4 / 8
04
しおりを挟む
「ね……、ジェンダ、あれから、カルラド様に会った?」
「んーん、棟も階も違うし、王宮じゃ会うことなんてないわよ?」
見えても豆粒よ? にアンシェルは少し笑った。
「そう、よね」
フォークを持つ手が止まる。
「あー、殿下たちってシルク工房の視察行ったらしいから、後処理で忙しい時でしょ? ほら王妃様への報告に」
「そんな時期だったわね」
思い出すように呟き、カトラリーから手が離れた。
「ねぇ、ジェンダ、私、カルラド様と別れた方がいいと思うの」
きた。
その考えを内に秘めていたのは気づいていた。いつかは言い出すと思っていたからジェンダに動揺はなかった。
「今はダメよ」
どうして、と顔を上げたアンシェルは、反対されるとは思っていなかったようだ。
「あなたのお父様、もともとこの婚姻に反対してたのは分かってるよね」
こくりと頷く。
「王妃様もね」
しばらく視線が揺れ、ゆっくりと頷いた。
「今、離縁すれば、ううん、したいってだけでも知られたら、あなたのお父様と王妃様はこの婚姻自体を白紙に戻すでしょうね。何もなかったことにして、そしてアンシェル、あなたは次期王妃として王宮に上がることになるわ。そうなると、お腹の子もどうなるか分からない」
アンシェルにしては、そこまで考えが及ばなかったのか、息をのんだ。
「だから、もう少し、もう少しだけ待ってほしいの」
アンシェルの瞳にまた潤むものが溜まっていく。
妃教育から表情を抑えることを学んだはずなのに、カルラドと一緒になって感情のままにと、随分表情豊かになったものだと、涙を拭いてやる。
「この屋敷では私と母様があなたを守るわ、知ってるでしょ? うちの母様が強いの」
「うん、前魔術副団長だったね」
「バリバリ現役よ、ここにいれば必ず守るから」
「うん」
笑ったアンシェルに安堵し、ジェンダは先ほどから気になっていたモノを指差した。
「ねぇ、アンシェル、あなたニンジン、食べれるようになったって言ってなかった?」
そっと目をそらすアンシェル。
「カルラド様の前では、ちゃんと食べてたわ……」
頬を膨らませる姿は少女のようで、皆が憧れる淑女とはほど遠い。
そんなアンシェルの頬を指で潰してやる。
「ぶっ、もうっ」
くすくすと笑い合う。
「食べな」
しゅんと眉を下げたアンシェルにまたジェンダは笑いが止まらなかった。
カルラドがしようとしていることは、今はまだ言えないから、言えることは『待って』と、だけ。
*
「見て見て! コレなんてどう?」
「マリンによく似合ってるよ」
「この色の方が似合うんじゃないか?」
こうして店に立ち寄るのは五件目。
「マリン、もう行こう」
珍しく第一王子、マティアスが声をかける。
「えぇー」
ぷくりと頬を膨らませるマリンにカルラドが声を上げる。
「どうしたのですか、マティアス様、視察が終わったのですから、ゆっくりさせたらいいじゃないですか」
カルラドの腕に抱き着きそうだそうだと、こくこく頷くマリン。
「いや、早く戻って、報告書を書かねばならないだろう」
珍しい言葉にレナルドが瞬きを繰り返す。
「報告書なら、オレとレナルドで用意しますから、マティアス様ももう少しゆっくりしてください」
「しかし……」
「マティアス様、ね!いきましょうよ!」
マリンに腕を引かれ、店へと入るマティアス殿下を見送り、「珍しいな、マティアス様が、仕事の心配なんて」と、護衛騎士、脳筋フリスには気づけなかったようだが、今回の視察で、第二王子クリフト殿下とシルヴィア嬢に対する領主、領民の態度に気づくものがあったのだろう。
だが、もう、遅い。
カルラドはいつもの笑みを貼り付け、マティアスの後ろ姿を見つめた。
視察からの帰路は、観光と買い物で行きの五倍の時間をかけての帰途となった。
*
そして、王妃へのシルク工房の視察報告会は、マリンがレナルドとカルラドの作った資料をそのまま読み上げ、前回と同様、蚕の繁殖率、ホワイトシルク、パールシルクの生産を上げ、上期と比較し増加したことを伝えた。
「そう、虹色蚕が1割も増えたことは素晴らしいわ」
王妃の言葉に第一王子マティアスにマリンも、自分の功績でもないことだというのに満足そうに頷いた。
「では、シルヴィア」
「はい、こちらをご覧ください」
「なっ」
王妃へと渡された視察結果は、マリンに用意された資料の三倍もの量に思わず声が出るマティアス。
王妃はちらりとカルラドに視線を向け、シルヴィアの資料を手にした。
「こちらは、藍蚕の餌である青イチゴの葉についてですが、昨年になって藍色の濃度に影響が出たのは、北から輸入された餌である可能性があることが分かりました。昨年は二割、今年は三割、北から青イチゴの葉は輸入されています。餌は自領のものと同じ蔵で保管されていましたが、北の餌だけを与えたと思われる養殖場が一件。こちらが、その藍蚕のシルクです」
木箱から取り出されたのは、美しい光沢を持つ真っ青なハンカチだった。
「お、おぉ、これは……」
王妃が腰を浮かせた。
シルヴィアの説明が続く中、王妃はハンカチの手触りを確かめ、光にかざし、シルヴィアの言葉に満足げに何度も頷いていた。
「──ですから、まだ濃度の安定には改良が必要とのことですが、来年は輸入餌を増やすことと共に、北と国内の青イチゴ品種の違いについても調査を行っていくことが決まっております」
そう締めくくり、シルヴィアが美しい礼を取り第二王子クリフトの隣へと下がった。
満足げな顔のクリフト殿下と、拳を震わせるマティアス殿下。
「ふっ、ふふふ、シルヴィア、そなたがアンシェルの後を継ぐというのね、ふふ、いいわ! わたくしの工房はシルヴィアに任せましょう」
「そんな!」
「お待ちください! どうしてですかっ! シルク工房は代々王妃が引き継いできたものですよ!」
マティアスとマリンを無視し、王妃は告げる。
「シルヴィア、そなたの手で王家の藍、ロイヤルブルーの復活を叶えなさい」
シルヴィアは深く腰を折り王妃の言葉を受けた。
「お任せ下さいませ」
*
「ねぇ、ボクのシルヴィアは優秀だろう?」
シルク工房の報告会の翌日、カルラドに声をかけたのは第二王子クリフトだった。
周囲に視線を巡らせるカルラドに側の部屋を指差す。
「君がくれた姉様の手記、あー、はいはい、笑顔でおっもい魔力漏らさないでよ、息苦しいから。そうだね、もう姉様じゃなかったね」
ごめんごめんって~と手を振るクリフト殿下。
「アンシェルの資料役に立ったよ、特に走り書きのメモがさ。彼女、とっくに餌の違いに気づいていたんだねぇ……、ねぇ、いいの? 兄上を裏切って、あぁ、違うよね、君は初めから兄上のことを利用してたんだったね!」
面白そうに笑うクリフト殿下にカルラドは跪く。
「私は妻の残したものを無駄にしたくないのです」
「ふふ、いいよいいよ、ボクのシルヴィアがアンシェルの意思を継ごう」
「ありがとうございます」
カルラドは深く、頭を下げた。
「──私、カルラド・クインディルは、クリフト殿下の盾となり、生涯の忠誠を、誓います」
誓い言葉は呪となり第二王子クリフトとカルラドを繋げる。
これはカルラド自身の命を懸けた制約。
「許すよ。ボクの盾、これからはよろしくね」
「んーん、棟も階も違うし、王宮じゃ会うことなんてないわよ?」
見えても豆粒よ? にアンシェルは少し笑った。
「そう、よね」
フォークを持つ手が止まる。
「あー、殿下たちってシルク工房の視察行ったらしいから、後処理で忙しい時でしょ? ほら王妃様への報告に」
「そんな時期だったわね」
思い出すように呟き、カトラリーから手が離れた。
「ねぇ、ジェンダ、私、カルラド様と別れた方がいいと思うの」
きた。
その考えを内に秘めていたのは気づいていた。いつかは言い出すと思っていたからジェンダに動揺はなかった。
「今はダメよ」
どうして、と顔を上げたアンシェルは、反対されるとは思っていなかったようだ。
「あなたのお父様、もともとこの婚姻に反対してたのは分かってるよね」
こくりと頷く。
「王妃様もね」
しばらく視線が揺れ、ゆっくりと頷いた。
「今、離縁すれば、ううん、したいってだけでも知られたら、あなたのお父様と王妃様はこの婚姻自体を白紙に戻すでしょうね。何もなかったことにして、そしてアンシェル、あなたは次期王妃として王宮に上がることになるわ。そうなると、お腹の子もどうなるか分からない」
アンシェルにしては、そこまで考えが及ばなかったのか、息をのんだ。
「だから、もう少し、もう少しだけ待ってほしいの」
アンシェルの瞳にまた潤むものが溜まっていく。
妃教育から表情を抑えることを学んだはずなのに、カルラドと一緒になって感情のままにと、随分表情豊かになったものだと、涙を拭いてやる。
「この屋敷では私と母様があなたを守るわ、知ってるでしょ? うちの母様が強いの」
「うん、前魔術副団長だったね」
「バリバリ現役よ、ここにいれば必ず守るから」
「うん」
笑ったアンシェルに安堵し、ジェンダは先ほどから気になっていたモノを指差した。
「ねぇ、アンシェル、あなたニンジン、食べれるようになったって言ってなかった?」
そっと目をそらすアンシェル。
「カルラド様の前では、ちゃんと食べてたわ……」
頬を膨らませる姿は少女のようで、皆が憧れる淑女とはほど遠い。
そんなアンシェルの頬を指で潰してやる。
「ぶっ、もうっ」
くすくすと笑い合う。
「食べな」
しゅんと眉を下げたアンシェルにまたジェンダは笑いが止まらなかった。
カルラドがしようとしていることは、今はまだ言えないから、言えることは『待って』と、だけ。
*
「見て見て! コレなんてどう?」
「マリンによく似合ってるよ」
「この色の方が似合うんじゃないか?」
こうして店に立ち寄るのは五件目。
「マリン、もう行こう」
珍しく第一王子、マティアスが声をかける。
「えぇー」
ぷくりと頬を膨らませるマリンにカルラドが声を上げる。
「どうしたのですか、マティアス様、視察が終わったのですから、ゆっくりさせたらいいじゃないですか」
カルラドの腕に抱き着きそうだそうだと、こくこく頷くマリン。
「いや、早く戻って、報告書を書かねばならないだろう」
珍しい言葉にレナルドが瞬きを繰り返す。
「報告書なら、オレとレナルドで用意しますから、マティアス様ももう少しゆっくりしてください」
「しかし……」
「マティアス様、ね!いきましょうよ!」
マリンに腕を引かれ、店へと入るマティアス殿下を見送り、「珍しいな、マティアス様が、仕事の心配なんて」と、護衛騎士、脳筋フリスには気づけなかったようだが、今回の視察で、第二王子クリフト殿下とシルヴィア嬢に対する領主、領民の態度に気づくものがあったのだろう。
だが、もう、遅い。
カルラドはいつもの笑みを貼り付け、マティアスの後ろ姿を見つめた。
視察からの帰路は、観光と買い物で行きの五倍の時間をかけての帰途となった。
*
そして、王妃へのシルク工房の視察報告会は、マリンがレナルドとカルラドの作った資料をそのまま読み上げ、前回と同様、蚕の繁殖率、ホワイトシルク、パールシルクの生産を上げ、上期と比較し増加したことを伝えた。
「そう、虹色蚕が1割も増えたことは素晴らしいわ」
王妃の言葉に第一王子マティアスにマリンも、自分の功績でもないことだというのに満足そうに頷いた。
「では、シルヴィア」
「はい、こちらをご覧ください」
「なっ」
王妃へと渡された視察結果は、マリンに用意された資料の三倍もの量に思わず声が出るマティアス。
王妃はちらりとカルラドに視線を向け、シルヴィアの資料を手にした。
「こちらは、藍蚕の餌である青イチゴの葉についてですが、昨年になって藍色の濃度に影響が出たのは、北から輸入された餌である可能性があることが分かりました。昨年は二割、今年は三割、北から青イチゴの葉は輸入されています。餌は自領のものと同じ蔵で保管されていましたが、北の餌だけを与えたと思われる養殖場が一件。こちらが、その藍蚕のシルクです」
木箱から取り出されたのは、美しい光沢を持つ真っ青なハンカチだった。
「お、おぉ、これは……」
王妃が腰を浮かせた。
シルヴィアの説明が続く中、王妃はハンカチの手触りを確かめ、光にかざし、シルヴィアの言葉に満足げに何度も頷いていた。
「──ですから、まだ濃度の安定には改良が必要とのことですが、来年は輸入餌を増やすことと共に、北と国内の青イチゴ品種の違いについても調査を行っていくことが決まっております」
そう締めくくり、シルヴィアが美しい礼を取り第二王子クリフトの隣へと下がった。
満足げな顔のクリフト殿下と、拳を震わせるマティアス殿下。
「ふっ、ふふふ、シルヴィア、そなたがアンシェルの後を継ぐというのね、ふふ、いいわ! わたくしの工房はシルヴィアに任せましょう」
「そんな!」
「お待ちください! どうしてですかっ! シルク工房は代々王妃が引き継いできたものですよ!」
マティアスとマリンを無視し、王妃は告げる。
「シルヴィア、そなたの手で王家の藍、ロイヤルブルーの復活を叶えなさい」
シルヴィアは深く腰を折り王妃の言葉を受けた。
「お任せ下さいませ」
*
「ねぇ、ボクのシルヴィアは優秀だろう?」
シルク工房の報告会の翌日、カルラドに声をかけたのは第二王子クリフトだった。
周囲に視線を巡らせるカルラドに側の部屋を指差す。
「君がくれた姉様の手記、あー、はいはい、笑顔でおっもい魔力漏らさないでよ、息苦しいから。そうだね、もう姉様じゃなかったね」
ごめんごめんって~と手を振るクリフト殿下。
「アンシェルの資料役に立ったよ、特に走り書きのメモがさ。彼女、とっくに餌の違いに気づいていたんだねぇ……、ねぇ、いいの? 兄上を裏切って、あぁ、違うよね、君は初めから兄上のことを利用してたんだったね!」
面白そうに笑うクリフト殿下にカルラドは跪く。
「私は妻の残したものを無駄にしたくないのです」
「ふふ、いいよいいよ、ボクのシルヴィアがアンシェルの意思を継ごう」
「ありがとうございます」
カルラドは深く、頭を下げた。
「──私、カルラド・クインディルは、クリフト殿下の盾となり、生涯の忠誠を、誓います」
誓い言葉は呪となり第二王子クリフトとカルラドを繋げる。
これはカルラド自身の命を懸けた制約。
「許すよ。ボクの盾、これからはよろしくね」
255
お気に入りに追加
2,811
あなたにおすすめの小説
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます

母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました
珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。
なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。

【完結】妹が旦那様とキスしていたのを見たのが十日前
地鶏
恋愛
私、アリシア・ブルームは順風満帆な人生を送っていた。
あの日、私の婚約者であるライア様と私の妹が濃厚なキスを交わすあの場面をみるまでは……。
私の気持ちを裏切り、弄んだ二人を、私は許さない。
アリシア・ブルームの復讐が始まる。

デートリヒは白い結婚をする
毛蟹葵葉
恋愛
デートリヒには婚約者がいる。
関係は最悪で「噂」によると恋人がいるらしい。
式が間近に迫ってくると、婚約者はデートリヒにこう言った。
「デートリヒ、お前とは白い結婚をする」
デートリヒは、微かな胸の痛みを見て見ぬふりをしてこう返した。
「望むところよ」
式当日、とんでもないことが起こった。

「婚約の約束を取り消しませんか」と言われ、涙が零れてしまったら
古堂すいう
恋愛
今日は待ちに待った婚約発表の日。
アベリア王国の公爵令嬢─ルルは、心を躍らせ王城のパーティーへと向かった。
けれど、パーティーで見たのは想い人である第二王子─ユシスと、その横に立つ妖艶で美人な隣国の王女。
王女がユシスにべったりとして離れないその様子を見て、ルルは切ない想いに胸を焦がして──。

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

殿下が私を愛していないことは知っていますから。
木山楽斗
恋愛
エリーフェ→エリーファ・アーカンス公爵令嬢は、王国の第一王子であるナーゼル・フォルヴァインに妻として迎え入れられた。
しかし、結婚してからというもの彼女は王城の一室に軟禁されていた。
夫であるナーゼル殿下は、私のことを愛していない。
危険な存在である竜を宿した私のことを彼は軟禁しており、会いに来ることもなかった。
「……いつも会いに来られなくてすまないな」
そのためそんな彼が初めて部屋を訪ねてきた時の発言に耳を疑うことになった。
彼はまるで私に会いに来るつもりがあったようなことを言ってきたからだ。
「いいえ、殿下が私を愛していないことは知っていますから」
そんなナーゼル様に対して私は思わず嫌味のような言葉を返してしまった。
すると彼は、何故か悲しそうな表情をしてくる。
その反応によって、私は益々訳がわからなくなっていた。彼は確かに私を軟禁して会いに来なかった。それなのにどうしてそんな反応をするのだろうか。

私のことは気にせずどうぞ勝手にやっていてください
みゅー
恋愛
異世界へ転生したと気づいた主人公。だが、自分は登場人物でもなく、王太子殿下が見初めたのは自分の侍女だった。
自分には好きな人がいるので気にしていなかったが、その相手が実は王太子殿下だと気づく。
主人公は開きなおって、勝手にやって下さいと思いなおすが………
切ない話を書きたくて書きました。
ハッピーエンドです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる