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鏡に映るオレのまー、かーわいいこと、かわいいこと。
午前中の茶会を乗り切りったアズラエルは、なぜかやる気のでた侍女たちによって着飾られている。
セルジュから贈られた膝丈のすみれ色のワンピースは、裾や袖からレースが覗き、とても可愛らしい。こんな服着た娘とオレの方がデートしたいわっ!と心でアズラエルが叫ぶほど。
「まぁ、可愛らしい! 本当によくお似合いですわ」
待って、タマオ? その顔、心の底からそう思っているよね?
鏡越しに半眼を向けるが、タマオはにっこりと笑みを深めた。目が語ってる。自業自得だからなって。
はい、さーせん。
待ち合わせは玻璃の東屋。なんやかんや人目があるからと、裏口から街へ出る。
アズラエルもなんやかんかと誤魔化したいことがあるから異論はない。むしろマルティナ王女用の部屋まで迎えに来られる方が色々マズイ。
東屋で、セルジュはいつもよりはラフな格好をしているが、にじみ出る貴族貴族した雰囲気は全く隠せていなかった。そんな男がアズラエルと目が合った瞬間、コチリと固まった。
「セルジュ様?」
固まったまま動かないから目の前で手をひらひらしてみた。おーい、どした、どうしたー?
「いや、その、よく似合ってる」
真っ赤になって顔をそらせるセルジュの様子にアズラエルの頬は引きつる。
似合うとか言われて喜ぶわけないだろ!
***
「うわぁ! 人多いな! 今日、なんか祭りとかあるんですか!?」
「はは、平日はいつもこんな感じだよ」
まじか、平日でコレかよ、うわー。
ハシノ国と比べると全てが数倍違う。
人が多い! 道が広い! 店が多い! 行きかう馬車も多い! 建物も自体もデカい! 密集してる!
「わっ」
「危ない」
珍しさでキョロキョロしながら歩いていると人にぶつかってしまった。
バランスを崩した小柄なアズラエルを支えるのはセルジュ。そしてなぜにか「すまない」「失礼」とぶつかってしまった人と、アズラエルではなく、セルジュが応える。
「ラズリエル嬢、ここは人が多いから」
そして、目の前に差し出された手とセルジュの顔を、目が往復する。
え? 手を繋げと?
「や、そんな、あの、気を付けます……から……」
目が泳ぎ、語尾も消える。
しかし強引に手は握られた。「この方が私が安心できるから」と。
はは。ははは……。女の子と手を繋いだことないのに……。ファースト手つなぎが(母さんとマルティナはカウントしない)男と、かよ……。
静かに心で涙するアズラエル。
握り返すことも出来ないその手はしっかりセルジュに握られていた。
「お腹空きましたよね、工房へ行く前に食事にしましょう、海鮮料理がとても美味しい店があるんです」
「エビ!?」
海鮮=エビ。思わずガバっと上げてしまった期待の表情に、セルジュは道行く老若問わず女性たちがぽぉっと頬染める笑顔で頷き応えた。
その笑顔に一気に正気に戻るアズラエル。
道行くキレイなおねぇさんたちが見惚れるイケメンっぷりに正直にイラっとして、将来ハゲ散れ! と笑顔のまま心で呪った。
エビうまー、さいこー。
連れ込まれた洒落た店の個室には警戒マックスだったアズラエルも、運ばれる海鮮尽くしに尻尾を振る犬のようになっていた。
「うま、うまぁ、エビ」
「ラズリエル嬢はエビが好きなんだね、これも食べるかい?」
「え、いいのぉ?」
なんて言いながら大きなエビを皿にお迎するアズラエル。
やば、今のきゅんってした。エビ分けてくれる男、オレが女だったら惚れてるわ。
食欲にちょろいアズラエル。
うまうま言いながらモグモグするアズラエルをセルジュがどんな顔をして見惚れていたか、なんて、見た目美少女でしかないラズリエルは全く気付かず、エビとデザートを堪能した。
美味かった。ゴチでしたー。
満腹満足のアズラエルは機嫌良く、大人しくセルジュに手を引かれ歩く。
「ラズリエル嬢、この店は“ナナアリア”のデザイナー、ユフィ・アンセルの宝飾品を多く扱っている店ですよ」
「へー……」
名前だけは聞いたことある“ナナアリア”。マルティナがその髪飾りを婚姻前にカリスから貰ったって喜んでいたのを思い出した。恋人から贈られたいブランドだとか。
「あちらの店は王妃のお気に入りで」
「はぁ……」
「あれなんて、ラズリエル嬢によく似合うと思いますよ」
「はぁ……」
「見ていきませんか?」
「は?」
正直に不満が口から出てしまい慌てて押さえるアズラエル。
「や、い、いいえっ、あの、オルガ技師の工房へは、えっと、まだ遠いのかしらー、なーんて、ほほほ」
んなこたぁどーでもいいから、早く工房連れてけよ。が本音のアズラエルは、引くつくこめかみを隠して笑顔で小首を傾げる。
「ラズリエル嬢は本当にからくり時計が好きなんですね」
「え、ええ、ふふ、うふふ、さ、工房へ行きましょっ、ささっと行きましょう、うふふ」
商店街に用はないとセルジュに手を引くアズラエルは、その横顔を眩しそうに見つめるセルジュにもちろん全く気づかないでいた。
午前中の茶会を乗り切りったアズラエルは、なぜかやる気のでた侍女たちによって着飾られている。
セルジュから贈られた膝丈のすみれ色のワンピースは、裾や袖からレースが覗き、とても可愛らしい。こんな服着た娘とオレの方がデートしたいわっ!と心でアズラエルが叫ぶほど。
「まぁ、可愛らしい! 本当によくお似合いですわ」
待って、タマオ? その顔、心の底からそう思っているよね?
鏡越しに半眼を向けるが、タマオはにっこりと笑みを深めた。目が語ってる。自業自得だからなって。
はい、さーせん。
待ち合わせは玻璃の東屋。なんやかんや人目があるからと、裏口から街へ出る。
アズラエルもなんやかんかと誤魔化したいことがあるから異論はない。むしろマルティナ王女用の部屋まで迎えに来られる方が色々マズイ。
東屋で、セルジュはいつもよりはラフな格好をしているが、にじみ出る貴族貴族した雰囲気は全く隠せていなかった。そんな男がアズラエルと目が合った瞬間、コチリと固まった。
「セルジュ様?」
固まったまま動かないから目の前で手をひらひらしてみた。おーい、どした、どうしたー?
「いや、その、よく似合ってる」
真っ赤になって顔をそらせるセルジュの様子にアズラエルの頬は引きつる。
似合うとか言われて喜ぶわけないだろ!
***
「うわぁ! 人多いな! 今日、なんか祭りとかあるんですか!?」
「はは、平日はいつもこんな感じだよ」
まじか、平日でコレかよ、うわー。
ハシノ国と比べると全てが数倍違う。
人が多い! 道が広い! 店が多い! 行きかう馬車も多い! 建物も自体もデカい! 密集してる!
「わっ」
「危ない」
珍しさでキョロキョロしながら歩いていると人にぶつかってしまった。
バランスを崩した小柄なアズラエルを支えるのはセルジュ。そしてなぜにか「すまない」「失礼」とぶつかってしまった人と、アズラエルではなく、セルジュが応える。
「ラズリエル嬢、ここは人が多いから」
そして、目の前に差し出された手とセルジュの顔を、目が往復する。
え? 手を繋げと?
「や、そんな、あの、気を付けます……から……」
目が泳ぎ、語尾も消える。
しかし強引に手は握られた。「この方が私が安心できるから」と。
はは。ははは……。女の子と手を繋いだことないのに……。ファースト手つなぎが(母さんとマルティナはカウントしない)男と、かよ……。
静かに心で涙するアズラエル。
握り返すことも出来ないその手はしっかりセルジュに握られていた。
「お腹空きましたよね、工房へ行く前に食事にしましょう、海鮮料理がとても美味しい店があるんです」
「エビ!?」
海鮮=エビ。思わずガバっと上げてしまった期待の表情に、セルジュは道行く老若問わず女性たちがぽぉっと頬染める笑顔で頷き応えた。
その笑顔に一気に正気に戻るアズラエル。
道行くキレイなおねぇさんたちが見惚れるイケメンっぷりに正直にイラっとして、将来ハゲ散れ! と笑顔のまま心で呪った。
エビうまー、さいこー。
連れ込まれた洒落た店の個室には警戒マックスだったアズラエルも、運ばれる海鮮尽くしに尻尾を振る犬のようになっていた。
「うま、うまぁ、エビ」
「ラズリエル嬢はエビが好きなんだね、これも食べるかい?」
「え、いいのぉ?」
なんて言いながら大きなエビを皿にお迎するアズラエル。
やば、今のきゅんってした。エビ分けてくれる男、オレが女だったら惚れてるわ。
食欲にちょろいアズラエル。
うまうま言いながらモグモグするアズラエルをセルジュがどんな顔をして見惚れていたか、なんて、見た目美少女でしかないラズリエルは全く気付かず、エビとデザートを堪能した。
美味かった。ゴチでしたー。
満腹満足のアズラエルは機嫌良く、大人しくセルジュに手を引かれ歩く。
「ラズリエル嬢、この店は“ナナアリア”のデザイナー、ユフィ・アンセルの宝飾品を多く扱っている店ですよ」
「へー……」
名前だけは聞いたことある“ナナアリア”。マルティナがその髪飾りを婚姻前にカリスから貰ったって喜んでいたのを思い出した。恋人から贈られたいブランドだとか。
「あちらの店は王妃のお気に入りで」
「はぁ……」
「あれなんて、ラズリエル嬢によく似合うと思いますよ」
「はぁ……」
「見ていきませんか?」
「は?」
正直に不満が口から出てしまい慌てて押さえるアズラエル。
「や、い、いいえっ、あの、オルガ技師の工房へは、えっと、まだ遠いのかしらー、なーんて、ほほほ」
んなこたぁどーでもいいから、早く工房連れてけよ。が本音のアズラエルは、引くつくこめかみを隠して笑顔で小首を傾げる。
「ラズリエル嬢は本当にからくり時計が好きなんですね」
「え、ええ、ふふ、うふふ、さ、工房へ行きましょっ、ささっと行きましょう、うふふ」
商店街に用はないとセルジュに手を引くアズラエルは、その横顔を眩しそうに見つめるセルジュにもちろん全く気づかないでいた。
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