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さん。
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「さあ奥様方、お茶の用意が出来ましたからコチラへ~」
泣き出した妻達を連れ出す侍女。
「若旦那様方はコチラへ」と、遠慮なく私達を叩き、恐ろしい笑顔を向けるタマオ。「なぜココに」と聞けば「三日前に大旦那様の指示で此方へ来ました」と。
別室へ移り、私達の前に座り腕を組むタマオの姿に条件反射で背筋が伸びる。
私達はよぉく知ってる。タマオのお説教スタイルだ。
「屋敷を管理する者達の話では、二年前奥様方は此処に放置され、暫く泣き暮らしておられたそうです」
はい。そーですよね……。
「ここには管理人の老夫妻と孫だけ。料理人もいない。侍女もいない。このような場所に置き去りにされ、どれほど不安で、心細かったか」
はい、申し訳ありません……。
「学園でも婚約者を放置し、他の女を追いかけ回すイルジオン様とニージオ様の姿に心を痛め、お二人とも身体を壊されたそうです。イーシア様は眠れず食事も喉を通さず、どんどん痩せ、肌はカッサカサに乾ききり青い顔色を厚い化粧で誤魔化しておられたとか」
「うぐ……」
浮かぶのは学園での異界からの召喚魔のような姿。あの表情のない真っ白に塗られた顔は顔色を隠すためだったのか……。
「ニィチェル様はストレスから甘いお菓子を過剰に摂取し、体重も三倍に増えたとか」
「うぐ……」
拳をにぎりしめたニージオも、色々思い出しているのだろう。
「しかし幼馴染で親友であられる奥様方は、世話をする者のいないこの屋敷の中で二人だけでなんとかしようと、ご実家へ訴えることもなく、管理人夫妻に料理も、掃除も、洗濯も。全てイチから教わったそうです。今では身の回りのことは全て、ご自分達でされているそうですよ」
『うぐ』
「イーシア様は手先がとても器用で、侍女がいなければ着ることのできない手持ちのドレスを一人で着れるシンプルなものへと作り変え、今では着るものは全てご自分で作られるそうですよ。その時にドレスから外したレースやリボンを使って作ったコサージュや髪飾りが街では人気になり、今では店に卸して収入を得るほどとか、まったくドレスの一枚も贈ることのない甲斐性なしが旦那様ですからご苦労されたそうです」
「ぐはっ」
タマオの言葉が刺さった。
「ニィチェル様はお菓子作りが趣味でいらっしゃるそうで、趣味が高じて菓子職人に弟子入りをされた経験もおありだとか。孤児院へ差し入れていた菓子が人づてに広まり、数件の菓子店から扱わせてほしいと請われ、今では手作りのお菓子を店へ卸すようなったそうで、予約を入れなければ手に入らないほどの人気ぶりだそうですよ。旦那様が食費すら入れない甲斐性なしなのでご自分で収入を得なければならないなんて、本当に、ご苦労されたようです」
「ぐふっ」
横でうめき、胸をおさえるニージオ。
「管理人夫妻と共に、裏庭には花ではなく野菜やハーブを育て、日々の糧にされているそうです。ここでの暮らしに慣れ、街で人と接し、笑顔を取り戻されたお二人は、ストレスから解消されたようでイーシア様は食事量も増え、ニィチェル様は規則正しい生活から偏食がなくなったそうです。ハーブを使ったお茶や天然の化粧水の効果もあったようで肌質も改善し、今ではあのようにお元気になられたのだと、そう管理人から聞いております」
『…………』
胸が痛くて声も出ない。
「浮気者で甲斐性なしの旦那様を持つと女性は逞しくなるのです。もっとも、旦那様方はおねだりだけするような女性の方が、好みの様ですが」
『ぐふっ』
もう前のめりで倒れそうな私達。
「王都での一件はご実家を通して、すでに奥様方の耳にも入っております。“旦那様は監視の役目を終えた”と、そうお二人はおっしゃっていますが? 旦那様方、奥様をこれからどうなさるおつもりですか?」
目が合ってもすぐに伏せられたスミレ色の瞳には、怯えしか見えなかった。しかし。
『離縁はしたくない!』
力強く私達は叫んだ。
「今さらだと分かってる。私は、自分のしたことを彼女に詫び、ふ、夫婦として、イチからやり直したいんだ」
正直離縁を求められたら「オーケー、いいよ!」と応じる気だった。外聞なんて関係ない。自分がしたことは最低なものだ。でもさ、異界の召喚物だと思っていたモノが、まさか、あんな、私の理想がそのまま具現化されてような女性だとか! しかも、もう“妻”だよ! 関係修復に土下座が必要なら余裕でスライディング土下座もするさ!
「何だってする、許されるまで。土下座でも、靴に口づけでも、踏みつけられてもいい、いや、むしろ踏まれたい! こ、こんな近くにオレの天使がいたんだから!」
ニ、ニージオくん!?
鼻息荒く、目をギラつかせたニージオにタマオも私も引きつつも、理解した。
ニィ君、幼女大好きだったもんな。
好みドストライクが自分の妻だったんだから、そりゃ、手放せるわけがない。
「安心しましたわ、旦那様方」
“よく出来ました”の時のイイ笑顔をするタマオ。
「このタマオ、全力で旦那様方を応援いたしますわ!」
兄貴っ! と心で叫んでしまうほどタマオの姿は逞ましく輝いて見えた。
「お二人とも旦那様から贈られる花をとても喜んでおられたそうですから、きっとうまくいきますわ! さぁ、奥様に会いに行きましょう!」
「…………」
「…………」
『花?』
私とニージオは同時に首を傾げていた。
***
ノックする手を宙に浮かせたまま、扉の前に立ち尽くしていた。
イーシアの部屋の前。
うわぁ、ど、どうしよう、緊張する。怯えていたんだよ? 私を見て。王都での一件を聞かされて、無実でこんな扱いをされたことへ怒るではなく、怯えていたんだよ。目を潤ませて、あぁ、胸が痛い。もう罪悪感で死にそうなんですけど、どうしよう「チッ」耳に届いた舌打ちに振り向けば、タマオが“さっさと行けや、このヘタレがっ”って顔で私を見ていて息が止まった。
わかりました、行くよ、行きますよ!
ノックの後の「はい」って声にも不安さが混じってる。
心臓ぎゅうぅってなったわ。
「失礼、する……」
「ど、どうぞ、こちらへ」
ソファーを勧める手が震えているのがわかる。
うわぁ、めっさ、怯えられてるんですけど! もう泣きそうなんですけど、私!
ソファーに座り、タマオがお茶を入れてくれるのを黙って見ていたが「では、失礼します」と出て行くタマオ。“置いていかないで!”と念を送ってみたが、扉が閉まる瞬間、“漢を見せろ”とイイ笑顔で念が飛んできた。
覚悟を決め、頭を下げた。
「す、すまなか「私はもう邪魔ですか!?」は?」
被さる言葉に顔を上げれば、大きな瞳いっぱいに涙を溜めたイーシア。
「え!?「私はリリーティア様のように美しくありません」えぇ!?「でも、政略でも、イルジオン様と婚約できてうれしかったのです!」っ!?「イルジオン様の心が私になくても!」ちょ、「アンジェリーナ様のことで誤解されたままでも!」まっ「貴方の妻でいたかった!」ふぁ!?」
ちょ、待って、これって、これって。
私のこと好きって意味ですかーーーー!?
脳内の情報処理が追いつかず固まっていたら、イーシアは苦しそうに顔を伏せてしまった。
しまった! ここはいいこと言うとこだろ! っていいことって何!? ヘルプ! タマオ!
「愛されていないのは知っていました。でも変わらず贈ってくださる花と「は、花!?」花言葉の書かれたカードに期待してしまって「カード!?」花にイルジオン様と私の瞳の色があることが嬉しかったのです。今年の誕生日に送られたこのブローチも」
イーシアがショールを留めるブローチを撫でるが、知らない。花? カード? 誕生日のブローチ? ナニソレ? 私贈ってナイよ? どゆこと?
「イルジオン様と私の色があることが嬉しかったのです。
名ばかりの妻であっても、この繋がりを無くしたくなかったのです……」
きゅん。
泣き出した妻達を連れ出す侍女。
「若旦那様方はコチラへ」と、遠慮なく私達を叩き、恐ろしい笑顔を向けるタマオ。「なぜココに」と聞けば「三日前に大旦那様の指示で此方へ来ました」と。
別室へ移り、私達の前に座り腕を組むタマオの姿に条件反射で背筋が伸びる。
私達はよぉく知ってる。タマオのお説教スタイルだ。
「屋敷を管理する者達の話では、二年前奥様方は此処に放置され、暫く泣き暮らしておられたそうです」
はい。そーですよね……。
「ここには管理人の老夫妻と孫だけ。料理人もいない。侍女もいない。このような場所に置き去りにされ、どれほど不安で、心細かったか」
はい、申し訳ありません……。
「学園でも婚約者を放置し、他の女を追いかけ回すイルジオン様とニージオ様の姿に心を痛め、お二人とも身体を壊されたそうです。イーシア様は眠れず食事も喉を通さず、どんどん痩せ、肌はカッサカサに乾ききり青い顔色を厚い化粧で誤魔化しておられたとか」
「うぐ……」
浮かぶのは学園での異界からの召喚魔のような姿。あの表情のない真っ白に塗られた顔は顔色を隠すためだったのか……。
「ニィチェル様はストレスから甘いお菓子を過剰に摂取し、体重も三倍に増えたとか」
「うぐ……」
拳をにぎりしめたニージオも、色々思い出しているのだろう。
「しかし幼馴染で親友であられる奥様方は、世話をする者のいないこの屋敷の中で二人だけでなんとかしようと、ご実家へ訴えることもなく、管理人夫妻に料理も、掃除も、洗濯も。全てイチから教わったそうです。今では身の回りのことは全て、ご自分達でされているそうですよ」
『うぐ』
「イーシア様は手先がとても器用で、侍女がいなければ着ることのできない手持ちのドレスを一人で着れるシンプルなものへと作り変え、今では着るものは全てご自分で作られるそうですよ。その時にドレスから外したレースやリボンを使って作ったコサージュや髪飾りが街では人気になり、今では店に卸して収入を得るほどとか、まったくドレスの一枚も贈ることのない甲斐性なしが旦那様ですからご苦労されたそうです」
「ぐはっ」
タマオの言葉が刺さった。
「ニィチェル様はお菓子作りが趣味でいらっしゃるそうで、趣味が高じて菓子職人に弟子入りをされた経験もおありだとか。孤児院へ差し入れていた菓子が人づてに広まり、数件の菓子店から扱わせてほしいと請われ、今では手作りのお菓子を店へ卸すようなったそうで、予約を入れなければ手に入らないほどの人気ぶりだそうですよ。旦那様が食費すら入れない甲斐性なしなのでご自分で収入を得なければならないなんて、本当に、ご苦労されたようです」
「ぐふっ」
横でうめき、胸をおさえるニージオ。
「管理人夫妻と共に、裏庭には花ではなく野菜やハーブを育て、日々の糧にされているそうです。ここでの暮らしに慣れ、街で人と接し、笑顔を取り戻されたお二人は、ストレスから解消されたようでイーシア様は食事量も増え、ニィチェル様は規則正しい生活から偏食がなくなったそうです。ハーブを使ったお茶や天然の化粧水の効果もあったようで肌質も改善し、今ではあのようにお元気になられたのだと、そう管理人から聞いております」
『…………』
胸が痛くて声も出ない。
「浮気者で甲斐性なしの旦那様を持つと女性は逞しくなるのです。もっとも、旦那様方はおねだりだけするような女性の方が、好みの様ですが」
『ぐふっ』
もう前のめりで倒れそうな私達。
「王都での一件はご実家を通して、すでに奥様方の耳にも入っております。“旦那様は監視の役目を終えた”と、そうお二人はおっしゃっていますが? 旦那様方、奥様をこれからどうなさるおつもりですか?」
目が合ってもすぐに伏せられたスミレ色の瞳には、怯えしか見えなかった。しかし。
『離縁はしたくない!』
力強く私達は叫んだ。
「今さらだと分かってる。私は、自分のしたことを彼女に詫び、ふ、夫婦として、イチからやり直したいんだ」
正直離縁を求められたら「オーケー、いいよ!」と応じる気だった。外聞なんて関係ない。自分がしたことは最低なものだ。でもさ、異界の召喚物だと思っていたモノが、まさか、あんな、私の理想がそのまま具現化されてような女性だとか! しかも、もう“妻”だよ! 関係修復に土下座が必要なら余裕でスライディング土下座もするさ!
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ニ、ニージオくん!?
鼻息荒く、目をギラつかせたニージオにタマオも私も引きつつも、理解した。
ニィ君、幼女大好きだったもんな。
好みドストライクが自分の妻だったんだから、そりゃ、手放せるわけがない。
「安心しましたわ、旦那様方」
“よく出来ました”の時のイイ笑顔をするタマオ。
「このタマオ、全力で旦那様方を応援いたしますわ!」
兄貴っ! と心で叫んでしまうほどタマオの姿は逞ましく輝いて見えた。
「お二人とも旦那様から贈られる花をとても喜んでおられたそうですから、きっとうまくいきますわ! さぁ、奥様に会いに行きましょう!」
「…………」
「…………」
『花?』
私とニージオは同時に首を傾げていた。
***
ノックする手を宙に浮かせたまま、扉の前に立ち尽くしていた。
イーシアの部屋の前。
うわぁ、ど、どうしよう、緊張する。怯えていたんだよ? 私を見て。王都での一件を聞かされて、無実でこんな扱いをされたことへ怒るではなく、怯えていたんだよ。目を潤ませて、あぁ、胸が痛い。もう罪悪感で死にそうなんですけど、どうしよう「チッ」耳に届いた舌打ちに振り向けば、タマオが“さっさと行けや、このヘタレがっ”って顔で私を見ていて息が止まった。
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ノックの後の「はい」って声にも不安さが混じってる。
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「失礼、する……」
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ソファーを勧める手が震えているのがわかる。
うわぁ、めっさ、怯えられてるんですけど! もう泣きそうなんですけど、私!
ソファーに座り、タマオがお茶を入れてくれるのを黙って見ていたが「では、失礼します」と出て行くタマオ。“置いていかないで!”と念を送ってみたが、扉が閉まる瞬間、“漢を見せろ”とイイ笑顔で念が飛んできた。
覚悟を決め、頭を下げた。
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被さる言葉に顔を上げれば、大きな瞳いっぱいに涙を溜めたイーシア。
「え!?「私はリリーティア様のように美しくありません」えぇ!?「でも、政略でも、イルジオン様と婚約できてうれしかったのです!」っ!?「イルジオン様の心が私になくても!」ちょ、「アンジェリーナ様のことで誤解されたままでも!」まっ「貴方の妻でいたかった!」ふぁ!?」
ちょ、待って、これって、これって。
私のこと好きって意味ですかーーーー!?
脳内の情報処理が追いつかず固まっていたら、イーシアは苦しそうに顔を伏せてしまった。
しまった! ここはいいこと言うとこだろ! っていいことって何!? ヘルプ! タマオ!
「愛されていないのは知っていました。でも変わらず贈ってくださる花と「は、花!?」花言葉の書かれたカードに期待してしまって「カード!?」花にイルジオン様と私の瞳の色があることが嬉しかったのです。今年の誕生日に送られたこのブローチも」
イーシアがショールを留めるブローチを撫でるが、知らない。花? カード? 誕生日のブローチ? ナニソレ? 私贈ってナイよ? どゆこと?
「イルジオン様と私の色があることが嬉しかったのです。
名ばかりの妻であっても、この繋がりを無くしたくなかったのです……」
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