れてこの場から消えようとするジョイスをグレイが僕の目の前に引っ張って来た。

「ジョイス、なんでお前はそんなに素直じゃないんだ!ほら、エディに誕生日の贈り物を渡しなさい」

 お揃いの腕輪は公爵家からの贈り物で、毎年恒例で婚約者には別々に贈り物を用意してくれていた。
 渋々とジョイスはとてもきれいな銀細工に緑色の宝石を嵌め込んであるピアスを渡してきた。それはジョイスの髪と瞳の色だった。
   この国では恋人に自分の瞳と同じ色の物を贈る習わしがある。

「それ、ジョイスが選んだんだよ。ほら、ちゃんとエディに言わないと判ってもらえないよ?」
「あ、ありがとう。すごくきれいだね」

 目すら合わそうとしないジョイスにはそれしか言えない。だって余計なこと言ったらまた嫌なことをされそうで怖い。耳を噛む以外にいったい何をされるんだろうか。
 これを貰ったからには、耳にピアスの穴を開けなきゃいけないんだよね。痛そうで嫌だなとかしか思いつかない。

「アディ、これは僕からだよ」

 グレイは腕輪と同じ細工のアンクレットを取り出して、アディの足元にひざまづいて足首にはめた。腕輪とは少し違ってグレイの瞳と同じ色の宝石がきらめいていた。

「ありがとう、腕輪と同じ細工なんだね。グレイの瞳の色でうれしいよ」
「気に入ってもらえた?」

 グレイはアディの笑顔に嬉しそうに微笑むと、大きな宝石のついた指輪を取り出してアディの手を取りそっと指にはめた。

「愛している、アディ。この指輪は当主の伴侶に代々伝わっているものだよ」
「えっ?」

 アディは顔を真っ赤にしていた。海外のドラマや映画のプロポーズみたいで16歳とは思えない。グレイは若い頃の宰相閣下によく似ているってお祖父様が言っていたな。

 グレイはこんなにもアディのことが好きなのに、今日でお別れになるんだ。僕だけ塔に入らないってずるいよね。やっぱり僕が入ればいいんだ。僕が何でジョイスと結婚するんだろう。
   それにこれからひとりでこの世界でやっていけるのかって心配もある。怖いし悲しいし、僕はどうしたらいいんだろう。

「痛い!」

 僕がふたりのやり取りを見ながら罪悪感でいっぱいになっていると、ジョイスが力いっぱい髪を引っ張ってきた。めちゃくちゃ痛い。

「そっちばっかり見んな。こっち向けよ!」
「やだ!なんでいつも僕に意地悪ばっかりするの?何でこんなことするの?ジョイスなんて大嫌い!君なんかと結婚したくない!」

 ジョイスの仕打ちに僕は耐えられなくなって、後先を考えず思いっ切りジョイスに平手打ちをしてしまった。ジョイスは思いもよらなかったようで、叩かれた頬を押さえて茫然としていた。
 僕は慌てて母様とノア様の後ろに隠れた。初めて人を殴ったことは衝撃的で、僕は耐えられず声を上げて泣き出してしまった。

「私は今朝も言いましたよね?ジョイス、エディに謝りなさい」
「・・・申し訳ありませんでした。どうかお許し下さい」

 ノア様の冷たい声にジョイスは仕方なく謝罪しているようだ。怖くてジョイスの顔が見れない。

 いつもは子供の喧嘩に口出す両家ではないけれど、今日はそうはいかなかった。母様は泣く僕を抱き上げると暇を願った。
 

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