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17・しましまさんと贈り物ー2
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十七時のサイレンに、しましまさんを迎えに出た私は、近所の慌ただしさに初めて気がついた。
おじさんが数人、何か叫び合いながら駆けて行く姿と、隣のおばあちゃんの、オロオロと落ち着かない姿が見えた。
「にゃあーん」
「あ、しましまさん、ありがと!」
受け取った総司くんからの手紙を棚の上置き、私は隣のおばあちゃんへ駆け寄った。
帰省した親子の五歳になる女の子が朝、家を出てから戻らないのだと云うのだ。
行方不明になったのは、昨日、メロンのおすそ分けに行った時に出会った親子の、チカちゃんという女の子だった。
地元の男の人たちが川、山と、捜索に入り、捜索の範囲が広がる中、女の子を見かけなかったかと、聞き込みに来たおじさんから、チカちゃんの服装と色を聞き、今朝、チラリとだけ目に入ったスカートの女の子を思い出した。
「私が見たのは、耳の上で結んだ長い髪と、黄緑色のスカートだけで、でも、おばあちゃんと一緒にいたんで」
「おばあさんって、どこの、おばあさんだったんだ?」
そんな言葉に、え? と瞬きをするしかなかった。
チカちゃんのおばあちゃんじゃ、ないってこと?
「あぁ、リカコさん、こっちだ!」
「ユキちゃんが今朝、チカちゃんを見たらしい!」
駆けてくるのは、昨日のしっかり化粧を施した容姿からだいぶ印象が違うが、目を真っ赤に泣き腫らした母親の姿だった。
おじさんに話した内容を繰り返し、リカコさんにも「おばあちゃんって、どこの誰なんですか!?」と、迫られた。
「私は、そのおばあさんの姿も見てませんし、声も、聞いてません、チカちゃんの、おばあちゃんじゃ、ないんですね……」
「私の母は二十年前に亡くなってます!」
「っ……」
誘拐、そんな言葉も誰かから発せられ、リカコさんはその場で泣き崩れてしまった。
「大丈夫、大丈夫だけぇ、みんな、探してくれよるから、なぁ?」
隣のおばあちゃんは、リカコさんの背をさすり、大丈夫だと繰り返していた。
「きのう、私が、チカに怒ったから、人形のことなんかで……、あんなに、ううっ」
「帰って来るから、な?」
「チカは、直してもらうって、出て行って……」
陽は西に傾き、空を赤く染め始めていた。
「ユキちゃん」
背の暖かな温もりに振り向けば、桐矢くんだった。
ホッとしたら涙腺が緩んでしまった。目元を拭われ、肩を抱く桐矢くんの声は優しく温かかった。吐く息は震えていて、自分自身が震えていることに気づいた。
「ユキちゃんは帰ろう、ほら、肩冷えてる」
「ん……」
私は、こんな身近で起こったことに、震えが止まらなくなっていた。
「にゃぁーん」
「しましまさん?」
体を揺らしポテポテと歩いて来るしましまさんは、私の横をすり抜け、リカコさんに体をすり寄せていた。
『りっこちゃんへ
10歳のお誕生日おめでとう!
お母さんより』
今朝しましまさんが拾って来たバースデーカード。
リカコさんのことだったんだ。
気づいたところで、それは、娘のチカちゃんが行方不明なのと別問題だ。
そう、思っていた。
しましまさんの拾い物には意味があるのに。
おじさんが数人、何か叫び合いながら駆けて行く姿と、隣のおばあちゃんの、オロオロと落ち着かない姿が見えた。
「にゃあーん」
「あ、しましまさん、ありがと!」
受け取った総司くんからの手紙を棚の上置き、私は隣のおばあちゃんへ駆け寄った。
帰省した親子の五歳になる女の子が朝、家を出てから戻らないのだと云うのだ。
行方不明になったのは、昨日、メロンのおすそ分けに行った時に出会った親子の、チカちゃんという女の子だった。
地元の男の人たちが川、山と、捜索に入り、捜索の範囲が広がる中、女の子を見かけなかったかと、聞き込みに来たおじさんから、チカちゃんの服装と色を聞き、今朝、チラリとだけ目に入ったスカートの女の子を思い出した。
「私が見たのは、耳の上で結んだ長い髪と、黄緑色のスカートだけで、でも、おばあちゃんと一緒にいたんで」
「おばあさんって、どこの、おばあさんだったんだ?」
そんな言葉に、え? と瞬きをするしかなかった。
チカちゃんのおばあちゃんじゃ、ないってこと?
「あぁ、リカコさん、こっちだ!」
「ユキちゃんが今朝、チカちゃんを見たらしい!」
駆けてくるのは、昨日のしっかり化粧を施した容姿からだいぶ印象が違うが、目を真っ赤に泣き腫らした母親の姿だった。
おじさんに話した内容を繰り返し、リカコさんにも「おばあちゃんって、どこの誰なんですか!?」と、迫られた。
「私は、そのおばあさんの姿も見てませんし、声も、聞いてません、チカちゃんの、おばあちゃんじゃ、ないんですね……」
「私の母は二十年前に亡くなってます!」
「っ……」
誘拐、そんな言葉も誰かから発せられ、リカコさんはその場で泣き崩れてしまった。
「大丈夫、大丈夫だけぇ、みんな、探してくれよるから、なぁ?」
隣のおばあちゃんは、リカコさんの背をさすり、大丈夫だと繰り返していた。
「きのう、私が、チカに怒ったから、人形のことなんかで……、あんなに、ううっ」
「帰って来るから、な?」
「チカは、直してもらうって、出て行って……」
陽は西に傾き、空を赤く染め始めていた。
「ユキちゃん」
背の暖かな温もりに振り向けば、桐矢くんだった。
ホッとしたら涙腺が緩んでしまった。目元を拭われ、肩を抱く桐矢くんの声は優しく温かかった。吐く息は震えていて、自分自身が震えていることに気づいた。
「ユキちゃんは帰ろう、ほら、肩冷えてる」
「ん……」
私は、こんな身近で起こったことに、震えが止まらなくなっていた。
「にゃぁーん」
「しましまさん?」
体を揺らしポテポテと歩いて来るしましまさんは、私の横をすり抜け、リカコさんに体をすり寄せていた。
『りっこちゃんへ
10歳のお誕生日おめでとう!
お母さんより』
今朝しましまさんが拾って来たバースデーカード。
リカコさんのことだったんだ。
気づいたところで、それは、娘のチカちゃんが行方不明なのと別問題だ。
そう、思っていた。
しましまさんの拾い物には意味があるのに。
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