噓つきのカラクリ

ひろか

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『余裕があったらそっちでお嫁さん見つけておいで』

 そう言ったのは兄。女装させといてそんな余裕があるかー! と馬車の中で叫んだアズラエル。


 王太子妃候補として集められた王女たちの歓迎会。ふわふわ可愛らしく微笑むの令嬢たちは互いを牽制し合い、この一帯だけ非常に空気が冷たい。そんな中でアズラエルはキラキラした美しい令嬢たちから値踏みされ、侮蔑の視線を投げられ、鼻で笑われていた。
 自分的には豪華な装いも、大きな宝石をこれでもかとぶら下げる令嬢たちには失笑ものだったらしい。
 ギラギラと一番派手なのはハイディエル国の次に大きな国の王女だ。装いから豊な国力を見せつけ、会ったばかりの婚約者候補の中で女王のような風格をみせていた。
 上質な生地も宝石も女性にとっては鎧なのだ。

 アズラエルはそんな令嬢たちの中で、派手派手しい王女様の縦ロールヘアーが気になって仕方がなかった。
 引っ張たらびょーんと伸びそうで、ちょっとやってみたい気持ちを必死に抑えていた。

 現れた王太子は、これまた驚くほどのイケメンだった。美男美女の両親からのいいとこ取りの美貌に文武両道という周囲の期待を裏切らない評価を得ている人物だ。
 『あーやだ、もー、やだ、寝たい、プリン食べたい』とか言いながら弱小国とは言え、王太子という肩書に相応しくあろうと必死に努力してきた兄を側で見ていたから、なんとなく、イケメン王太子の隠れた努力が見えてホロリとしてしまった。

 王太子との顔合わせパーティーでは、初めから決まっていたようにNo2大国の王女の手を取りダンスをするところから始まった。

 あぁー、はいはい。そういうことねー。

 近隣からも王女を集め、あくまでも公平に選んだように見せたい茶番の会場らしい。後はこの中から数人側室を選ぶのだろう。

 めーんーどーくさー。

 このヒールのある靴は安定感悪くつま先が痛い。もう部屋に戻って全部脱いで、痒くなってきたこの化粧も落としてベッドに入りたいのだが、歓迎会はまだまだ始まったばかり。さすがに王太子も集めた令嬢全員と踊るようなことはしないだろうと、コソコソと会場の隅にある飲食コーナーへと向かう。

「うま」

 さすが大国、ご飯が美味い。
 美しく盛られ、小さく一口大にカットされた料理。
 一人何個までなんだろう、とか考えながらもエビを食う、余裕で全部いけると思っていたが、あっさり限界がきた、敵は己の腹を縛るコルセット。

 ジュース片手に柱の陰にある椅子に座り、縛られ固められた腹をさすった。靴脱ぎたいなーとか思いながら。

 王太子の婚約者になりたくて皆必死にアピールしている中で、まさか一人こんな物陰にいるとは思うまい、と。その思惑通り、弱小国の姫、マルティナに扮したアズラエルは誰からも声かけられることなく、パーティーを終えることができた。

 ちなみにエビは全部食べた。


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