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14・しましまさんと内緒の思い出ー3
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桐矢くんにメロンを一つ持って帰ってもらった。
帰る前、桐矢くんとしましまさんはカゴの中を覗いていた。
お座布の上には今朝、しましまさんが拾って来た手彫りのハンコ。
たしん!
しましまさんが長い尻尾が床を叩く。
たしん、たしん!
「……」
桐矢くんは難しい顔をしてハンコを見ていた。私は揶揄いたくなるのを我慢して何も言わなかった。
まな板の上には真っ二つのメロン。
「やっぱり、大きい……」
とても一人で食べれる量ではないから、半分をラップして隣のおばあちゃんへおすそ分けすることにした。
「あらぁー、まぁまぁ、こんなにいいんかね? ありがとぉーねー」
「どうぞどうぞ、私も一人じゃ食べきれないんで」
「あぁ、そうだ、ちょっと待ってよ!」
「あ、いや、お構いなくー!」
の声は届かず、今日生んだという新鮮卵を三つに、おばあちゃんの畑で採れた茄子、キュウリ、トマト、カボチャ、を持たされ、持ってきたメロンより重くなってしまった。
「あはは、おばあちゃんありがとー」
「いやねー、こっちこそありがとねー」
笑いあって玄関を出たところで、綺麗に化粧した母親と小さな女の子と出会った。
「こんにちわ」
「あら、リカコちゃんかね」
「お久しぶりです」
「まぁ、チーちゃんも大きくなったねぇ」
玄関先で話が始まり、ペコリ会釈をして家に戻った。野菜が重く、手が痛い。
うん、カボチャは、明日桐矢くんに切ってもらおう。固く大きなカボチャは私の力でどうにかできる物じゃないから……。ノコギリとか用意しなきゃダメかな、なんて考えながらメロンを一口大にカットしていく。器に盛り、奥の襖を開けた。
「総司くん、はい、メロンどーぞ」
枠の中の総司くんと向かい合って私も一緒に一口大にカットしたメロンを頬張った。
あ、もうちょっと冷やして置けばよかったかな、とか思いつつも甘いメロンを堪能した。
総司くんは、メロンもスイカも、齧り付くのが苦手な神経質さんだ。口の周りがビチョビチョになるのが嫌らしく、スプーンでちまちますくって食べていた人だった。
私と桐矢くんは服までビチョビチョして齧り付いて食べていた方だけど。
総司くんと一緒になって、私も、メロンもスイカも一口大で器に盛って、フォークで食べるようになった。今ではそっちの方が食べやすいって思うのは大人になったからかもしれない。
十七時のサイレンに、慌てて、縁側にしましまさんを出迎えに行った。
「おかえりー」
太めの体をぽてぽて揺らしながら歩くしましまさん。
体を擦り寄せ、銜えていた封筒を足元に置いてくれた。差出人の名前にニンマリしてしまう。
『雪へ
僕が作ったハンコは、桐矢と同じものですよ』
「へ?」
同じもの? ううん、総司くんの方が先に作ってるのだから、こんな云い方は変だ。
「どういうこと?」
「にゃ」
しましまさんを撫でながら、何度も文字を目で追い、首を傾げる。
カラカラと玄関の開く音に、顔を上げ、続いたのは「ユキちゃん」と、桐矢くんの声。
「え!? 桐矢くん!?」
桐矢くんが、こんな時間に来るなんて滅多にない。
「どしたの? 上がってよ」
「いや、ここで……」と、玄関で桐矢くんは握った右手を差し出した。
受け取る手のひらに置かれたのは、ハンコ。今日しましまさんが拾ってきた、小学五年生の時に図工の授業で作ったハンコだった。
彫られているのは……、
「えっとぉ……、クモの巣?」
「雪の結晶!」
あ、言われれば、そう見えてきた。
「不器用だって、自分でも分かってたんだよ、総兄は」
「え?」
「それ、総兄が作ったものなんだ」
「え……」
「とても、雪の結晶には見えないからって、オレにくれたんだ」
「…………」
「総兄は、ほんとは、これ、ユキにあげたくて作ったんだ、でもさ、ほら、総兄って、破滅的に不器用だろ?」
うん。知ってる。
「総兄はさ、結晶って形で隠して、ユキの名前彫ったんだよ」
「…………」
「ユキはにっぶいから、全然気づいてなかったみたいだけど、総兄は、ずっと、ユキが好きだったんだよなー」
私は、総司くんの手紙から、これ以上を知ってしまった。
『僕が作ったハンコは、桐矢と同じものですよ』
それは、桐矢くんが作ったものも雪の結晶、ということ。
「桐矢くんのはくれないの?」
総司くんからの手紙は私だけの秘密なのに、気づいてしまったら、するりと、そんな言葉が出てしまった。
その後、どんな顔をして、何を話したのか、よく覚えていないけれど、記憶に残っているのは、見たことないくらい真っ赤になった桐矢くんの顔だった。
帰る前、桐矢くんとしましまさんはカゴの中を覗いていた。
お座布の上には今朝、しましまさんが拾って来た手彫りのハンコ。
たしん!
しましまさんが長い尻尾が床を叩く。
たしん、たしん!
「……」
桐矢くんは難しい顔をしてハンコを見ていた。私は揶揄いたくなるのを我慢して何も言わなかった。
まな板の上には真っ二つのメロン。
「やっぱり、大きい……」
とても一人で食べれる量ではないから、半分をラップして隣のおばあちゃんへおすそ分けすることにした。
「あらぁー、まぁまぁ、こんなにいいんかね? ありがとぉーねー」
「どうぞどうぞ、私も一人じゃ食べきれないんで」
「あぁ、そうだ、ちょっと待ってよ!」
「あ、いや、お構いなくー!」
の声は届かず、今日生んだという新鮮卵を三つに、おばあちゃんの畑で採れた茄子、キュウリ、トマト、カボチャ、を持たされ、持ってきたメロンより重くなってしまった。
「あはは、おばあちゃんありがとー」
「いやねー、こっちこそありがとねー」
笑いあって玄関を出たところで、綺麗に化粧した母親と小さな女の子と出会った。
「こんにちわ」
「あら、リカコちゃんかね」
「お久しぶりです」
「まぁ、チーちゃんも大きくなったねぇ」
玄関先で話が始まり、ペコリ会釈をして家に戻った。野菜が重く、手が痛い。
うん、カボチャは、明日桐矢くんに切ってもらおう。固く大きなカボチャは私の力でどうにかできる物じゃないから……。ノコギリとか用意しなきゃダメかな、なんて考えながらメロンを一口大にカットしていく。器に盛り、奥の襖を開けた。
「総司くん、はい、メロンどーぞ」
枠の中の総司くんと向かい合って私も一緒に一口大にカットしたメロンを頬張った。
あ、もうちょっと冷やして置けばよかったかな、とか思いつつも甘いメロンを堪能した。
総司くんは、メロンもスイカも、齧り付くのが苦手な神経質さんだ。口の周りがビチョビチョになるのが嫌らしく、スプーンでちまちますくって食べていた人だった。
私と桐矢くんは服までビチョビチョして齧り付いて食べていた方だけど。
総司くんと一緒になって、私も、メロンもスイカも一口大で器に盛って、フォークで食べるようになった。今ではそっちの方が食べやすいって思うのは大人になったからかもしれない。
十七時のサイレンに、慌てて、縁側にしましまさんを出迎えに行った。
「おかえりー」
太めの体をぽてぽて揺らしながら歩くしましまさん。
体を擦り寄せ、銜えていた封筒を足元に置いてくれた。差出人の名前にニンマリしてしまう。
『雪へ
僕が作ったハンコは、桐矢と同じものですよ』
「へ?」
同じもの? ううん、総司くんの方が先に作ってるのだから、こんな云い方は変だ。
「どういうこと?」
「にゃ」
しましまさんを撫でながら、何度も文字を目で追い、首を傾げる。
カラカラと玄関の開く音に、顔を上げ、続いたのは「ユキちゃん」と、桐矢くんの声。
「え!? 桐矢くん!?」
桐矢くんが、こんな時間に来るなんて滅多にない。
「どしたの? 上がってよ」
「いや、ここで……」と、玄関で桐矢くんは握った右手を差し出した。
受け取る手のひらに置かれたのは、ハンコ。今日しましまさんが拾ってきた、小学五年生の時に図工の授業で作ったハンコだった。
彫られているのは……、
「えっとぉ……、クモの巣?」
「雪の結晶!」
あ、言われれば、そう見えてきた。
「不器用だって、自分でも分かってたんだよ、総兄は」
「え?」
「それ、総兄が作ったものなんだ」
「え……」
「とても、雪の結晶には見えないからって、オレにくれたんだ」
「…………」
「総兄は、ほんとは、これ、ユキにあげたくて作ったんだ、でもさ、ほら、総兄って、破滅的に不器用だろ?」
うん。知ってる。
「総兄はさ、結晶って形で隠して、ユキの名前彫ったんだよ」
「…………」
「ユキはにっぶいから、全然気づいてなかったみたいだけど、総兄は、ずっと、ユキが好きだったんだよなー」
私は、総司くんの手紙から、これ以上を知ってしまった。
『僕が作ったハンコは、桐矢と同じものですよ』
それは、桐矢くんが作ったものも雪の結晶、ということ。
「桐矢くんのはくれないの?」
総司くんからの手紙は私だけの秘密なのに、気づいてしまったら、するりと、そんな言葉が出てしまった。
その後、どんな顔をして、何を話したのか、よく覚えていないけれど、記憶に残っているのは、見たことないくらい真っ赤になった桐矢くんの顔だった。
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